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2-3「ギルドマスター」

「……なるほど。一歩間違えれば大罪を犯していた、と」


 我が意識を逸らしている間に、ラウルたちからギルドマスターへの経緯の説明は終わったようだった。

 神妙な様子で感想を呟くギルドマスターの様子に首を傾げる。


「竜人殺しはそれほどの罪なのか……それは、この国の王が竜人故の話か?」


 確かに間違って殺されかけたのは御免被る事態ではあったが、やたら大仰に語る事に違和感があったので理由を考察してみる。

 竜の強さを鑑みれば、報復を気にする面もあるのかもしれない。

 しかし、この地がアルディス竜帝国という事を踏まえると別の見方も出てくる。つまり竜人という種族が尊重される国なのではないかという考えだ。


「法律上はどの人種も平等だよ。無辜の民を殺害すれば罪は大きい」


 だが、我の考察はギルドマスターに即座に否定された。

 それは前世の価値観からすれば喜ばしい事でもある。個人の人権が尊重される国、というのはそれだけで尊いものだ。

 しかしギルドマスターの話はそこで終わらなかった。


「ただ、竜帝様はこの国ではとても崇められている存在だ。

 だから法律以上に市民が竜人を無下に扱う事を許さないのさ」


 世間的に珍しい種族である竜人が数百年も収めている国。そう考えれば国主と同じ種族に同列に近い敬意を覚えるのもおかしくはないか。


「そういうものか。面倒臭いの」

「面倒……か?」

「うむ。実績もなく勝手に敬われるのは気持ち悪いし、妙な視線を向けられるのも煩わしい。

 そう考えると面倒くさい事この上ないな」


 素直な感想を口にする。この世界で、我の夢は異端だ。目をつけられれば、動きにくくなる。目立つ事は別にいいが、悪目立ちするのは御免被ると言う訳だ。

 それを前提にすると、竜人として目立ってしまえば余計な注目を集めかねない。研究がしにくくなる事は本意ではない。


「そうか……サクラさんと言ったね。遅くなったが魔竜討伐の協力、感謝する」


 ギルドマスターが思い出したように我に向かって頭を下げた。

 そういえば最初の労いは《草原の導き手》に対してのみだったか。律儀な事だと思いながら、感謝の言葉は素直に受け取る。


「なに、彼らの意志に感化されただけよ」

「君はこれまで山に籠っていたと聞いたが、これから先はどうするつもりなんだ?」


 意味深に問いかけられる。何かしらの意図があるような感覚に、少し考える間を置いてから言葉を返す。


「我には夢があるでな、その為には市井に慣れ、金を稼がんといかん」

「仕事の当てはあるのだろうか?」


 何となしに、話の流れが見えてきた。これは我にとっても都合がいい流れのようだ。


「……当ては無い。が、希望する職業はある」

「それは?」

「冒険者だ」


 そう。ラウルたちが事の経緯を説明している間、我の中で纏まった考えが冒険者になる事だった。

 我の答えが意外だったのか、嬉しそうにラウルが声を上げる。


「おおっ! サクラも冒険者に興味があるのか!」

「けどよ、お前の夢って、スーパーロボットとかいうのを作る事じゃなかったか?」


 我の夢を覚えていてくれたらしいニーダが疑問を口にした。確かに、物づくりと考えれば鍛冶師か何かになるのが近道だと考えよう。


「その通りだ。だが、その為には資金も素材も大量に必要になるのでな。

 まずは稼ぐ手段を得る所から、というわけだ」


 作るものが剣や鎧、家具の類ならそれでいい。だがスーパーロボットとは、その大きさだけで規格外なのだ。とても一人で全てを作り上げられるものではない。その辺りまでは流石にニーダたちにも理解を得られなかったようだ。


「なるほど……冒険者に。では、もう一つだけ質問をよいだろうか」

「なんだ?」

「お金を稼ぐだけなら、他にも様々な選択肢があるはず。

 その中から冒険者を選んだ理由は?」


 恐らく。

 ギルドマスターが聞きたがっている本質はここだ、と勘が告げている。

 それが如何様な理由からくるものかは分からないが、ここは正直に答えるべきだと思われた。


「……理由か。色々あるが……」


 メリットは幾つも考えられた。肉体強度や適性に合っている事、一攫千金が狙いやすい職業である事。冒険者になれば各地を巡る事もできよう。そうすればまだ見ぬ素材に巡り合えるかもしれない。一つ所に留まるより目立ちにくいという利点もあろう。

 反面、スーパーロボットを建造するのに必要な膨大な資材を搬入する場所の用意が困難になる、というデメリットも想定される。ただ、無一文の現状では心配する必要が無い問題でもある。

 つまり総合的に一番適した職業が冒険者だと結論付けられたわけだが、この辺りを長々と語る意味は無い。もっと本質……冒険者という選択肢が浮かんだ瞬間、それこそがこの場で最も相応しい答えな気がした。


「そうだな、最初に冒険者がいいと思ったきっかけならこの者達だな」


 両手を広げてラウルたちを包み込むように指し示す。

 この答えは予想外だったのか、ギルドマスターのみならずラウルたちも驚いた顔をしていた。


「私達?」

「まぁ、確かに。俺たちに出来る事はサクラにゃ余裕だろうしな」


 一人、ニーダだけは苦笑気味に自嘲を語る。だがそれは魔竜討伐の功績のみに視点を絞った極めて狭い了見と言わざるを得ない。その後の旅路ではむしろ我の活躍はまるで無かった。


「こらこら、卑屈になるでない。我が言いたいのはそういう事ではない」


 詳細を離すのが気恥ずかしくて端的に説明を纏めたつもりだったが、早とちりされるのは困る。我は別に彼ら《草原の導き手》を貶めようとしているのではないのだ。


「言葉にするのは野暮だと思うがの。民の為、危険を承知で魔竜に挑む正義感。

 互いを補い、高め合う連携と信頼感……まぁ、そんな所に惹かれたのだ」

「はは、なんだか照れ臭いな」

「言わせたのは向こうであろう。我を責めるのはお門違いだの」

「……確かに野暮だったようだ。

 よく分かった。サクラさん、ギルドマスターの権限で貴方をCランク冒険者と認めよう」


 どうやらギルドマスターのお眼鏡に叶う答えだったようだ。

 つまり先の質問は冒険者としての資質を見られていたらしい。


「いきなりCランクかよ!?」

「実力だけで言えば、Bランク……あるいはAランクでもいいとは思うのだがね。

 そこまでの権限は私にはないし、恐らくサクラさんも望まないだろう」

「……ううむ、まずランクがどんなものか分からぬでな。何とも言えぬ」

「あぁ、そうか。なら俺から説明しよう」


 そう言ってラウルから冒険者のランクについて説明を受けた。

 内容を纏めると、ランクはEからAまでを基本に、例外としてSランクが存在する。

 Eランクは冒険者なりたて。低難易度の依頼の成功率も不安定な、先達に学ぶ時期。

 Dランクが一人前。低難易度の攻略が安定し、中難易度の依頼への挑戦が視野に入る頃。

 Cランクがベテラン。複数名での中難易度の攻略が安定し、単独攻略の挑戦が行われる頃。大半の冒険者はここが限界だという。

 Bランクが上澄み。中難易度の単独攻略が安定し、集団での高難易度への挑戦権が得られる。

 Aランクがエース級。高難易度の攻略が安定した者たち。

 そしてSランクは英雄級。他に該当しない一騎当千の化け物。


「……なるほどの。確かに、余計な注目を浴びるのは本意ではない。

 いっそEランクからでもいいのだが?」

「君の実力を鑑みれば、新米冒険者の稼ぎ場を荒らしかねない。

 無用な混乱を避ける為でもあるのだよ」

「そういう事なら甘んじて受けよう」


 話は纏まった。理想的と言っていい好待遇だと認識していいだろう。

 だが、ここまでしてくれるのはギルドマスターの親切だけが理由ではなかろう。向こうには向こうの思惑があると考えて然るべき。尤も、今すぐそれを考える必要もあるまい。


 話が一段落したのをもって、ギルドマスターは盗聴防止の魔道具を停止させた。

 そうしてベルを一つ鳴らす。

 すぐさま、外から先ほど案内をしてくれた受付嬢ミリシャが入ってきた。


「はい! 何か御用でしょうか?」

「彼らに報酬を。それと、サクラさんの冒険者登録と監視印の解除を頼む」


 指示を出しながら、ギルドマスターは何やら紙にペンを走らせるとそれをミリシャに渡した。

 受け取ったミリシャは内容を見て、一瞬表情を強張らせるも、ギルドマスターと視線を交わすと平静を繕い直していた。さすがプロというべきか。


「畏まりました。それでは《草原の導き手》の皆さんとサクラさん、手続きをしますのでこちらへ」


 ミリシャに促され、ギルドマスターの部屋を立ち去る事になった。部屋を出る前に振り返り、一礼する。ギルドマスターは穏やかな笑みを浮かべて手を振っていた――

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