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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第七章『ダグール・レグリゴスは囚われない』

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7-4「引退者と元優勝者」

 闘技大会運営本部。

 基本的に一般人はもちろん、大会参加者が入る機会もない組織の中枢。


 だというのに、何故だかリックドラックはその中枢の中の中枢とも言える運営本部長の私室にいた。

 偉そうにふんぞり返る運営トップのダグール・レグリゴスに呼ばれた為だ。

 ダグールが腰を落ち着けているのに、俺ばかりが立っているという図も面白くなかったので脇に置かれたソファに腰を落とす。


 この場にいるのは俺とダグールのみ。護衛も無しとは不用心だと思うが、ダグールも大会優勝経験者故の自信があるのだろう。同時に、俺が手を出すことはないという信頼も多少はあると思われた。


「闘技大会前ならいざ知らず、今呼び出すとはどういう了見だ?」


 呼ばれた理由を問うより先に苦言を呈す。

 闘技大会は基本的に観戦を目的とした客からの収入で成り立っているが、賭け事が行われていないわけではない。

 大会中に運営のトップと参加者が密会していると思われれば、八百長などを疑われても仕方がない。

 そういった危機意識はあるのか。問いただす俺の言葉に、ダグールは不遜に笑い返した。


「そう怒るな。俺とてそのくらいは理解している。これでも今は運営者だぞ」


 問題は無いとあしらわれた。確かにこの場に呼ばれるまでの隠匿態勢は整えられていた。何せ、緊急避難用の隠し通路を使ったほどだ。

 よほどの手練れでない限り、俺が運営本部に入る瞬間を見る事は出来なかったと納得は出来る。

 ただし、よほどの手練れが相手でない限りの話だ。万が一はいつだって存在するし、下手をしなくとも一都市の年間予算に匹敵する金額が動く大会だ。その裏を暴こうとする輩は必ずいる。

 それを思えば、気が緩んでいると咎められても仕方ないだろう。


「分かっているなら疑いの目を向けられるような真似はするなよ……ったく、それで何があった?」


 だが、責任を被るのは向こうだ。ダグールが大丈夫という以上、これ以上追求する謂れはなかった。

 代わりに話を進める。危険を冒してでも俺を呼んだ理由、そこに興味がないわけでもなかったからだ。


「……会場内を調べてもらいたい。理由は言わずとも察していると思うが」


 試すような目線を向けられる。俺は思わずため息を吐いた。ダグールの言う通り、心当たりは最初からあったのだ。

 闘技大会が始まってから……否、始まる前、リア・ベスタに到着した時からどうにも嫌な目線を感じる事が度々あった。だが、その相手が誰なのかまでは突き止められなかった。積極的に探さなかったのも理由としてあるが、相手が複数、それも巧妙に連携を取ってお互いを隠し合っている狡猾さによる所も大きかった。


 当然、ダグールもその不快な視線を感じる事があったのだろう。それが闘技大会の進行に支障をきたすようなものなのか、あるいは別の謀が企てられているのか。どちらにせよ、明確にしたい意図があるのは理解できる。


「やっぱそれか。確かに妙な目は幾つか感じていたが……だが、そいつはお前さんとこの仕事だろう」

「残念だが、そこまでの力量を持った人材がおらん」


 改めて苦言を呈すも、人材不足を理由に一蹴される。

 闘技大会と言っても運営するのは武闘派ばかりではない。言い分は理解できたが、それはそれで情けない事に変わりはない。そこを何とかするのが運営のトップとしての腕の見せどころではないのか。


 いや、だから俺を頼ろうとしたのか?


「仮にも闘技大会の運営トップが情けないこった。しかしな、俺も参加者だぞ。どうしろってんだ」


 試合中は当然身動きは取れないし、自分以外の試合を観戦する事は認められているとはいえ、参加者である以上どこにいても自然と注目は浴びる。

 どう考えても調査を頼む相手を間違えているとしか言いようがなかった。

 しかし、ダグールは俺の返答に対し、おかしそうに口元を緩ませた。


「お前の部下がいるだろう」

「……なるほど。そういう事か」


 そこまで言われてようやく納得する。どうやらこの依頼は俺宛てではないらしい。俺はあくまで仲介役として呼ばれたという事だ。

 であれば最初からそう言えばいいだろうに、と愚痴りたくなるが言葉にはしない。

 それくらい察しろと茶化される未来しか見えなかったからだ。


「分かった。任せろ」


 話は終わった。踵を返し帰ろうとする俺に、背後から声を掛けられる。


「……約束は覚えているな?」


 一歩踏み出していた足を止め、首だけ振り返る。

 ダグールが語る約束。それはすなわち、サクラの魔法封じの腕輪を付ける事を認めさせる代わりの話だ。

 その為にダグールの下を訪れた時の事を思い出す。


「ありゃ脅迫って言うんだ」


 頭に浮かんだ光景の感想をそのまま述べてみた。


「対価を提示しただけだ」

「ならお前さんの職権乱用だな」


 対価というには私情が入り過ぎる条件だ。もちろん、俺が大会に参加する事が全体の利益に繋がる部分もあるだろう。だが、それだけでない事を俺は知っている。


 俺の指摘が図星だったようで、ダグールは目元を下げて視点を逸らす。わざとらしく咳払いした後、やや小さくなった声を発した。


「言葉遊びはいい。どうなんだ?」

「覚えてるさ。お前さんの心情も理解してるつもりだ」


 ダグール・レグリゴスが闘技大会で優勝を果たしたのは、俺が闘技大会に参加しなくなって以降の事だ。それ以前の大会では、俺はダグール相手に完勝していた。以降、再戦の機会は訪れなかった。俺がル・ロイザにこもり、片腕を失い闘技大会への出場機会を失ったからだ。


 だからこそ、今回俺がリア・ベスタに訪れたことをチャンスと感じるダグールの気持ちは優に想像できたのだ。

 そして、それに応える手段は戦う姿を見せつける事だけだと分かっていた。


「分かっているなら、手を抜くなよ」

「それはどこまでだ?」

「一切合切、全てだ」

「分かった。後悔するなよ」


 最後は簡潔に。

 俺とダグールの邂逅は終わり、俺は運営本部から退出した。




「さて、と」


 用事はまだ終わっていない。

 適当にぶらぶら捜そうかと思っていたら、お目当ての人物はすぐに見つかった。

 雑踏の中に紛れてはいるが、親の顔よりよく見知った顔を見間違えるはずもない。


 相手に気付かれないよう、一旦視界から離れて一回りし背後から忍び寄る。そうして、無防備な肩にそっと手を添えた。


「おい、アイザー」

「げっ! ……あ、いえ。こんなところで奇遇ですね、大将」


 ビクリと跳ね上がり、慌てた様子で笑顔を取り繕うのは我が傭兵団の副長であるアイザー・ファリオンだ。同僚であるリーベンが裏切った事で名実ともに傭兵団ナンバーツーになった男が、何故リア・ベスタにいるのか。

 俺が不在の間、ル・ロイザの傭兵団を指揮しているはずなのだが。


「お前はこんなとこで何やってんだ」

「ア、アハハ……そりゃ大将が参加するってんなら見に来るでしょう、部下としては」


 俺が参加するとどこで聞きつけたのかこの部下は。


「ル・ロイザは?」

「任せました。当面、リリディアの動きがない事は調査済みですから大丈夫です」


 アイザーはやる事はやってきたと自信満々に語る。


 元よりそれは分かっていた事だ。危険が及びそうな気配があるなら、最初から俺とて闘技大会に参加などしていない。サクラへの恩義よりもル・ロイザを守ることが優先だ。こればかりは優先順位を違えられない。

 故に、アイザーを咎めるつもりも元からなかった。


 アイザーがリア・ベスタにいる事は闘技大会の開会式の時点で気づいていた。そういった事情を察していたからこそ、黙っていた側面もある。お互いに見なかった事にする事が最適解だとその時は考えていた。


「……ったく、まあお陰でこっちとしても助かるんだけどな」

「と言いますと?」


 だが、今はアイザーが居てくれた事が幸いした。

 含みを持った俺の言い方に、アイザーが怪訝な表情で首を傾げる。


「ちょっとした仕事を頼みたい。それでここにいる事には目を瞑ってやる」


 俺の発言に、アイザーはあからさまに嫌そうな顔をして見せた。

 アイザーは副団長を務めるだけあって、ポーカーフェイスはお手の物だ。つまり、嫌だと明確に意思表示をするため、わざと表情を作ったのだ。


「なんとなくそんな感じの話だろうとは予想してました。で、何をすれば?」


 嫌だと明示しても拒否はしない。逃げられないと分かっているのもあるだろうが、この状況で俺が頼る重要性を理解しているのだ。


「簡単な調査だ。お前の得意分野でよかったな」


 頭脳担当という俺の不得意分野を補ってくれる頼もしい部下。ル・ロイザの領主をしていた頃はその役をレイニーに譲っていたが、今は以前のように第一線で働いてくれている。

 そんなアイザーに、俺はダグールから頼まれた内容を告げるのだった――

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