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2-2「冒険者ギルド」

「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」


 ラウルに促され、建物を仰ぎ見る。

 冒険者ギルドとは前世で言う市役所のようなものだと思っていたが、建物は想像以上に大きかった。それもそのはず。どうやら解体所や訓練場などが併設しているようだ。


 ラウルたちについていき中に入る。

 開かれたスペースの奥には受付が幾つかあり、近くには依頼書が張られているらしい掲示板や話し合い用のテーブルも幾つか並んでいた。

 だが、どこも思ったよりも人が少なく閑散としていた。こんなものなのか、と思ったが時刻を鑑みれば当然かと思い直す。

 今は日中。仕事のある冒険者は外に出ているのだろう。


「ラウルさん!?」


 素っ頓狂な声を上げたのは受付にいた女性だ。顔見知りなのかラウルたちを相手に気安く声をかけている。


「ただいま。依頼は達成してきたよ」

「予定より早かったですね……ビックリしました」

「色々あってね。詳しい報告をしたいんだが……ギルドマスターに繋いでもらえるかな」


 おや、報告はこの場で行うわけではないらしい。それが一般というわけではなさそうだ。魔竜という危険度の高い討伐対象だからか、もしくは我の警戒を解くと言っていた話と関係があるのか。


「ギルドマスターに……ですか?」

「本当に色々あったんだよ。実は――」


 ラウルが受付嬢に耳打ちする。我に聞かせない、というより周囲に配慮しているようだ。閑散としているといっても数人の冒険者はいるし、ラウルたちが有名なのか依頼内容を知られているのか、ちらちらと視線を感じる。


「えっ!? それ本当ですか!?」


 何を聞かされたのか、受付嬢は目をぱちくりさせながら驚きの声を上げていた。その声に周りの視線が一気に集まる。

 それに気付いたのか、受付嬢は慌てて両手で口を押さえた。

 慌ただしさにラウルは苦笑しながら、我の方を指さす。


「あぁ。それで、関係者のこの子も一緒に連れて行きたい。頼めるか?」

「……わ、分かりました。確認してきますので少々お待ちください!」


 恥ずかしさに耐え切れなくなったように、我の事などほとんど見ずに受付嬢はカウンター奥へと走り去っていった。


「なかなか愉快な娘だの」

「感情表現が豊か、と言ってあげてくれ」


 それからしばらくして、受付嬢はすっかり意気消沈した様子でとぼとぼと覚束ない足取りで戻ってきた。


「えっと……ギルドマスターが詳しい話を伺いたいそうです。

 案内いたしますのでついてきてください」


 そうして受付嬢の案内に従って、我らは階段を登っていった。

 案内されたのは三階。どうやら一番上の階らしい。偉い人が高い場所を好むのはどこも一緒のようだ。


「失礼します。《草原の導き手》の者達をお連れしました」


 受付嬢がノックをして扉を開ける。促されるままに中に入った。

 左側の棚には本が、右側の棚はよく分からない道具で埋め尽くされている。

 正面には立派な机が鎮座しており、その奥の窓際に長身の男が立っていた。


「やぁ。まずは魔竜討伐ありがとう」


 窓の向こうを覗いていた男がこちらへと振り返る。人間に比べて耳が鋭く長い。理人エルフという種族のようだ。腰ほどまで伸びた長髪は滑らかで、顔立ちも非常に整っていた。いわゆる優男風のイケメンといった風体である。

 彼ら理人はどちらかといえば竜人に近く、長命種であり他種族とはあまり交流を取りたがらない者が多いと子供の頃に聞いた記憶があったが、竜人ほどではないと言う事だろうか。

 あるいはこのアルディス竜帝国が特別なのかもしれない。


「それで直接私に報告したい事がある、という話だったね。

 ミリシャ、君は戻りなさい」

「あ、はい!」


 どうやら受付嬢はミリシャという名前らしい。退席を命じられ、慌てた様子で一礼するとそそくさと部屋から出ていった。

 ミリシャが完全に離れた事を確認すると、ギルドマスターは何やら道具を取り出した。

 宝石のようなものが組み込まれた掌大の置物のようなもの。魔道具だろうか。

 道具を掲げ、呪文のようなものを唱え始める。

 ラウルたちは特に何の反応もしていなかった。不利益になるような事をしているわけではないらしい。

 そんな事を考えている間に呪文は終わったようで、宝石のような部分が一瞬だけ輝いたかと思うと部屋中の空気が僅かに震えたような感覚が肌を襲った。


「……これでいい」


 ギルドマスターは張り詰めた空気を散らすようにため息を一つ吐いた。

 何かが一区切りしたのだけは理解できたので、その何かが何なのか聞いてみる事にする。


「今のは何をしたのだ?」

「盗聴防止の魔道具を使ったのよ。これで部屋の外から私達の会話は全く聞けなくなったの」


 我の疑問にはルーナが代わりに答えてくれた。

 魔道具の利便性の一端を垣間見られた。どんな仕組みで動いているのか実に興味深い。勿論、科学優先なのは当然なのだが。

 どちらにしても魔道具もスーパーロボットの開発に必要になるかもしれないと考えるともっと詳しく知るべきだろう。


「さて、これで心置きなく話が出来るな。

 私に直接伝えたい事とは何か教えてくれるか。魔竜討伐は成功したのだな?」

「はい。間違いなく。その証拠に、魔竜の遺骸をほぼ完全な状態で持ち帰る事にも成功しています」


 魔竜退治の様相を思い返す。トドメを与えるまでほとんど無傷だったし、最後は我が首元を噛み切った。確かに九割以上は無事なまま倒せたと言っていいだろう。


「まさか!? いや、それが事実なら確かに君たちの判断は正しかったと言えるが……いやしかし……」


 何故かギルドマスターは驚愕した様子でぶつぶつと何かを考え込むように唸りだしてしまった。


「証拠の一部を見せます」


 ラウルに促され、ルーナがマジックバッグに手を入れる。

 魔竜の頭部がにゅるりと顔を出し、我らとギルドマスターの間を遮った。

 頭部だけとはいえ、部屋の半分近くを埋めてしまった。


「凄まじいな……だが、この切り口は……」


 会話にならないのでルーナが再度マジックバッグに魔竜の頭をしまいこむ。

 その間、ギルドマスターは魔竜の状態について考えを巡らせているようだった。


「……どうやって魔竜を倒した? 《竜滅砲》の魔道具を用いたのではないな?」

「サクラ……彼女が協力してくれたお陰です」


 我の出番がきたようだ。ラウルに促されるままに前に出る。


「その少女が? どういう事か説明してくれ」

「はい。サクラは竜人です」

「竜人!? 馬鹿な、翼も角も尾すらないではないか」


 やはり種族は見た目で判別されるのが普通のようだ。

 そうなると竜化して証明するしかないのだろうか。一先ず、事情の説明はするべきだろうと口を開く。


「我は魔法というものがとてつもなく苦手でな。翼やらを残して人化できるほど器用ではないのだ」

「それは器用不器用の話ではないと思うのだが……」


 正論で返されてしまった。

 肯定する訳にはいかないので、曖昧に微笑んで返事は濁しておく。


「疑念を抱くのは当然です。だからサクラ、腕輪を外させてもらうぞ」


 どうしたらよいか迷っていると、隣からラウルが助け船を出してきた。

 助け船、で合っているだろうか。魔法封じの腕輪を外したところで、魔力が溢れるだけだ。

 我の身体に変化が起こるわけではないのだが。

 それにこんな場所で魔力を解放してしまっては、魔力を感知できる市民に無用の混乱を招かないか。


「……よいのか?」

「あの盗聴防止の魔道具には魔力そのものを通さない性質があるの。だから大丈夫」


 我の疑問にルーナが答えてくれる。魔法や魔道具などがある世界だ。盗聴手段にも魔法が使われておかしくない。それを防ぐ為に魔力ごと阻むのは仕組みとして理に適っている。

 納得がいったところで、我は手を差し出した。


 魔法封じの腕輪は元々魔竜討伐に用いるつもりだったアイテム。魔力を抑制する能力とは言ってしまえばマイナス効果。敵に用いるアイテムが、簡単に取り外せては意味が無い。

 つまり、この魔法封じの腕輪は自分で取り外せるようには作られていないのだ。外部から魔力的干渉を与える事でロックが外れる仕組みと言う事だった。

 故に、ラウルたちが外しやすいように手を差し出すしか我に出来る事は無かった。


「そういう事なら、任せよう」


 魔法封じの腕輪にルーナが触れる。一瞬光を放ったかと思うと、腕輪の一部が分かれ、するりと落ちた。

 途端、正面で様子を伺っていたギルドマスターが大きく仰け反った。背後の机など気にも留めていなかったように強くぶつかる。机の上に置かれていたペンや紙束が音を立てて崩れた。


「……っ!? こ、この魔力は!?」

「これでサクラが竜人である事は理解してもらえたと思う」

「にわかには信じ難いが……これほどの魔力を人間が持つ事は無い……納得せざるを得ないな」


 どうやら納得して貰えたようだ。魔力を感知できない身では、他の種族との違いが理解できないのが悔やまれる。

 だが、こうなるとやはり魔法封じの腕輪は我には必須のアイテムのようだ。

 落ちた腕輪を拾い上げ、再び嵌める。元に戻ったのか体感では分からなかったが、つい今しがたまで怯えていたギルドマスターが咳払い一つで平静を取り戻したので大丈夫なのだろう。


「それにしても竜人の協力とは……何があったか仔細を全て話してもらおうか」

「はい。実は――」


 ラウルたちが一連の流れを説明し始めた。

 彼らの話を耳にしながら、我の脳裏には別の事が過ぎっていた。


 正直に言えば、気が抜けていた。初めて訪れた街の人混みに圧倒された疲れ、竜人として認められた安心、ラウルたちなら過不足なく説明してくれるだろうという信頼。

 そのおかげと言うべきか、頭の中では今後の事を考えていた。

 目指すゴールは決まっている。今度こそスーパーロボットを作ると言う夢だ。

 だが、どうしたらそのゴールに辿り着けるのか。

 一つだけ確実なのは、その為には莫大な資金が必要という事。

 素材の確保にも人材を集めるにも、とにかく金がかかる。しかして、スーパーロボットは金さえあれば作れる物でもない。

 竜人としての人生は長いが、だからといって悠長に金稼ぎだけに邁進していてはゴールには到達できまい。

 つまりなるべく迅速に、且つ素材探しの為にも色々な場所を探索できる仕事が求められる。

 その条件に該当するものは――

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