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6-19「開会式」

 受付を経て、我とミリーは別室へと移動した。魔法封じの腕輪を受け取る為だ。

 既に事情を聞き及んでいたスタッフの手によって、速やかに魔法封じの腕輪を付けられる。

 装着が確認された後、元々つけていた魔法封じの腕輪改を外した。改の方は我が自由に付け外しが出来るが、魔法封じの腕輪は装着者本人は外せない仕様だ。しかもこの魔法封じの腕輪は大会運営の者しか外せない特注品だという。それくらいのセキュリティはむしろ合った方が信頼を得られて良いと言うものだ。

 魔法封じの腕輪改の方はマジックバッグに仕舞い、運営に預けた後レイニーたちの下へと向かう。


 レイニーもリックドラックも分かれた地点で待ちぼうけていた。どうやら我らを待ってくれていたらしい。

 律儀さに苦笑しつつ、揃って大会のメイン舞台である円形闘技場に足を踏み入れた。


 ワアアァァァァァァァァ――


 耳鳴りを患いそうな程の歓声が全周囲から全身へと降りかかってくる。思わず耳だけでなく目さえも顰めてしまうほどの衝撃に、一瞬躊躇を覚えたが、隣を歩くレイニーが我の手を引いてアリーナへと誘った。

 一歩、また一歩と踏み込めば段々と辺りの様子も見えてくる。


 周囲は階段状の観客席となっており、数十段はある席は人・人・人で埋め尽くされていた。正確な人数は把握できないが、前世に存在した闘技場が大よそ五万から十万人規模だったので、大体同じくらいだと思っていいだろう。

 それだけの人数に囲まれた中央のアリーナはだだっ広い砂で固められた殺風景な広場だった。だが、それでこそ闘技大会の場と言える。武と魔をもって競う場に華美な装飾は相応しくないのだ。

 尤も、今その殺風景なはずの舞台は屈強な肉体を誇る猛者や魔法の研鑽を極めた知者たちで埋め尽くされているのだが。


「ご来場の皆様! ついにこの日がやってきました!

 最強の戦士が決まる至高の舞台! 第四十五回リア・ベスタ闘技大会の開催です!」


 突如、上方から会場の熱気をそのまま言語と化したような暑苦しい声が降りかかる。

 どうやら開会式が始まったようだ。


「物凄い熱気だの」

「そりゃ国を跨いだお祭りだからね。稀にだけど敵対国の人も参加したりするみたいだし」

「他国にも似たような大会はあるけど、規模としてはここが世界一なのは間違いないわね」


 アルディス竜帝国は大陸の中央部にあるという。立地としても世界中の猛者を集めやすい土壌にあるのだろう。その上、他種族共存国家でしかも武を貴ぶ国とあれば、他国も参戦しやすいに違いない。


「司会は私、トリオ・ガランゾがお送りいたします!

 そして解説を致しますはこちら――」


 トリオと名乗った司会が解説役を紹介しようとする。その刹那、何故かあれだけ盛り上がっていた会場の歓声が一瞬、しんと鎮まった。謎の事態に、思わず我は司会らが佇む席へと目線を向ける。

 トリオは隣に座っていた男に向かって一礼していた。ここまでだけで相手が余程の大物である事が伺える。

 トリオの紹介を受けて立ち上がったのは、丸太の如き太い四肢を惜しげもなく見せつける屈強な男だった。とにかくでかく、はちきれんばかりの筋肉は正に闘技場の王を思わせる。浅黒く日焼けしたその顔は厳しく、鋭い視線は闘技場の舞台へと注がれている。数多の戦士を品定めしているようにも見えた。


「ダグール・レグリゴスだ。解説は不慣れな身だが、よろしく頼む」


 男は短く端的に名乗り、頭を下げた。ぶっきらぼうだが礼儀を弁えている、という感じだ。


「うおおおおおお!? 本当にあのダグールか!?」

「きゃぁぁぁ! ダグール様あああぁあ!」


 途端、出場戦士と観客を問わず歓声がわっと溢れかえる。それまでも十分な熱量を持っていたが、遥かに超えてくる熱さと勢いを伴っていた。


「な、なんだ。急に周囲がヒートアップしだしたぞ?」

「あの人、前回の優勝者だよ。それ以前も好成績納めてる超有名な戦士」


 すかさずミリーが解説してくれる。なるほど、花形スターの登場というわけだ。

 ダグールなる戦士の魅力は分からないが、スターの登場に興奮する気持ちはよく分かる。絶体絶命の大ピンチに颯爽と現れるスーパーロボットみたいな感じなのだろう。


「ちなみに今の闘技大会運営の責任者でもあるわ」

「大会の常連が責任者に回ったというわけか」


 更にレイニーが補足を入れてくれた。運営側に回ったという事は戦士としては引退したと言う事だろうか。そこまで踏み込んで考えるほどダグールに思い入れはないので、推測程度で納めておくことにする。


「そう! 皆様ご存じの通り前回大会で優勝を勝ち取り、今はこの闘技大会の運営を一手に担うあのダグール様が! 解説として参加されます!!」


 トリオの司会進行にも熱が入っている。やはり闘技大会のファン層にとっては一大事らしい。


「職権乱用と言われても仕方ないが、俺が今回この場に座る事を決めたのには幾つか理由がある。

 それはこの闘技大会が進めば皆も理解するはずだ。俺の解説に不満がある者がいれば、その後で聞こう」


 どうやらダグールなる人物が解説を務めるのには理由があるようだ。それが如何様なものか、我に推し量ることはできないが、不利益を及ぼすことでない限り、正直どうでもよかった。


「さて、今年から参加条件が設定されましたのは皆様ご存知でしょうか!?

 それによって参加者の減少が危ぶまれていましたが……なななんと、参加資格をもぎとった強者の総数447名!!

 前回の5873名からは大幅に減る事となりましたが、それでもかなりの人数が集まりました!」


 どうやら昨年までは大会出場者の桁が一つ違ったらしい。今でさえ出場者が集う舞台内はかなり窮屈だというのに、十倍以上もの出場者がいた前回はどうしていたのだろう。そんなどうでもいいことを考えている内に、司会進行は進んでいく。


「で・す・が! 本戦に勝ち上がれるのはこれまでと変わらないたったの十六名!

 そうです。皆様が期待する頂点を決める戦いには何ら影響はないのです!

 大半はこれから行われる予選で脱落してしまうのですから!」


 言い分からして、予選は観客的にはそこまで盛り上がるものでもないらしい。

 五千以上の戦士を十六名まで削ぎ落そうというのだからさもありなんか。むしろ前回までその人数からどうやって絞っていたのか気になるところだ。わざわざ調べようとまでは思わないが。


「それでは引き続き、ルールの説明を行っていきたいと思います!

 まずは予選について! こちらは八グループに別れてバトルロワイアル形式で行われます!

 各グループの上位二名が本戦に出場できるのです!」


 おおよそ五十名前後が一斉に戦おうというわけか。多少手狭ではあるが、その人数なら闘技場の舞台でも戦うことは出来そうだ。


「なるほどの。であれば、皆がばらけるのが理想だの」

「そうね。確率的によっぽど無いとは思うけど、被っても二人までに抑えたいわね」


 万が一三人が同じグループになってしまえば、その時点で賞金の目途が一人分減るのが確定してしまう。くじ運についてはあまり自信はなかったが、確率的に考えればむしろ揃う方が難しい。そこまで怯える必要はなさそうだった。


「予選ではアリーナ全体を使用します。気絶もしくは降参によって敗北が決定。最後まで残った二人が本戦出場となります!」


 かなりシンプルなルールのようだ。しかし、降参はともかく気絶となるとやや難易度が高い。強すぎる攻撃は気絶を通り越して致命傷を与えかねない。相手は少なくとも参加条件を突破した猛者たちだ。うまい具合にダメージを与えられるか。


「ちなみにご存知の方も多いと思いますが、アリーナ内には特殊な結界が張られております。

 こちらの中では致命傷を受けてもある程度の傷を『なかった事』にできるものとなっております!

 また、専用の医療スタッフも配備しておりますので参加者の方々は思う存分実力を発揮して頂いて大丈夫です!」


 ――などと抱いていた懸念は、続く司会の説明で一掃された。

 闘技大会を安全円滑に執り行う準備は整っているらしい。なるほど、だからこれまでも大会を続けてこられたのだろう。毎度死人が出ているようでは、一部の愛好家はともかく一般大衆には刺激が強すぎるし、かといって温い試合ばかりでは退屈を誘うに違いないのだから。


「ほう。仕組みが気になるところだの」

「失われた技術らしいわよ。サクラなら再現できるかもしれないわね」

「ちなみに、この結界があるからリア・ベスタは世界最高の闘技場になれたんだよ」


 レイニーからとんでもない期待を寄せられてしまった。ダメージを軽減するという仕組みに興味が出ないわけではない。しかし、実物を見たことがないので何とも言えないが、話を聞く限りでは完全に魔法の領域だろう。食指が動くかというと、正直そこまでのものではない。だが、仮に今後スーパーロボットの製作に辺り、コクピットの安全確保などの課題に直面した場合は一考に値する材料となるかもしれない。


「そして勝ち上がった十六名は再びくじを引いて頂きます。これによってトーナメントの順番を決定。

 本戦では中央に舞台が設置されます。気絶や降参の他、舞台からの落下も敗北となるので要注意です!」

「本戦の方が制限が増えるのか」

「一対一と集団戦の違いよ。というか、舞台無くさないと五十人以上が同時に戦うなんて無理だもの」

「それはそうか」


 どうやらアリーナがだだっ広い空間であるのは今だけで、本戦が始まる際には専用の舞台が設置されるらしい。


「前まではそのめんどくさいバトルロワイアルを何十回か繰り返したってんだから、参加条件ついてよかったのかもね」


 ミリーの何気ない一言で、先ほど抱いた疑問が氷解した。なるほど、このアリーナで予選を繰り返していたのか。単純計算でも十倍以上の回数をこなす事になる。それはだれてしまって観客的にも面白味を感じなくなっても仕方ない。出場条件を設定したのは大正解だと言うべきだろう。


「また持ち込める武器は魔道具を除き全て自由! これは良質な武器の獲得も戦士の技量と捉えている為です!」

「なら魔道具も認めてくれていいと思うのだがの」

「まぁまぁ、色々あるんだよ」


 トリオの司会進行は続いている。しかし、どうにも納得しがたい部分がありつい愚痴が零れてしまった。魔道具を許容してくれれば面倒な過程が省けたというのに。


 ミリーには宥められたが、我とて多少の想像は働く。優れた魔道具が個人の力を超越してしまう結果、武技を競い合う闘技大会と相性が悪くなる事は理解しているのだ。かつて我が一撃必殺されそうになった《竜滅砲》などをもしホイホイ用意されでもしたらたまったものではない。

 だから大会側が禁止する理由は分かっているし、理解もしているのだ。それはそれとして愚痴を吐きたくなるのも人情というものだ。


 そうこうしている内に、闘技大会の説明は一通り終わったようだった。

 次はいよいよ予選が始まる。期待と不安を胸に秘めつつ、今はただ流れに身を任せるのみだった――

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