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魔術師Aが死んだ  作者: 森野小鹿
4/12

Aの日記

「B、これはAが残した日記です。」



Mは分厚いノートを机に置いてそう言った。



Mは暇なのか、最近長期休み中の子供かと思う程Bの所に遊びに来るようになった。

Mが来るのは全く問題無いが、来たところでダラダラ過ごしているだけだ。

暇そうなのでBの仕事を少し手伝ってもらい、落ち着いたら研究室内の適当な机でお茶休憩を取るのが最近のお馴染みになった。

今ふたりはフルーツタルトと紅茶を飲んで休憩している所である。




BはMの言葉に引いた。

「……お前達のデリカシーの無さには驚きを隠せない。」

「心外です。何を言っているんですか、Aが我が国にとってどういう存在かは、Bもわかっているでしょう。Aの持ち物も書いたものも全て、目を通されるに決まっているでしょうが。Aは理解していましたよ。」


「悪趣味だ。」


理解はしている。だが生理的に嫌だ。

自分の死後に多くの人間に日記まで暴かれるだなんて、想像するだけでゾッとする。



BはAがただ眩しくて妬んでいたが、最近少しずつAを取り巻く環境が見えてきて、微妙な気持ちになっていた。



──Aは理解していましたよ、か。



あの太陽のような笑顔の下に、Aはどれだけの諦めを隠していたのだろうな。



Bが渋い顔をしていると、Mが少し笑った。


「そんな顔をしないで下さい。国が所有したいのはAの仕事の成果に関するものだけです。必要なものは魔術で分類して既に国に提出しています。勿論Aの部屋にあったものは全て確認する必要がありますので、残ったものも目を通しますが、それをするのは私と宰相だけです。B。何故私のような序列中頃の魔術師が長年Aの助手をしていたとお思いですか。」


「……君が我が国1番の《書類分類魔術》のエキスパートだからだ。」


Bも最近Mの能力の恩恵に預かっている。


「そういう事です。この日記は私と宰相以外、手に触れてもいません。それにこの日記を改めたのは宰相です。私は読んでいませんよ。」


「流石だな。」



「私はAを尊敬しています。Aのプライベートな情報を余計に暴くつもりはありませんし、外部に漏らすなんてもってのほかです。」


Aの個人的なものに関して国は関与しない方針で、処理は宰相とMで判断する事になったという。



「その上で、これは貴方に。」 


MはノートをBの方へ押した。


「これは貴方が持っていた方が良いという判断で、こちらにお持ちしました。宰相が判断した事なので遠慮はいりません。差し上げますから、貴方の判断で処分しても構いませんよ。ああそうだ、これも。」


Mは一枚のペラのメモをノートの上にのせた。


「こちらもどうぞ。」



では、また来ます。Bが私をこき使うから、今日はもう疲れました。


そう言ってMは帰ってしまった。



「何でこんなものをまた。」

Bは途方に暮れた。



◇◇◇



Bが何ともいえない気持ちでメモに目を落とすと、気になる文字を目に拾った。


「B、魔術センス」



「……?……何だこれ……。」



MからもらったAのメモをふと見ると、左上に『A』と書いてあり、左中頃に『B』と書いてあった。


自分の名前だ。Bは顔をしかめる。


「…何だこの表は。」


Aの右側には『魔力量』『評価』『愛想』『美貌』『王宮の最新式ラボ』等とズラズラ書いてある。


Bの方には『魔術センス』『課題意識』『自宅研究室』『精度の高さ、正確さ』『細長い脚(足長蜘蛛の様だ)』『ギョロ目』『目の下のクマ』『暗いムード』『猫背』などと書いてあった。



最初の数個は「AとBがそれぞれ魔術師として何を持っているか」を表にしようとした落書きだろうと考えられたが。



──……え、暗いムード……? 私の方、どんどん悪口になっていないか?


「なんだ足長蜘蛛って。失礼な。魔術関係ないだろ。」



Aの野郎。特に仲も良くなかったのに、何故私を引き合いに出すんだ。


個人的なメモでまでAに神経を逆撫でされる日がくるとは。



『その上で、これは貴方に。』



BはMの言葉を思い出した。


「……アイツ。嫌がらせで持ってきたのか?」


彼ならやりそうだ。

Mの小憎らしい塩顔を思い出し、Bはこめかみがピクピクしてきた。


「内容によってはお望み通り遺体を八つ裂きにしてやろう。」



Bは物騒な事を呟きながら、日記を開いた。



◇◇◇



「……………………。」



Aの日記の内容は、Aが魔術師として入城した時から始まっていた。 

最初の数ページこそ初々しい様子だったが、そこから前半1/4程読んだ段階で、ほぼ全頁が仕事の愚痴文句の羅列だった。

やれ面倒臭い、やれダルイ。

そんな事ばかりが書いてある。


──こんな低いモチベーションでよくAの業務が務まったものだ。


Aの魔術は規模が大きいだけではない。緻密によく練られた、洗練されたものだ。


まさか「早く帰りたい」「今日は夕飯の事だけ考えていた」「給料日が遠い」だなんて疲れた役人のような事を考えながらあの美しい魔術を使っていたとは誰も思うまい。


呆気に取られながら読み進めていくと、あるページではじめて仕事の愚痴が止まった。



『XXXX年XX月XX日 背の高い青年が城にやってきた。先代のBが亡くなられてから空いていたBの席は彼が得た。』



それは自分が入城した日の内容だった。



◇◇◇



──えっ、何。なんで?



Bは動揺した。Aとは目も合った事がない位の間柄だったはずだ。


Bの動揺をおいて、それからAの日記には日常の愚痴文句に加えて時々Bの話題が付け足されるようになった。

もしかしてライバル心でも抱いてくれているのかと最初は少し期待したが、読み進める内にそういう訳ではないとわかってきた。



──これは恐らく、子供がカブトムシの観察をする時と同じ目線だと思う。



Bは微妙な気持ちだ。



『XXXX年XX月XX日 定例会。Bは助手になったNとやってきた。ああまでベッタリ一緒にいて、よく会話が続くものだ。ずっと2人で喋っている。』



──うるさい。放っておいてくれ。



『XXXX年XX月XX日 渡り廊下でBとすれ違う。申し訳程度に会釈をされたが、あからさまに苦々しい顔。私がAで自分がBなのが気に入らないらしい。若造の癖に。』



──誰が若造だ。多分1〜2歳程度しか変わらないだろう。



『XXXX年XX月XX日 定例会。BはNと来る。クッキーには胡桃が入っている方が好きか、入っていない方が好きか、どこの店のものが好きか等、延々話している。楽しそうだ。可愛い。』



────は?


『XXXX年XX月XX日 定例会。前から思っていたがBは目が大きいな。まつ毛も長く、横顔が美しい。Nと何かを話してお腹を抱えて笑っている。普段出ないのに、爆笑する程笑うとエクボができるんだな。発見だ。』



────?????



『XXXX年XX月XX日 定例会。Bの研究についての説明発表。一般市民が生活魔術を使えるようにする《魔術紙》を研究開発するとのこと。

現状では、《魔術紙》の効力を仮に単発で一回のみとした所で奇跡に近い。


「研究は難航しているが必ず成果をあげるので、研究許可が欲しい」

とBは言ってのけた。


生活魔術は複数の魔法をかけ合わせるだけではなく安全なレベルにする為の調整が難解だ。他の魔術師にはとてもじゃないが、提案する所か思いつく事すらできないだろう。すごいな、彼は。


宰相補佐がBの研究に興味を持ったようで、定例会後Bと話し合っている。』



『XXXX年XX月XX日 定例会。Bは少し痩せたのか?目の下の隈がすごい。研究に集中しているのか。心配だ。』



──……なんだこれは。Aは私の事を甥っ子だとでも思っていたのだろうか。



それからもAの日記には定期的にBが登場し、あれこれと観察されていた。


Bは意味が分からなかった。

自分の成果の話は勿論、他の魔術師の成果やBの成果の話も本当に少ししか触れておらず、日々の細々とした話とBの様子だけが日記の中心だった。



──何だ?何が目的なんだ???



Bはよくわからないままに読み進めていったが、あるページで手が止まった。



『XXXX年XX月XX日 早朝、Nが遺体になって発見された。死因は凍死。調査の結果、夜中に痴呆で徘徊していた老人に冷蔵室に閉じ込められた事が分かった。冷蔵室は中から開けることができない。

該当の夜、Nは魔力を使い切っており、魔術で助けを呼ぶ事が不可能な状態だった。」

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