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魔術師Aが死んだ  作者: 森野小鹿
2/12

B、狼狽える

Bは狼狽えた。


一度キッチンへ行き、コーヒーを飲んだ。 


よし、落ち着こう。

まずは揶揄われている可能性も考えるべきだ。



──防腐処置魔術を施してしまったら本当に蘇生ができなくなるぞ。



BはAの人となりについて詳しくなかった。

「良く笑っている綺麗な人」位の認識しかない。

あれだけ笑っているという事は、陽気な人間なのではないだろうか。陽気な人間は時々突拍子もない悪戯をするもの、かもしれない。


Bは産まれてこのかた陽気だった事が無いので、陽気な人の考えは分からない。

なので想像するに。



……Aは仮死状態の可能性があるだろう。



Bはコーヒーを飲み終わると部屋に戻って棺を開き、遺体(仮)の魔術解析を行なった。



結果、Aは確かに亡くなっていた。



Bはコーヒーを飲みに、またキッチンへ行った。



◇◇◇



待って待って。どういう事だ。

これは揶揄いなどではない。確かにAは亡くなっている。


防腐処置は行わず、Aが亡くなってからここにくる数日間の間は、《時を止める魔術》で遺体の時間を止めていたようだ。



……それにしても、C以下の魔術師で時を止める魔術を使える人間がいたのかと思うと、もしかしたら想定よりこの国の魔術師は育っているのかもしれない。

参考の為に、後で宰相に魔術師達の能力調査票を送って貰おう。



──それはさておき。

Bは部屋に戻ってAの遺体に《時を止める魔術》を上掛けした。


Bだけの力があれば、この《時を止める魔術》で好きなだけ時を止める事も、また魔術を解くことも自在だ。ちなみにBはこの《時を止める魔術》を、食品の鮮度を保つ為に利用している。


まさか人間に使う日がくるなんて。



Bは思わず

「本当やだ……」

と呟いた。




それからBは、Aの助手のMを呼び出す事にした。



◇◇◇



Mは長年仕えてきたAが亡くなって暇なのか、呼んだらすぐにやってきた。



相変わらず塩顔だな。

BはMを見て、どうでも良い感想を抱いた。

Mの方でもおそらく「相変わらず辛気臭いソースだ。」とでも思っているに違いない。そんな表情だ。とはいえ、お互いにお互いの顔なんぞ興味がなかった。



「こんにちは、B。お邪魔します。おや、遺体が無事だ。まだ八つ裂きにしていなかったんですね。」


「するか!」


Bは玄関に入ってすぐ右に用意しているテーブルセットにMを座らせ、コーヒーと焼菓子を出した。


「わ、マカロンだ。これは大通りに最近できた焼菓子屋のものですね。Bはこういうものがお好きなんですか。」

「こういうものがお好きだ。君は甘いものは食えるのか。」

「食えます。これは美味しそうだ。お気遣いありがとうございます。」


BはMの向かいの席に腰をかけた。

Mが優雅にお茶を楽しむのを肘をついてジトリと見ながら、Bは椅子に横から座るような姿勢で、長い足を伸ばすようにして組んだ。



「それで、どういう事なんだこれは。」


Bは足先で棺を指すようにした。


「見ての通り、Aのご遺体です。Aが病にかかっていた事はご存知でしたか?」

「いや」

「そうですよね。何せトップシークレットでしたから。国民への告知もAの後任が決定した後になります。国中に混乱が起こるかもしれませんし。」

「そうか」

「Aは後継に貴方を推薦していました。魔力、知識、技量、その他全てにおいても貴方以外の適任はいないと。」


Mはコーヒーを一口飲んで「旨いですね」と言い、話を続けた。


「でも、貴方はずっとAの事を目の敵にしてきたでしょう?Aの業務内容は集中力を欠いた状態で行うと命の危険が伴うものもあります。

貴方に遺体を渡してほしいと言ったのはAです。

業務に全集中できる為にも、まず気持ちをスッキリさせた方がよいと。Aは『死んでしまった後はどうされようと構わないから、Bに遺体の権利を渡して、煮るなり焼くなり八つ裂きにするなりしてもらおう』と言ったんです。」


「な」


なんて極端な。



「私もAと散々話し合い、心に折り合いをつけていますよ。文句をいうつもりもありません。心おきなく八つ裂きにして下さい。」


「いやいやいやいや」


折り合いをつけないでくれ。



「そのかわり、どうぞAの後継になってくださいませんか。」



「……それは私みたいな引きこもりではなく、CからFあたりの人間がやった方が適任だと思うのだが。《時の魔法》を使える人間がいるだろう、それは誰だ?」


「Aの遺体に《時の魔法》をかけたのはAご自身です。」


Mは、ピラリと術式の紋様の描かれた紙を懐から取り出した。


「貴方が作られたんでしょう。この《魔力を貯める術式》の紙は。魔術師全員に配布していたではないですか。これは私の物ですが、Aはご自分のものにあらかじめご自身の魔力を貯めておいて、最期に《時の魔法》を自らに施し亡くなられました。」


Bが困惑している間にMは「ご馳走様でした」と言いさっさと帰ってしまった。



Bは頭を抱えた。

Bは棺を開いた時、はじめてまともにAの顔を見た。

美しい人だった。

しかし遠目でみた時と比べて、なんと痩せてしまった事だろう。

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