7話 ロビー
ワープゲートを抜けた先は最初のホールだった。ようやく帰って来たのだった。
改めて見てみるとどこかの教会か修道院なのだろうか。
天井のガラスはよく見るとステンドグラスになっており、そこには女神のような女性がこちらに手を差し伸ばしている姿が描かれている。
天井に気を取られていて気づかなかったが白いローブ姿の奴らが俺達を囲っていた。こいつらもダークエルフなのだろうか?フードを目深く被り顔が良く見えない。
こいつらは魔術師なのか?白いローブ姿の奴らが詠唱してから俺達は転送させられた。そういえば、転送時は体が折りたたまれてあの洞窟に飛ばされたが帰りはワープゲートに入ってそのまま帰ってこれた。
正直、ワープゲートでいけるならそっちの方が良かったのに。
わざわざ転送方法を変える意味がどこにあるのだろうか?なんか無性にモヤモヤした。
「帰ってきたか」
ダークエルフの男は俺達を見下ろしていた。
あの冷たい目だ。
「てめえ…」
俺は静かに睨み返す。
「たったの2人…いや3人か。人間とは弱い者だな」
ダークエルフは静かに俺の右隣を見つめながら言った。多分そこに田中がいるのだろう。
「おい…説明しろよ!! 俺達は何でこんな事に巻き込まれている。こんな物のためにどうして俺達はこんな事をさせられてるんだよ?」
俺は手に持っていた神具に目をやる。一体こいつはどれ程の力があるんだ。あんな大量の人が死んでまでこいつを手に入れる必要があるのか?
あるのなら理由を教えて欲しい。
「前に説明しただろう。それ以上でも以下でもない」
「ふざけんな!? 固有スキルの事なぜ事前に説明しなかった?」
「説明する意味がなかったからだ」
「なんだと…お前…ふざけんなよ」
ダークエルフは静かに見つめる。冷たい目だ。
またその目だ…腹が立つ。
「答えろ…なあ…」
「転送前だと固有スキルは判別できないんだよ。魔素区域に入り、魔素の干渉に合う事で初めて固有スキルは発現する。」
知らない女の声がした。声の主はどこからか俺達の前に現れた。
艶のある黒髪を靡かせながら、俺達に近づいてくる。品のある歩き方をする女性だ。
20代前半だろうか?スタイルがよく身長が高く見える。
「エリカ…お前が出てくる幕ではない」
「ラウル。命令するなよ、私はそういうの嫌いなんだ」
そう言って彼女はダークエルフをの言葉を静止した。あのダークエルフの男はラウルというらしかった。この男と親しいのだろうか?
「ねえ…治療しなくていいの?」
「え?」
「あんたの相方の腕。取れちゃってるじゃない」
そう言って彼女は菊池を指さした。
俺がお願いしようとする前にいつの間にか彼女は俺の隣に来ていた。いい匂いがした。甘く優しいアロマのような香りだ。自分から匂いを嗅いでいないが、鼻が引くつく。勝手に嗅いでしまうのだ。
エリカ匂いだけでなくとても綺麗だった。薄暗いこのホールだとよく見えなかったが、近づいてみるとよくわかる。はっきりしたタイプの美人だ。化粧をしなくても綺麗さが際立っている。人を惹きつけるタイプの美人だ。
「貸して」
そう言って彼女は俺の手から菊池の腕を受け取り、菊池の体にくっつけた。そうして、優しく人差し指で切断部位をなぞった。すると、綺麗にくっつき傷跡一つなくなっていた。
これが彼女の固有スキルなのかもしれない。
「こいつを診療所に連れていくよ。どうせ、ロビーにつれていくつもりなんだろ?」
ロビー?と俺は疑問が生じた。一体何の話だ?この後どこかに連れていかれるのか?
いやでも俺はこのダークエルフの男に聞きたい事が山ほどあった。疑問は何も解決していない。
「いや俺はまだこいつに話が…」
彼女はすぐに否定した。
「やめときな。ラウルは喋らないよ。エルフはいつだってそうなんだ。私が説明してやるよ」
そう言って彼女は菊池を担ぎ歩き始めた。
俺達はエリカに付いてくことにした。
ホールの端には奇妙な扉があった。扉の先階段が続いていた。しかし、先は暗闇で全く見えない。彼女が壁をタップすると足元だけを照らされるよう小さな蝋燭のようなものが点灯した。
しばらく階段を進むと、暗いトンネルのような通路にたどり着いた。ネズミか何か小動物が走る音が聞こえる。距離感がおかしくなりそうな暗闇をひたすら歩き続けた。カツカツカツと歩く音が響き渡る。
「私は奴らの目的も、ここがどこで何なのかも詳しくしらない。でもこれから起こる事とここのシステムについては教えてあげる事はできる」
「システム?」
「あんた帰ってから、ステータスを見た?」
「いや…」
と俺は首を振った。
急いでステータスを表示する。
そこには新規で項目が追加されていた。
【名前】:乾尊
【ランク】 C
【所持G】10万G
【ステータス】
HP:15
魔力:3
筋力:12
スタミナ:12
走力:9
そこには【ランク】と【所持G】の項目が追加されていた。
「このランクていうのは自分の立ち位置とミッションの難易度に依存している。多分今のあんたはCランクだろう。最初のミッションをクリアしただけだから」
そうして彼女はつづけた。
「ランクはC~Sまである。振り分けが行われた後はミッションの難易度に分かれて転送されていく。ちなみに私はAランク」
「所持Gってなんだ?」
「生存率と魔物撃破の貢献度に応じて振り分けられ。あんたは多分かなりの額貰ったじゃない?でも、まあCランクのミッションだから言う程じゃないのかもしれないけど」
「お金があるって事は使う場所があるのか?」
「あるわよ」
そう言って彼女は笑った。彼女の笑った顔はどこか他人を惹きつける。
「あのラウルという男…ゲーム好きなのか?もしかしてこの世界にもそういったゲームとか存在するのか?」
「しないね。あるわけないじゃない」
そうして、暫く沈黙が続いた。他にも向こうから説明してくれるのだろうかと、ちらちらと様子を伺ったが全くその素振りがない。
というか俺、女の子と話すのも久しぶりだ。なんかそう思うとそわそわしてきた。別に気がある訳じゃないけど…妙に緊張する。
そういえば、田中はどこいった?あいつずっと姿を隠しているのか?
このまま沈黙が続くのは居心地が悪い。
仕方ない…俺から自己紹介するか…
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は乾尊」
「っそ。で…あんたは?」
そう言って何もなに空間に尋ねる。するとそこから田中が姿を現した。ずっと俺の隣にいたらしい…
あれ?…でもこいつあの洞窟の時、固有スキル『ステルス』中は目も見えず、外の音も聞こえないと言っていた。
だが、今普通に彼女の問いかけに姿を現した。
こいつ…嘘ついてやがった…
「俺は田中源」
「そ、いいスキルね」
へへと田中は気色悪い笑みを浮かべていた。まじで、こいつ後でぶっ飛ばす。
それから暫く歩いて俺達は壁のぶつかった。
どうやら行き止まりだ。彼女は道を間違えたのだろうか?
「さあ、ついたわ」
「え?ここが?」
そこは何もない壁だった。
彼女はそっと壁を触れると俺の方を向いて笑った。
光が漏れてくる。
「そう、ようこそ…ロビーへ」