6話 神具
『まだ力を求めるか…神に背いた業を…お前達には悪いがここで消さしてもらう』
そう骸骨が言うと大剣の炎が大きく燃え広がり始めた。地面からは紫の灯りが漏れ出している。どうやらこれが魔素というものらしい。何か体の中でほんのりと暖かく感じるのだ。血行が良くなるような感覚に似ている。
骸骨の炎は体中に燃え広がっていく。しかし、骸骨も渾身の力で大剣を握り締め、こちらに向かって切り込む構えを取った。
大技がくる。奴の最後で最大の攻撃が…俺の直感がそう言っている。多分この攻撃をかわせば俺の勝ちだ。だが、かわせなければ…死が待っている。
骸骨が構え最後の一撃を放つ瞬間、後ろから何かが当たった。
骸骨は一瞬気を取られ振り返るが、そこには何もない。
田中だ…田中が時間を稼ごうとしてくれたのだろう。
「ソトニ…ソトニ…ソトニ…」
俺は再び大量のハエを召喚する。やれれる事だったらなんでもやってやる。
何度も何度も早口で詠唱を繰り返す。
唾液が減って、噛みそうになるが構わず唱え続ける。
骸骨はまだ、田中を探してキョロキョロしている。
俺は短刀を骸骨に投げつけた。
「よそ見してんなよ」
体は炎で全身を焼かれている。しかし、赤く光る眼光は静かにこちらを見つめている。
骸骨は物凄い勢いで空間を切り裂いた。
俺はハエで壁を作った。できるだけ密度を濃くし、厚みを作った。俺一人だけ守れれば良いのだ。
しかしその時俺は理解した。避けれるレベルの攻撃ではなかった。
考えが甘かった。そもそもあのダークエルフが神具と言っていたのだ。
強力な武器であることを理解しておくべきだった。
平行な炎の線が近づくにつれて大きくなる。初段は何とか『呪言虫』のハエの壁で耐えていたが、
徐々に層が焼かれていく。5層分作った壁は徐々に薄くなっていき最後に1層になっていった。
ここで…終わりなのだ。でも相打ちだ。
この状況でよくやった方だ。俺は自分を慰めた。そうして、下を向き目を瞑った。
その瞬間頭の中で謎の言葉が浮かんできた。俺はその言葉をそっと小さく呟く。
「ニヒル」
気が付くと目の前には奇妙な模様が見えた。これは…羽だ。
俺の目の前には大きな蛾が存在していた。そうして蛾は大きな羽でそっと俺を包み込んだ。
洞窟内の炎は消え去った。あの骸骨も存在していなかった。
そこには一本の大剣が地面に刺さっている。あの骸骨の大剣だ。
俺は近づき引き抜いた。その時、脳内に情報が流れ込んできた。
ここは…さっきの洞窟とは違う空間にいた。
周りには建物一つ見えない。草原が広がり、優しい風が髪を靡いている。
ずっと向こうには丘陵が見える。自然豊かな場所にいた…
これは…誰かの記憶の中か?
俺の前には一組の男女がいた。
女の方はエルフだった。
「これはあなたが持ってほしいの」
女のエルフはそう言って、男に大剣を手渡した。
これは…あの骸骨が持っていた大剣だ。
「だめだ…」
「いいえ。あなたが持つべきなのよ。あなた以外持てないわ。人は皆心が弱いもの…」
「僕だって強くない…」
「あなたは強いわよ」
「どうして君が…ミューレ。君がどうして罪を背負う必要があるというのだ?」
女のエルフはミューレというらしかった。
「私が望んだのよ。それより、エリック私が先に死んじゃうなんてね」
「嘘だ嘘だ…」
ミューレはエリックという男の額に口づけをした。
そうして、男の首に金色の首飾りを掛けた。
「あなたには酷な事を押し付けてしまうわね。」
「おい!おい!」
俺ははっと意識を取り戻した。
気が付くと田中が隣にいた。
「倒したんだな!!流石だな!!」
「ああ」
今のは何だったのだろう…
「ほら、ワープゲートが出てきた!?ミッションクリアだ!!急いで帰ろう!」
「そうだな」
俺はワープゲートに入る前に菊池を背負った。菊池は骸骨の炎で体が燃えていた。俺は上着を脱ぎ、菊池に掛けてそのまま背負った。
少し熱い・・
そう言えば、菊池の右腕はどこに行ったのだろうか?
俺が辺りを探し歩き回るとそこには金色の首飾りが落ちていた。どうやら、あの記憶は骸骨の物だったらしい。
エリック…あの骸骨はそういう名前だったのだ。
そうして、俺達はワープゲートに入っていった。