3話 固有スキル
薄暗い洞窟の中は死体の山で一杯だった。足の踏み場ないくらいの数だ。
俺は俯きながらこれからの事を考えていた。
あの骸骨が持っていた大剣… あれがダークエルフが言っていた神具なのだろう。あの大剣を手に入れる事ができればミッションクリアとなり帰還できる。
目的は明確だった。
しかし、それは簡単な事ではない。この目の前に広がる死体の山がそれを物語っている。
どうやったらあの骸骨を倒せる?俺が手にしている武器といえば、この薄汚い棍棒と固有スキル『呪言虫』だけだ。
俺は大きくため息をついた。
「ついてねえなぁ」
俺を助けようとしたおっさんと会話している時に出てきたハエぐらいしか今の俺には出せないのに…
その時のセリフは覚えている。
「ええ、ここの鉄格子の扉に鍵が掛かっていて外に出れないんです」
俺がそう口にするとハエは出てきた。どうやらこのセリフの中に呪言が潜んでいるらしい…
ハエは俺の頭上を飛び回っている。一体こいつは何の役に立つというのだろうか?
俺は今のセリフを3つに分ける事にした。
「ええ、ここの鉄格子の扉」
何も起きない。
「に鍵が掛かっていて」
これも何も起きない
「外に出れないんです」
ハエは口から飛び去った。
どうやらこの中に呪言が潜んでいるようだ。
俺はまた細かく3つに分けて口にした。
「外に」
すると今度は一発目でハエが出てきた。
どうやらハエを出す呪言は『ソトニ』というらしい。
何とか一つ目の呪言を見つける事ができたがこれから先が思いやられる。
「おい」
どこからともなく声がした。俺は声の方に体を向けた。
「誰だ?」
「言葉が伝わるのか? お前日本人か!?」
「そうだけど、あんたは?」
俺は少し不機嫌そうに答えた。なんだ?俺が中国人にでも見えたのだろうか?まあ確かに海外旅行中に中国人に間違われて中国語で話しかけられた事はあるけれども…
「いやすまない。さっき別の奴に話かけたがどうやらベトナム人のようで日本語が伝わらなかったんだ」
まじかよ。ベトナム人も異世界転生してんのかよ。各国からお取り寄せかよ。
というか、こいつに見覚えがあるぞ…
ここに転送される前にダークエルフに質問をしていたイケメン野郎だ。
「俺は菊池祐だ。お前は?」
そう言って菊池は手を差し出してきた。
俺は菊池と握手を交わしながら名乗った。
「俺は乾尊だ」
「そっか乾かよろしく。乾お前はどうやってここに?」
「宅急便の男に銃殺されて気づいたらここにいた。」
「銃殺?珍しいな」
「確かにね。あんたは?」
「俺は女に刺されて死んだ。ホストをやっていたんだ…その時の客に殺されたのさ。」
なるほど、ホストねえ。確かに綺麗な顔立ちをしている。長い襟足にウルフカットのような髪型に黒髪の隙間に灰色のメッシュを施している.
「そうかまあ死んだときの話はこのくらいにしてここから帰る方法のが大事だ。生き残ってるのもせいぜい数人といったところだろう。ここに飛ばされる前の広場には50人くらいいたからな。この死体の山を見るともうそのくらいしか残っていないだろう」
「へえ、以外と几帳面なんだな」
「まあな…いつも売り上げの事ばっかり気にしてたせいかもな。ところで乾も気づいているのか?」
「何を?」
「ステータスだよ。ダークエルフが俺らに合図してくれたじゃないか」
確かに、ダークエルフは首元を二回タップする操作していた。え、まって…こいつあれで気づいたの?
言えない… たまたま気づいたなんて口が裂けても言えない…
「ああ、知ってる」
俺は虚勢を張りながら答え、首筋を2回タップしながらステータスを表示した。
菊池はじっと俺の方を見つめていたが首を傾げていた。
「どうやら他人のステータスは見れないみたいだな。俺の固有スキルは『永火』、自分で炎を出す事はできないが火種を体に移すことができれば永続的に燃やし続ける事ができる」
そう言って菊池はズボンのポケットからタバコを取り出しライターで火を点けた。
そうして一服すると、タバコの火を右手の平に押し付けた。すると、炎は右手に燃え広がった。
え…いやいや凄い能力だけどわざわざタバコに火を点ける必要あったのか?ホストやってる分そういうところがきざなのかもしれない。
いや、痛いのかもしれない。いやホストだと普通なのか?いやいや絶対痛い奴だろ…
「これが俺のスキルだ」
菊池は燃え広がった右手で死体に触った。辺り一面炎の灯りが照らした。
「熱くないのか?」
「ああ、何ともない。それでお前の固有スキルは?」
「俺のスキルは『呪言虫』」
「どういうスキルなんだ?」
「ソトニ」
と俺は言葉を発した。
ハエが宙を舞った。
「発した言葉から虫をつくる事ができる。だけど…今はこれだけ。特定の呪言じゃないと反応しないみたいでね…」
「そのハエには何か特殊能力があるのか?」
「さあ?」
と俺は肩をすくめ菊池の顔を見ずに答えた。多分こいつも俺の事を頼りないと思うだろう。
まあ、俺だったらそう思う。多分チームを組むのも躊躇してるかもしれない。別に菊池がやっぱやめようと言ったらそれまでの話だ。死んでまで他人に依存したくない。
そんな俺に呆れたのか、ハエは何もない空間に飛び去っていた。そうしてしばらくそこで旋回を始めた。
次の瞬間、俺は肩に激痛が走った。
「いってぇ!!」
俺は悲鳴をあげる。
しかし姿は何も見えない。
どうやら何者かが俺達に攻撃を仕掛けてきたのであった。