2話 魔素区域
俺は気が付くと俺は地べたに横たわっていた。冷たい土だ。頬に微かに砂が付く。俺はそっと左手で払った。
辺りの様子を確認する。何かの牢屋なのか?鉄格子の扉は金色の南京錠で固く閉ざされている。鉄格子を揺すってみたがビクともしない。
やれやれどうしたものかと牢屋の中を探った。多分あのダークエルフの話だとここは魔素区域らしい… という事はここに魔物がいる確率は限りなく…高い。
俺は近くに武器がないか探った。すると一本の棍棒を見つけた。
心もとないが俺はそっと手に取り護身用に身に着けた。
さてさて、どうやってここから出ようか。全く俺はとんでもない事に巻き込まれてしまったものだ。
別に今までの人生に未練だってないし大して後悔もない。むしろちょっとワクワクしている自分がいる。俺は両手を平を見つめながらふと思った。
もしかしたら、魔法が使えるのではないのだろうか?異世界に来たんだから…
俺は知っている呪文を唱えてみる。
「ファイア!」
しかし、何も起きない。俺は舌打ちをした。なんだよ異世界に来てもシビアなのかよ。俺は首元かいた。
その時、視界に白い文字で何かが表示された。
【名前】:乾尊
【ステータス】
HP:15
魔力:3
筋力:12
スタミナ:12
走力:9
そこには自身のステータスが書かれておりご丁寧にスクロールバーが存在していた。
なんだよ魔力3って…
多分魔法使えない奴じゃんこれ… てか、全体的にステータスは低いし…
まあ、でもこんなものか俺はうん…大体こんなもん…
俺は異世界でも低スペックなのだ… 異世界でも世知辛い。
俺はため息をつきながら人差し指でスクロールバーを下にスライドした。そこには固有スキルという欄が存在した。
【固有スキル】
呪言虫
なんだ…この固有スキルっていうのは??
もしかして、魔力がないが各々特性のあるスキルを持っているのか?
俺は詳細を確認しようと固有スキルをタップした、
詳細には『発した言葉に呪いを載せる。実体化もしくは呪言のまま対象物に潜伏させ操る事ができる』と書かれていた。
どう使うのだろうか…?俺は試しに言葉を呟いた。
「死ね」
多分、呪言というのだからこういった類の言葉なんじゃないのかと思った。
しかし、何も起こらない。どうやらこれじゃないらしい。何か条件があるのか?例えば対象物が必要とか?
それか呪文のように決まった言葉だったり?多分この世界の言葉だろうか?少なくとも日本語ではなさそうだ。
「おい君大丈夫か?」
「え… はい!!」
と俺は答えた。
「そこを出れないのか?」
鉄格子の向かいに一人の中年男が立っていた。この人も俺と同じで巻き込まれて転送された人だろう。
「ええ、ここの鉄格子の扉に鍵が掛かっていて外に出れないんです。」
そう俺が言うと口の中で何かもごもご動くのを感じた。俺は思わず吐き出した。
小さなハエが飛び去っていた。そうしてそのハエは男に向かっていき、男の上空を漂っていた。
男は全く気付いていない。
もしかして、これが呪言虫なのか!?
どれだ!? どの言葉だ!? 俺は必死にさっきの言葉を思い出す。
「ちょっと待っていろ!何か壊せるものを探してくる!」
「え… あ、はい!!」
男はそう言って鍵を切断できるものを探し始めた。優しい人だなと思った。こんな人まで巻き込まれるなんてなあとそんな事を考えている時だった
遠くの方から金属が擦れる音がした。
ゆっくりと金属音はやって来て、そうしてそれは男の背後に姿を現した。
白骨化した骸骨だ。骸骨は重たい大剣のような物を引きずっている。どうやらその剣が地面の小石に擦れて、金属音が鳴っていた。
「な…なんだこいつは!?」
男は叫びながら後ずさしりしていく。一歩一歩下がっていきついには鉄格子にぶつかった。
男は恐怖のあまり骸骨に背を向けこちらに助けを求めてきた。
俺は叫んだ。
「に…逃げろ!?」
しかしその叫びは虚しく無残にも骸骨の振り下ろした大剣は男を真っ二つにした。
男の悲鳴と血肉とそれから内臓が飛び出した。
俺は思わず後ずさりした。
男の切断部分から小さな火種が生じていた。火は燃え広がりやがて男の死体は焼けてなくなった。
幸か不幸か骸骨が放った大剣の軌跡は鉄格子の南京錠に当たり鍵は破壊された。男の命と引き換えに俺は外に出る事ができたのだった。
骸骨は俺の存在には気づいていたが襲ってくる事はなかった。そのままゆっくりと去っていき、暗闇に消えていった。
俺は切られた南京錠を手に取った。南京錠も熱で溶けていた。どうやらあの骸骨が持っている大剣は切断したものを燃やすらしい。炎の大剣だろうか?あのダークエルフが言っていた神具という物なのかもしれない。
その時、急に鉄格子の扉が開いた。何かが歩いていく音が聞こえた。誰かがこの牢屋の中にいたのだ。それは魔物かはたまた俺と同じ人間なのか… 俺は背筋が凍るのを感じたのだった。