14話
菊池達の前に乾が姿を現す少し前、乾とカエル男は二人はケルベルスから一度退避していた。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
カエル男はそう言って後ろを振り返った。
あれから大分は走った。
というかカエル男の脚力は思った以上に凄かった。
木々の枝を飛び移りながら、まるでパルクールでもやってるかのようにグングン森を進んでいった。
最初追ってきていたケルベロスもいつの間にか姿が見えなくなっていった。
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だ」
乾は恥ずかしそうにしてカエル男の手を振り払った。
流石にお姫様抱っこは恥ずかしい……
「そんな恥ずかしがることはないだろうに」
「いやいや感謝してるけど。ちょっとね」
乾ははにかんで答えた。
「ところであんたは何者なんだ?」
「俺の名前はラナ。ラナ・シャルナークだ」
「人間なのか?」
「本当に俺の姿を知らないって感じだな。人間の定義はよくわからないが、お前らと大差ないと思ってるぞ。こう見えても前世は王子だぜ?」
「え?」
「サレッド星とこのシャルド王国の王子だ。腹心に殺されてここに来たがな」
「またこことは違う異世界人て事か?」
「そゆことよ。あちこちから異世界転生させてるのさあのエルフ達は」
「やれやれ」
そう言って乾は呆れたように顔を振った。
「まあ、ざっくりは理解したよ。俺ら以外のところかも人を呼んでいるって事がさ」
「飲み込み早いんだな」
「まあ、というか今はそれどころじゃない」
そう言って俺は膝に付いた砂を払った。
「まずはあのケルベロスをどうしかしないとな」
「だなあ」
とラナは答えた。
「あんたのスキルはその無限の胃袋みたいな奴か?」
「そうだぜ。俺のスキルは『胃袋倉庫』胃袋には何でもしまえる」
「俺が使えそうな武器はあるか?」
「うーん」
そう言って、ラナは自分の口の中に右腕を突っ込み探し始めた。どんどん腕が入っていき第二関節まで入ったところで、何かを引っ張り出した。
「これとかは?」
ラナが出してきたのは、メイスのような武器であった。
「そいつは殴る衝撃で爆発するんだ」
「これも魔法の武器とかか?」
「いや知らん。前のミッションの時、落ちてる奴拾っただけだし」
「落ちてる物拾って食うなよ。前世王子だろ……」
俺はそう言ってラナから受け取ったメイスを軽く振ってみた。重くもなく丁度いい。ただ、ラナの胃袋に入っていたので、胃液か唾液か分からないエキスでヌメヌメしている。ちょっと持つのも億劫だったが言い出した手前そういう訳にもいかず、何度も振り回しながらそのエキスなものを振り払おうとしていた。
「ところであんたの名前とスキルは?」
「俺は乾尊、スキルは『呪言虫』だ」
「『呪言虫』……?なんだそれ?」
そうなるよな…… まずは見せた方が早いか?
「ニヒル……」
そう乾が呟くと、乾とラナの前には大きな蛾が姿を現した。
以前見た時は洞窟の中だったのであまりまじまじと見れなかったが、改めて日の光を浴びたその蛾の羽の模様は美しく、まるでペルシャ絨毯のようにきれいであった。
「なるほど、発した言葉が虫になる能力か」
「ああ」
「さて……二人でどう戦う?」
「近距離はまず無理だな。できれば距離をとって戦いたい。俺のこの蛾がいれば空中戦にも持ち込めるだろう」
「確かに。じゃあ、遠距離ようの武器がよさそうだな」
そう言ってラナはまた口の中でがさごそ探し物をしていた。しかも今度は両手を突っ込んでいた。
おいおい…… すげえなこの状況と俺が思っていると、後方から氷の矢が飛んできた。
それは俺の頬を霞めた。
「まずい!!乾!?」
ラナの叫び声が聞こえた瞬間俺は物凄い勢いで吹き飛ばされた。何が起こったのかは分からない。それを理解するには時間の猶予もなく、ただひたすらに飛び去る景色が目の前には映っている。
朦朧とする意識の中でまたあの声がした。それは洞窟の中で俺に『ニヒル』と囁いた声だった
「本当に脆いな人間。お前じゃ役不足だ」




