10話
広場の噴水にはエリカと田中とそれかた見たことない巨漢の大男がいた。
「もういいわ。ありがとうシール」
エリカがそう言うとその大男はどこかに去っていった。
「あんたどこで油売ってたのよ。あんたの頭に直接呼びかけないといけなかったじゃない」
「ちょっと、リフルって人と話をしていたんだよ」
「へえ… あの男と?」
「ああ、いい人だったぜ」
「あんた気を付けた方がいいわよ」
「何が?」
「ここに敵はいても親切な味方は存在しないわよ」
「あんたも?」
俺のふざけた問いかけにため息をついた。
「私が言ってんのは気を付けなさいって事よ。まあいいわ、行くわよ」
「どこに?」
「日用品を買いに行くのよ。どうせもうあんたも疲れてるでしょ?今日は詳しい話はなしでさっさと休んだ方がいいわ」
「菊池はどうなんだ?」
「明日には元気になってるわよ。さ、行くわよ」
俺達は必要な日用品を買い、彼女に案内されるまま宿舎のような場所に向かった。それぞれ部屋には番号が振られており、それはまるでビジネスホテルのような簡素な部屋だった。ベッド、テーブル、シャワー室と洗面台と最低限必要なものが最小限のスペースで置かれている。
「ここって本当に異世界なんだよな…」
ベッドに倒れ込み枕に頭を押し付けた。寝心地は悪くない。太陽の匂いがする。今日天日干ししてくれたのだろうか?
「つかれた。カップ麺がたべたいなあ」
少しお腹が空いた。そう言えばこっちにきてかた碌なものを食べていない。
テーブルの近くに小さな戸棚があった。開けるとそこにはカップ麺が…とはいかずビールのようなお酒が入っていた。食べ物は見当たらなかった。俺はもう他を探す気力も残ってない。
俺はそれを取り出しグラスに注ぎ一気に流し込んで眠った。
扉のノック音で目が覚めた。外から朝日が差し込んでいる。俺はまだ開ききっていない瞼を擦りながら扉を開けた。
そこには菊池の姿があった。
「き…菊池?どうしたこんな朝から。というよりもう動いて大丈夫なのか?」
「ああ、もう大丈夫だ。それより、あがっていいか?」
「ああ」
俺は頭を掻きむしりながら扉を開け、菊池を中に入れた。
「何か飲むか?」
「いや、いい」
俺は昨日使ったグラスに水を注いで流し込んだ。咽喉がカラカラだった。どうやら昨日の酒はどうやら度数が高かったらしい。きつい酒だった。
「それでどうしたんだよ」
「お前にお礼を言っとこうと思ってな。またいつミッションに転送されるか分からないからな」
「いや、別にいいのに」
「助けてくれてありがとう。俺はまだ死ねないんだ」
「一度死んだのに?」
「ああ、そうだな。でも今日目が覚めて俺は嬉しかったんだ。俺は以前ろくでもない人生を送っていた。自暴自棄って奴でな。家族も友達もいなくてな。色んな人を裏切ったりしていた。金だけが俺の人生だったんだ。お金が俺のすべてだったんだ。でも俺はここに転生して気が付いた時もう一度人生をやり直すチャンスを神様がくれたと思ったんだ。だから俺はここでもう一度人生をやり直したい。まっとうに生きてみたいんだ」
「いい目標じゃん」
俺は静かに答えた。
「俺にもう一度生きるチャンスを与えてくれてありがとう。もしお前に何かあれば俺はお前を助ける。何があろうともな」
そう言って菊池は立ち上がった。
「それだけを言いにきたんだ。邪魔したな…乾」
「そっか」
菊池はそう言って部屋を出ていった。
「きざな奴だな」
俺は嬉しかった半面、羨ましかった。あいつはああやって何事にも真正面から直視し、受け止め考える事ができるのだろう。
しかし、俺は… 俺はいつも逃げてばかりだ。俺にはあいつみたいに振舞えない。
俺は自分がどういう人間かよく分かっている。つらい事には逃げ、人との関りも避けていた。仕事も止めた。俺は問題を直視する事はできない。いつだってなあなあの関係で距離を取っていたい。
そういう人間なのだ。そういう人間なのだからしょうがない。
「ああ、早くミッション始まんないかな」
気づくと俺はそんな事を口走っていた。
その時、体全身が揺れる感覚に襲われた。
この感覚は… 転送だ。
俺の体はどんどん折りたたまれていく。そうして頭の中であのダークエルフの男の声がした。
『これからCランクのミッションのため転送を開始する。今回のターゲットの神具は<氷湖の弓>だ』
そうして俺は転送された。




