もしも生きて帰れたら、貴方とゆっくり話したい
ーーーーーもしも生きて帰れたら、貴方とゆっくりと話したい。ーーーーーーーーー
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「自害しろ」
まみゃがそう命令すると心臓の音が一際大きく聞こえた気がして、体が動かなくなる。
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地獄の女王。まみゃの事を1度たりともそう思ったことはなかった。あくまで"敵同士"であり、ただの"友人"でもあった。いつかは訪れる日だった。だけど、だからこそだろうか。力の差を見せつけられたのだ。さっきのれいとまみゃの戦闘を見て、ついていける気がしなかった。"次元が違った"。今だって、クラリスがいなきゃとっくに死んでいる。
...勝てない。拠点で待ってもらっているヤツらがこっちに来るとも思わない...
強い。強い?...強い...か。
規格外のヤツとは今まで何回も戦ってきたのに。
どうして、今その規格外に負けなくてはならないのか。
いつも、相手の不意を着いて一本取るのは得意だった。今回それが出来ないのはまみゃに結界が常に貼ってるからだ。結局のところ俺は、虎の威を借る狐だったというわけだ。
この世界に来る前に帰った時、本当のカゾクではないのに、温かみを感じた。...いや、俺からしたら本当のカゾクだった。きっと向こうで、アルファルドも黒鎌を止めるために頑張っているはず。もしアルファルドが黒鎌に勝っていたとしたら?俺がまみゃに負けて死んでいたとしたら?死んだ後に見せられる顔がないだろ...!
れいは目覚めない。力の使い方が感情任せになっていた為、最後の攻撃でエネルギーを使い切ってしまったのだ。もし今俺が負ければ、れいはまみゃに勝ったのに、世界は滅びることになる。理不尽すぎるし、こんなのはきっとれいもまみゃも望んじゃいない。...そうだ。まみゃだって、きっとこんなの望んでない。今はただ自我を失っているだけだ。潔いまみゃなら、れいに負けた時点で、大人しくしているはずだ。
その動けずに、心臓を何か見えない手に触られているような感覚に陥りながらも思考を続け、その痛みに耐え抜く。クラリスも、同じようだ。
『こんな所で...負ける訳には行かない!』
マグとクラリスが共鳴する
その共鳴した力が、ほんの少し世界の法則をねじ曲げる。絶対支配領域の中で、微かに腕が動いた。次は足が動いた。そしてこの動ける一瞬のうちにマグとクラリスは霊気解放で強く跳躍しまみゃの結界にダメージを与えてまみゃにノックバックを与える。
ノックバックを与えると、完全に支配領域が消える。
「例え操られていたとしても、焦りが見て取れるぞ?」
その仮面の穴から見える眼に、焦りが宿っている。
しかし、焦るべきはこっちなのである。いくらこいつの魔法を防げても、13ページまで耐えればいいわけじゃない。13ページに辿り着かれたら負けなのだ。文字通り、終わりである。
そして11ページ目。
「Silentium Mundi ― 世界黙止」
シレンティウム・ムンディ。空間を停止させ、術者以外を完全に封じる魔法。
時間が止まっている訳では無いので、意識はある。しかし空間が完全に止まり、動けない。
まみゃはゆっくりと此方に歩き出す。どうやらまみゃは動けるようだ。
「焦らないで。これくらいなら、私が何とかできるよ。」
クラリスはやけに落ち着いていて。
しかしおかしい。空間が止まっているのだから、音が空気中で振動することもない。なのに何故、クラリスの声が俺には聞こえている?
「私は新しく霊気纏の2重掛けをできるようになった。」
するとクラリスはゆっくりとまみゃに向けて歩を進める。
「まずはいつもの範囲で霊気纏を発動させる。そこから別の霊気纏をその外側に貼ることによってお互いが退け合い、空間が広がる。そして霊気纏の範囲内は霊気濃度が極めて高い。この止まった空間を押し上げて、自分だけの安全領域を作るのは簡単だよ。」
クラリスがトリックを説明し終わるとまみゃの結界にまた一撃を入れる。すると空間が動き出す。
「どうすればあの本を奪える...」
そんなことを考えているうちにも12ページが開かれる。
「Regnum Infernus ― 深紅王国」
12ページ目の魔法はレグヌム・インフェルヌス、
血と炎でできた異世界を顕現させる。世界浸食が始まる。
「なに...あれ...」
上空を見ると星一つがここへ衝突しようとしているのだ。
そしてその異世界が接近した影響か、此方の世界と血と炎で出来た異世界の特性が混ざり合う。
「これは...雪菜の属性変更版領域...いや...世界改変...!」
『雪菜』 本編では語られなかった仮面の1人。まみゃとの戦闘の前に、マグとマリアにより無事撃破される。れいがまみゃを倒した後にすぐに仮面を外そうとしたのは雪菜の前例があった為。雪菜の領域内は全ての攻防の優先度が氷が最優先になるというものだ。
マグはまた焦りを見せたように上空を見上げる。
しかし、あの星そのものに炎耐性があるようで、最優先度での攻撃がそもそも通らない。
圧倒的不利。
「これどうすればいいの!?」
クラリスは霊気系の遠距離技をその星へ出鱈目に放ち続けるがビクともしない
「まみゃの結界にダメージを与えたら止まるかもしれない!」
先程の空間停止等もそれで解除することが出来たからだ。
クラリスは即まみゃに攻撃を仕掛け、結界にダメージを与えてもその星が消えることは無い
「クラリス!!危ない!!」
その上空にある異世界から紅のレーザーが上空からクラリスに放たれていた。それを叫ぶ前にマグは動き出し、飛び上がってはそのレーザーを剣で切った。
「あ...ありがとう」
クラリスはまさか世界そのものが攻撃意志を持っているなんて、と思った。
そして遂に開かれる。最後のページ。
「Exustio Orbis ― 世界焼却ノ魔法」
そして終わりが始まった。その異世界はオレンジがかった星から、深紅の星へと変わった。よく目を凝らせば燃えているのがわかる。落下速度が上昇する。もうここまで来たら術者本人も止められない。
しかしマグはこんな時なのに、いつもと違う点を思い出した。
"世界帰還の選択肢がない"
マグは詰み状況に陥った時、俺の事を保護、利用している人間が死なせまいと世界から離脱する選択肢が出る。(マリアで言うゲートのようなもの)それが出ないということはまだ詰んでないのか、それとも偽物を勝たせるためにもう俺の保護は無くしたのか。まぁどちらでも構わない。逃げるつもりはそもそも無い。
「...なんかごめんな。こんなことに巻き込んじゃって。」
クラリスに謝罪をする。何方にせよ世界は滅ぶのだから置いてきても変わらなかったのだが...
「お兄ちゃんは悪くないよ。それに」
『まだ終わってない。』
クラリスの目には突破口が見えているようだった。
「1体どうやって...」
全然思い浮かばないマグはそう言う
「なんかおかしいと思ってたんだよね。本を奪わないと止まらない魔法、対象者に貼られた結界、こんなに攻撃しているのに一切本を落とす様子は無い。」
今までの不自然な点を並べる
「お兄ちゃんが何処でこの本の情報を仕入れたのかは知らないけど、全部デマだよ。」
その言葉にマグは驚いたように
「デマ?」
「うん。だっておかしいよね。"世界が滅ぶ魔法なんだったら、なんでそんなに詳しい止め方が記載されてるの?"」
確かに、クラリスの言う通りだ。まみゃから本は奪えない、そして世界が滅ぶ魔法である点から、もし魔法が発動したなら世界は滅んでるから記録に残らない。もし昔は止められたんだとしても13ページ目で世界が滅ぶだなんて事は知らないだろうし、その逆も然りだ。
「...簡単なトリックだったな...時間を取られた」
気づけても今更だろう。ここまで来たら止めようがない。
「...ねぇ、お兄ちゃん。」
クラリスは少し声のトーンを落として言った。
「......私を選んでくれてありがとう。」
この世界に連れてきてくれて、という意味だろう。クラリスは1度マグと顔を合わせるとマグの背後まで行って
「クラリス?」
突然雰囲気が変わったクラリスに問いかける。
「私なら、アレを止められる。」
指を指して言った。
「止める!?アレを!?」
無理、とは言わないがそんなことが出来るのかと言ったように
「...信じててよ、お兄ちゃん。」
クラリスが静かにその見えない剣を実態化させる。
「...クラリス...なn」
被せるように
「もしも...さ。生きて帰れたら、話したいことがあるんだ。」
マグからは見えないが、泣いている。声が掠れている。震えているようにも聞こえる。
「だからさ...」
そのクラリスの声にマグは被せるように
「...信じてるから。もしもとかじゃなくて、"必ず帰ろう"」
その言葉にクラリスはマグの方へ振り返り、目を大きく見開いたあと、小さく微笑んだ。
そしてお互い目を合わせて1秒後、クラリスが地を蹴り、上空へ飛び上がった。
どうやらその異世界の方には重力があるそうで、既にクラリスは異世界側の重力に飲み込まれている。届かなかったという心配は無さそうだ。クラリスは2重で霊気纏を貼る。まず自分の周りに貼るのは無機物破壊の霊気纏、そして外側に貼るのは魔法を退ける霊気纏。この異世界自体が魔法であるため、クラリスはその日の海に飛び込んでもまるでクラリスを避けるように穴が開き、奥へ奥へと進んでいく。
「全く困らされたもんだな。」
マグはクラリスを見送るとまみゃの前に立って
「お前さ、さっきれいに「仮初の力」がどうとか言ってたよな。」
剣をまみゃに向けて
「それ、"お前にも言えることだぞ"?」
するとまみゃの右目は此方を睨むように
「勝つ為ならば手段を選ばない。最前の選択だと思うが?」
まみゃがそう喋るも、これは恐らくまみゃの意思ではなく、仮面に込められていた高濃度の紅ノ精霊によるものだろう。
「言っておくが、クラリスは強いぞ?」
マグはまみゃから目線を外さずにそう言って
「へぇ。どのくらい?」
まみゃがそう返してくるとマグは言った。
「お前なんか、"比にならない"くらいには、な。」
まみゃを煽るようにそう言う。
「そうか。そう思い込んでおくといい。どうせあの星は止められない。」
空を見上げながらそう言って
「それはどうだろうな?案外、止められるかもしれないぞ?」
マグも空を見上げて
「落ちてきているのはひとつの世界だ。世界を壊せる存在なんて、神でもない限り聞いたことがない。」
神以外には無理だと
「じゃあ、賭けをしよう。」
まみゃに剣を向けて
「俺はクラリスに──オールベットだ。」
...本当に私を選んでもらえてよかった。
私は炎に包まれながらそう思った。実際、お姉ちゃんであれば、これを止める手段は恐らく持っていなかっただろう。確かにお姉ちゃんは強い。私が暴走してた時、本気で戦ったけど致命傷となる一撃はありえないような反応速度で全て避けられた。でもそれは、あくまで対人戦でのみ生かされる力だ。もし世界が滅べば、その反応速度も意味をなさない。でも、私には止める力がある。
さっきのれいとまみゃの戦いを見てて、その強大な力に震えた。「私もあんな力が欲しい」って思った。それと同時に「私ならこうするのに」ってのも思った。2人とも、詰めが甘い。でも、私は限られた力でも、この詰め込まれた戦闘知識があることに気づいた。れいやまみゃにもない、私だけの戦闘知識。
流石は1つの星なだけある。超スピードで飛んでいるものの中々中心に辿り着かない。
「...暑い...溶けそう...」
霊気纏を展開しているものの熱を無効化する霊気纏は使えていない。我慢するしかない。
ここに来る2週間前、お兄ちゃんとお姉ちゃん、家族で旅行に行った。私は夢だったんだ。他と何も違わない、極普通の家族。戦うことなんてなく、何気ない日常を、笑って、泣いて、また笑って過ごせるような。そんな家族になることが。だから本当は、ここに来ることも反対だった。私はもう、自分の為に戦いたくなかった。でも、私は家族の為に、ここに来た。思い描いている家族とは少し違うけど、こういうのも悪くない気がする。だから...無事に帰ったら、お兄ちゃんに言うんだ。
「──やっと中心だ...!」
クラリスは霊気纏を切り替える。まずは自分の周囲に貼る霊気を魔法を退けさせるものに切り替える。先程外側に貼っていたものだ。これにより自分に触れるギリギリまで魔法が迫ってくるものの、触れることは無い。そして外側に貼るのは魔法の弱体化。破壊した時に結局世界が滅んでは意味が無い。この霊気纏は範囲が広く、集中すればこの星全体に効力を与えることもできる。
少し遠い所に、核だと思われるものが見える。その核は辺りより暗い紅で構成されていて、熱い。
...
「絶対に止めて見せる!」
そう叫ぶと右手に握っていた"認識出来ない剣"を実態化させる。認識出来ないという力が強大過ぎた為、他の性能はほぼただの剣と同じだったものの、それを解いた今、今まで封じ込まれていた力が爆発する。その剣はまるで氷で構成されたような水色の剣、デザインは地味なものの、煌めく氷のような光が、その剣の魅力を引き出している。
それを核に突き刺すような形で持つと、更に速度を上げて核に突進する。
「──たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その剣が核を貫いた瞬間視界がフラッシュアウトする。
爆発音がした。その音に、お互い睨み合っていたマグとまみゃが顔を上げる。
「嘘...」
まみゃの右目はありえないと言った様な様子で。しかしマグはまだ油断せずに、全ページ完走したことによってまみゃの結界が無くなったことを見過ごさなかった。
「油断したな!」
超スピードでまみゃの仮面に手をかけると力強くそれを外した。先程のように外れない訳ではなく、案外簡単に外れた。するとまみゃは力が抜けたように倒れる。
そして仮面を手に持ってみて気づいた。まみゃの仮面だけは、"水で作っていない"おかしい。仮面が作っているのだとすれば、水で作られているはずだ。というかそう出ないとおかしい。雪菜の仮面は水で構成されていた。しかし、見た目は本物と全く一緒だ。こんなことが出来るのは...いや、居ないはずだ。過去に偽物は現れたことはあるが、仮面の細部は違っていた。こんなに正確に作れるわけが無いんだ。この仮面をコピーしてるとしか...コピー?
そう思った瞬間に、背後から声が聞こえた。
「私を探してますか?」
突如そう声が聞こえて振り向くと、白髪で腰まで伸びている髪、紫色の瞳をした女性が立っていた。
「──ッ...ノエリア!?」
マグは驚きすぎて、後ろへと倒れ込んでしまった。
「過呼吸になってますよ。会えて嬉しいのですか?」
ゆっくりと近づいてくる。
「...来るな...!」
震えて、立ち上がれない。
「何か勘違いなさってませんか?」
ノエリアはマグの元まで来ると手を伸ばして
「私は、敵ではありませんよ。」
手を取れと言ったように
「...なんだよ。驚かせやがって」
マグはノエリアの手を取って
「この悪質な悪戯は、お前が原因だったんだな?」
敵じゃないとわかるといつもの様子で
「そうもいうかもしれないですね。私はただ、彼女の意見を尊重しただけです。」
つまりは、ノエリアがまみゃを苦しみから解放しようと、手を差し伸べたのだろう。しかし、こいつがやることはいつも行き過ぎている。
「...お前には、説教とかできないけどよ」
勝てない相手、というのは存在する。こいつは規格外中の規格外、そもそも、手が届く相手じゃない。
「別にしてくださっても良いのですよ。私は、攻撃しませんから。」
ノエリア自体の性格は温厚で、攻撃的ではない。しかし、敵に回したら恐ろしい。
「いや、やめておこう。そもそも、お前に説教しても論破されそうだしな」
ノエリアはめちゃくちゃ頭がいい。少しネジが外れているところがあるが、頭がいいのは事実、まるで頭の中に図書館でもあるかのようだ。ノエリアはいつも、"神造ノ書架"と名乗っている。
「っていうかクラリス!まだ落ちてこないのか...?」
不自然だ。いくらあの星が大きかったとしてもそろそろクラリスが降りてきてもいいはずだ。
「悲しいですね。クラリスという方は、これでしょうか。」
するとノエリアの手には歯車の様なパーツが乗っていて
「...そうか。いや、ありがとう。ノエリアが回収してくれてなかったら、きっと見つけられてなかった。」
状況を受け入れられないあまりか、やけに冷静だった。これは恐らくクラリスの核、あんなに強い爆発が起きたのに、傷ひとつ付いていない。
「私と契約すれば、これを元に彼女を再現出来ますよ?」
ノエリアはその核をマグに渡すとそう言った。
「...いや、辞めておく。今回は流石に悩んだが、お前と契約するってことはつまり、俺の本来の目的を諦めろってことだしな」
そう、ノエリアに契約をもちかけられたのはこれが初めてではない。何度も、何度も契約をもちかけられている。でもそれを全て断ってきた。彼女と契約すれば、この世の全ての知識、力、全て手に入る。ノエリアはあくまで中立だ。しかし、俺が契約するとノエリアは俺の味方になってくれるという。だからこいつは、まみゃの意見を尊重するためとか言っているがそれはあくまで建前で、実際は契約を結ぶ為にわざと嫌がらせまがいなことをしているのだ。それでも契約をしない理由、それは自分の自由が無くなる、そして此方側の世界に永住すること。俺と同じ囚われたクラスメイトを救うためには、こっちの世界に永住することは出来ない。
「これで173回目ですね。いい加減、契約してくださりませんか?」
少し残念そうにしては
「する訳ないだろ。そもそも俺がお前と契約することで、お前にメリットがないだろ。」
ノエリアは所謂全知全能というやつだ。ただの人間と契約するメリットがない。
「ありますよ。貴方という面白い人間の監視及び、自分のモノに出来るのですから。それに、貴方の元の世界にも、興味がありますし。」
ノエリアの契約のメリットはその通りだろう。ノエリアは人間を"動く玩具"としか思っていない。だから、その中でも気に入られている玩具である俺を自分の支配下に置き、更に俺の体を解剖か何かをして現実へのアクセスを試みようとしているのだろう。
「冗談はよしてくれ。お前に気に入られても嬉しくない。」
でも、俺はノエリアを恐れる反面、話しやすいとは思っている。
「そうですか。では私はこれで失礼します。仮面と本は、回収させていただきますね。」
仮面と本を取り
「手伝ってはくれないか。今回は、ただ俺が損しただけなんだが?」
帰ろうとするノエリアを引き留めようとして
「別に、今はその時ではないだけです。また来ますよ。」
するとノエリアは透明になって消えた。
「......クラリス...」
マグはその歯車を胸に抱いて、静かに涙を流した。
そしてまみゃは投獄された。
「...まみゃ...」
れいはまみゃの牢の前で膝をつき、鉄格子を握ってそう言った。
「...れい。大きな怪我は無いんだね。」
自分でやった事だが、れいをそう心配する。
「怪我なんてn」
「よかった。」
れいがなにか言切る前にそう言う。
「私は、取り返しのつかないことをした。れいに迷惑をかけた。許されないことをね。」
まみゃはナイフを取りだして
「私には、ここで自害することが許可されてる。もしも生き残っても、向こうでも牢屋に入れられるだけだから。それに、罪の償いをしたい。」
れいはそれを見て「ダメ!」と叫ぶもまみゃの手は止まらなかった。
「待ってよ......死ぬのは何も今じゃないでしょう...本当に償いたいなら...この世界が滅んだ時でも、救われたときでもいいじゃない...」
れいは、涙を流しながらそういうと、まみゃの手は止まった。
「...そうだね。れいをより追い詰めるだけだね...」
まみゃはその暗い牢の中から言った。
「れい。お願いがあるんだ。」
そのハイライトの消えた目に光が戻り、れいと目をしっかりと合わせて言った。
「私が守れなかったネザーを、れいが守ってね。」




