殺戮の衝動
個人的に書いてた小説上げます!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
俺は今、全力で走っていた。
呼吸は荒く、胸の奥が焼けるように痛む。それでも足を止めることはできない。
その理由は――
⸻
「れいお嬢様」
背後から呼ばれ、れいは首を傾げた。
「どうしたのかしら、騎士様?」
「そろそろ、“あの洞窟”の探索に向かった方が良いかと」
“あの洞窟”――それはこの村の東側に存在する大穴より続く洞窟であり、古くから奇妙な噂が絶えない場所だった。
「そうね……。おーい、まみゃぁー」
「はいはい、呼ばれたー」
声の主は、れいの友人まみゃ。
いつも明るく無邪気な少女だ。
「今回はまみゃも来るのですね」
「人数が多い方が楽しいわ」
こうして俺たちは洞窟の中へと足を踏み入れた。
この時はまだ、この選択が取り返しのつかない結果を招くことになるとは、誰も知らなかった。
⸻
「まみゃ〜!鉄がたくさんあるよ〜!」
ツルハシを振るいながら声をかける。
この国では鉄が慢性的に不足していた。
「ほんとだー!あとで分けてねー」
「はーい」
そんな無邪気な声を耳にしつつ、俺は一人、周囲を警戒していた。
俺の耳は人一倍、いや、それ以上に敏感だ。
生まれつきの能力で、これは護衛役として非常に役立つ。
「掘り終わったよー。さ、奥に行こー」
俺たちはさらに洞窟の奥へと進む。
「マグマね」
その言葉に、騎士は一瞬、体を強張らせた。
「どうしたの? 騎士様?」
「いえ……何でもありません」
誤魔化す。
この人は恩人だ。だからこそ、名前や細かい情報を教える必要はない。
そんな時、遠くから歓声が聞こえた。
「あ! ダイヤ!」
喜びに満ちた声。
「まじぃー!?」
「おめでとうございます、れいお嬢様!」
しかし俺たちは、まだ洞窟から引き返すことを考えなかった――
⸻
洞窟に入る前
「教官殿。私たちはあの洞窟へ行きます」
「あの洞窟か……。気をつけろ。帰ってきた者は、たった一人だ」
「なぜです?」
「声が聞こえるらしい。その声に導かれるのだと」
「ばかばかしい噂ですね」
「いや……実際に“洗脳”のようになるらしい。生還者の話だ」
その言葉に、れいが反応した。
「教官さん、その声はどこから聞こえるのかしら」
「洞窟の奥底、闇に染まった場所からだ」
「……まさか、本当に“古代都市”が?」
「生還者も同じことを言っていた。“音を立てるな”と」
⸻
そして現在。
俺たちはさらに奥へ進んだ。
だが、そこで待っていたのは――モンスターの大群だった。
「きゃー!!」
「何、この数!?」
「お嬢様!!」
その瞬間、立ちくらみが起きた。
助けに向かわなければならないはずなのに、体が言うことを聞かない。
「ヴォー……ヴォー……」
声が聞こえる。
頭痛が走り、視界が歪む。
「この……声……」
助けなければならないのに、俺は声に導かれて洞窟の奥へ進む。
お嬢様たちの叫びは、耳に届かない。
「騎士様! 行っちゃだめ! 戻ってきて!」
必死の声が届く。
だが、俺の意識は、黒い何か――“ブロック”に釘付けだった。
「美しい……」
黒いブロック――
【ブロックID:238】
手を伸ばした瞬間――
「──だめっ!!」
腕を掴まれる。
そこには、涙を浮かべたれいがいた。
「離せ……」
「絶対に離さない! そのブロックに触れちゃダメ!」
必死に止めるれい。
俺の体から、何かが抜けたような気がした。
「はぁ、はぁ……助かった……」
正気に戻った。
⸻
騎士は、れいとまみゃを先に退避させ、洞窟内のスカルクセンサーを避けながら奥へ進む。
音に反応して悪魔を生み出す装置――それを避けるのは簡単ではなかった。
だが、油断した瞬間――
「ぐはぁ!!」
黒と水色の角を持つ化け物が襲いかかる。
体は土と同じ黒色で、灰色の顔に漆黒の目と口。
視界を暗くされても、俺には効かない。暗闇に慣れているからだ。
しかし、攻撃を避けきれず、ハートの半分を削られる。
刀を振るう――
だが、手応えはない。
「手応えがない!」
その瞬間、下から突き上げられ、床に叩きつけられた。
「ぐ……頭が……あぁ!!」
再び“洗脳”されそうになり、俺は洞窟の外へ逃げた。
途中でお嬢様方と合流するが……
「近寄らないで」
血に染まった俺を、れいは拒絶した。
「近寄らないで」
「えっ……」
俺は言葉を失った。目の前のれいの表情は冷たく、胸が締め付けられる。
「まみゃ! この人が登ってくる前に、水を登って!」
「う、うん……!」
「な、なんで……」
「貴方……その血!」
騎士は自分の服に目をやった。そこには黒く濁った血がべったりと付着している。
「……」
「昔、私言ったわよね? 血は嫌いだって。あなたが血に汚れる姿を見たくないって」
「……」
なぜだ?
俺はお嬢様のために戦った。
あいつを止め、村人を守ったはずなのに、なぜ拒絶されるのか。
俺の心は再び闇に沈んだ。
⸻
村に戻った俺は、家の中で落ち着いたふりをするが、心は燃えたぎっていた。
「……最悪だ。お嬢様との関係は険悪になった……」
教官に相談しても、返ってきた言葉はただ一言。
「知らんな」
教官は去った。
俺は一人、村を離れる。山を下ると、小さな村が見えた。
「……妬ましい。心の底から消えてほしいと思う……」
その瞬間、心の奥で黒い血の声が囁いた。
「貴様が殺してしまえばいいじゃないか? あの幸せな者どもを……」
「……あぁ、そうだな……俺が……」
笑いが止まらなかった。
殺戮の衝動が抑えられない。
俺は“殺戮の悪魔”だと言われたことがあるが、それは過去の話ではない。
俺はその村を瞬時に壊滅させた。
村人を全て殺し、村を焼き払った。
ただ一人だけ、逃げ延びた者がいた。その者は隣の村、俺たちの村に向かっていた。
「誰かァァァ! 誰か助けてぇぇー!」
「騒がしいわね。こんな夜に」
「まぁ行こうよ。助けを呼んでるんだし」
「どうせ騎士様が行くんでしょ……」
「ううん! 行きましょう」
腕を掴まれ、まみゃの目が必死に訴える。
「かえって……来るよね?」
「大丈夫よ。殺戮の悪魔は私を殺せないから……でも、あなたは殺されるかもしれないから、ここで待ってて!」
「……!」
れいは振り払い、走り出した。
⸻
騎士「ふはははははははは!!」
村と森は焼け野原になっていた。
「さすがね。殺戮の悪魔の実力を少し甘く見ていたかしら」
騎士「……れいお嬢様」
「気持ち悪い。あなたに呼ばれると吐き気がする」
騎士「……」
「まぁいいわ。あなた、この辺の村を全て焼き払ったのね?」
騎士「……」
「村人の生き残りが私のところに来て、『殺戮の悪魔を殺してくれ!』って言ったわ」
騎士「……へぇー、面白い冗談だな?」
「冗談? 本当にそう聞こえるの?」
騎士「聞こえるね。お前に俺は殺せない」
弾丸がれいをかすめ、髪を引き裂く。
「当たってないじゃないの?」
「……」
やはり俺は、恩人を殺すことはできない。
「殺せば楽になる。お前は殺戮の悪魔なんだから」
「……とりあえず村に戻りましょう。あの件は後で話す」
「……あぁ……ふふ……」
⸻
まみゃの家
「まみゃさんは殺戮の悪魔をご存知?」
「知らないなぁ。れいは何か知ってるのかな」
「奴は死ぬべき存在だ。この世界が持つ限り、奴がいる限り……!」
その瞬間、ドアが開いた。
「おかえりー……って騎士?」
「あ、あははぁ……着いてきたいって言ってたかr……」
「ひ、ひぃぃぃー!!」
「さ、ささささ、殺戮の悪魔だぁぁぁ!!」
「うるさい、目障りだ」
俺は一瞬で村人を斬る。首がまみゃの目の前に落ちる。
「……!?」
「ちょっとあんた……」
「ふん、こいつは死ぬ運命だったんだ」
「殺戮の悪魔……?」
「あぁそうだ! 俺があの殺戮の……」
「やめなさい。まずは血を片付けましょう」
「っち……」
「舌打ちをするとは、いいご身分になったことね?」
「失礼しましたお嬢様……」
⸻
お嬢様の説教に、俺は耐えきれず逃げ出す。
⸻
騎士「はぁはぁはぁ……俺は走っていた。もう嫌だ、この世界!」
一人になりたかった。
村に戻り、再びれいに会おうとしたが――
「付くとでも?」
森を越え、湖を越え、ついに目的地に到着する。
夜、雷雨が降る中、それすら心地よく感じた。
耳が何かを感じ取る。
血の滴る音、何かが引かれる音。クロスボウの音だ。
「!!」
略奪者の大群がいた。
「おい、そこのお前ら!」
「さ、殺戮の悪魔!? に、逃げろー!!」
「まぁ待て、殺戮の悪魔。俺たちに用か?」
「あんたがリーダーか。協力してみないか?」
「殺戮の悪魔と協力!? ありえない!」
「それで、どんなメリットがある?」
「ふふ、殺戮が楽しくなるじゃないか」
「ふはははは、狂ってるな! いいだろう、その協定結んでやる」
こうして全面戦争が始まった。
⸻
戦争は激化する。
まみゃには村人の避難を任せ、れいは前線で戦う。
「うわ! 略奪獣まで……! 一体どれだけの軍隊なの!?」
体力は限界に近い。
「回復……」
ポーションを使い、再び立ち上がる。
「まだ……いるの?」
正直、限界だった。
しかし目の前に、――
「一人でよくここまでやれたもんだな、お嬢様」
「……あんたね……」
殴りかかるが、奴は軽くかわす。
「……!」
手首を掴まれ、後ろに投げ飛ばされる。
「ぐは!!」
冷たい瞳に、苛立ちが込み上げる。
「諦めた方がいい。お前らは死んで、この世界は俺たちのものになる」
「何を言っているの!? 私はまだ負けてない!」
瞬間、奴は目の前に立ち、ナイフを突きつけた。
その時、50ブロック以上離れた場所から何かが飛んでくる。
「ほう……矢か」
右腕に矢が刺さった。
「まみゃ!?」
「ここは任せて! れいは後ろから援護をお願い!」
「わ、わかった!」
⸻
弓を受け取り、高台へ向かうれい。
騎士は瞬間移動のように目の前に現れ、ナイフを振るう。
「集中……」
電子装置、第1号、マシンガン発射!
矢に当たったのは騎士だけ。
「ぐはぁぁぁあ!」
「偶然だけどね」
「わかった、降参する」
「つまり……私たちの勝ち!?」
こうして、殺戮の悪魔を止めたれいだったが、この戦争の波乱はまだ序章に過ぎなかった。




