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第九話 救援

 怨霊坊主が何をしているのか気になったので、翌日も地下二層に降りて行く。怨霊坊主が壁に何かを書いていたのなら壁に何かしら痕跡があるはず。ダンジョンの壁を見ながら歩くと怪しい霊的なエネルギーを微かに感じる場所があった。


 霊的なエネルギーを感じる場所はアバタールでも注意せねばわからないほど巧妙に隠されていた。隠しそびれた場所には『夢のまた夢』と書かれていた。


「ここでも、夢の単語か。七夕でもあるまいし、怨霊坊主が願い事をしているわけではないだろう」

夢の文字に触れると、パチッと静電気のように弾けて文字が消えた。誰かが発見して調べようとすると壊れる仕掛けが施されている。一般的な探索者なら気付かないし、偶然発見しても触れて消えるなら、なんだかわからない。


 次の夢の文字を見つけた時は触れない。五感を研ぎ澄ませて観察する。すると、文字から小さな音が聞こえて来た。何かの言葉のようだがよく聞き取れない。だが、あまり感じの良いものではない。この音には敵意がある。呪詛の類だ。呪詛を囁く文字なんて怪しい事このうえない。


 そうして調べていると、奇妙な探索者の五人組に会った。探索者はマイクのような機械を使い、壁を調べている。最初は罠を調べているのかと思ったがどうも違う。普通は壁から音を拾ったりしないが、先ほどの呪詛の件がある。探索者は理由があって謎の文字から出る呪詛を機械で調べていると見ていい。


 探索者の生命オーラからうち一人が霊能者だとわかった。霊能者ならアバタールと意思の疎通が可能だが、探索者の正体がわからないので、感知されるのを躊躇った。相手の霊能者にわからない距離から観察を続ける。


 探索者たちは何かを話しているがよく聞き取れない。距離が遠いせいもあるが、言語が日本語ではない。中国語のようだ。中国系の探索者グループか。中国系の会社が進出してきているので中国人がダンジョンにいてもおかしくはない。


 意思疎通をスムーズにするために日本人を入れない状況も充分に考えられるが、本当にそれだけだろうか?

「ちょいと気になるな、観察してみるか」


 気になったので後ろを従いて行くと、大きな部屋に出る。探索者たちは広い真ん中を歩かず、壁沿いを進む。やはり、文字を探している。


 来た方向と逆の方角から魔物が現れた。魔物の数は一体。武者鎧を着た亡霊だ。亡霊武者は探索者たちに気が付いているが、探索者は壁に注意を向けている。光が届かない位置に亡霊武者がいるせいか探索者は気付いていない。


 奇襲されると危険だな。犬井は霊力を込めたボールを作り、亡霊武者に向かって投げた。亡霊武者は霊力が籠ったボールを斬った。カチッと鯉口を切る音がしたので、探索者たちも亡霊武者が近づいてきている状況に気が付いた。


 探索者が叫ぶが中国語なのでよくわからない。探索者のなかには超能力者がいた。亡霊武者に発火能力を浴びせる。並みの魔物なら倒せるか、苦痛でもだえるが亡霊武者は平然としていて歩みを止めない。


 探索者の霊能者が捕縛系の力を使う。亡霊武者の動きが止まった。犬井にはこれは亡霊武者が攻撃を誘っているように感じた。探索者の一人が刀を抜いて動く。


 刀を抜いた探索者は間合いを素早く詰めて斬りかかった。亡霊武者が捕縛の霊能力をいともたやすく破って動いた。亡霊武者の一撃で刀を抜いた探索者は腕を切り落とされた。勝負にならないと思った。


「こりゃダメだな、助けてやらないと死人が出る」

 犬井は挑発として口笛を吹く。アバタールの口笛は探索者に聞こえないが、亡霊武者には聞こえる。亡霊武者の視線が探索者から外れる。探索者たちは亡霊武者にできた隙を見逃さない。一斉に走って道を戻った。部屋に亡霊武者と犬井のみが残る。


 亡霊武者の刀から妖気が立ち昇る。刀には強い呪いの力が籠っていた。脱力ですり抜けられるかは微妙だな。呪いの刀ならすり抜けようとしても斬られるかもしれない。


 アバタールの持つエネルギーを粉状にして周りに噴出する。光る粉となった霊能力は犬井の一存で爆発する。並みの亡霊武者なら近づけない。あとは遠距離から攻撃をすれば倒せる。


 先ほどの探索者たちとの攻防を見たが相手は並ではない。亡霊武者は抜いた刀をゆっくりと鞘に仕舞った。踏み込む姿勢を取る。一気に間合いを詰めて、居合切りで犬井を斬る気だ。亡霊武者は犬井が光る粉を爆発させるより早く犬井を斬るつもりなのがわかった。犬井は反射速度と思考速度を加速して迎え撃つ。


 亡霊武者が動いた。躊躇いのない加速は瞬時に犬井を間合いに納める。音より早い抜刀からの一撃がくる。犬井は回避しない。逆に踏み込んだ。上半身を布状にしてうしろに曲げる。下半身は踏み込んだ一歩から蹴りを繰り出した。


 人間ならできない姿勢での一撃だが、アバタールには無理なくできた。体を変形させて攻撃をしてくる相手には慣れていないのか、亡霊武者の顔に一撃が決まる。亡霊武者の面が割れる。すると、中には人の顔があった。妖気と気配から亡霊武者だと思ったが実体があった。


 相手には中身があった。中の人間と目が合うが生気はない。死んでいる。亡霊武者は探索者の死体に何かが憑依したものだった。憑依していた本体が逃げ出そうとしたのでつま先を変形させて掴む。



「おっと逃がさんよ。こっちもプロなんでね」

 相手から禍々しい力を感じた。直に感じてわかった。この気配は僧正のものと同じだ。


 僧正は探索者の死体に呪詛をかけて操れる。とても嫌な気分になった。呪詛を握りつぶすと、亡霊武者だった探索者が倒れた。


 犬井は亡霊武者に斬り落とされた探索者の腕に近付く。腕には思った通りに探索者用の時計がされていた。


 腕にはまだ生気がかろうじて残っていたので、腕だけに憑依する。時計を地面で叩き、探索者時計の救難信号を出しておく。上手く行けば、腕も亡霊武者にされた探索者の死体も回収される。


 ダンジョンで文字を書く怨霊坊主と僧正は繋がった。僧正は何か仕掛ける気でいる。何をしようとしているかは不明だが、誰かが気付いている。


 このままここを去って探索者の死体が僧正に再利用されては困るのでしばらく待つ。やがて、探索者がやってくる。日本語を話しているので逃げていったのとは別の探索者だ。新たにやってきた探索者は五人組。斬られた腕を回収してから、亡霊武者だった男の死体をおっかなびっくり確認する。


 幸い探索者の中にがたいの良い男がいたので担いで回収していった。犬井は仕事をやりとげたので地上に戻った。地上に戻った犬井はパソコンで探索者ニュースを見ると、目を惹くニュースがあった。劉財団が低層階に出る僧正に懸賞金をかけたとあった。

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