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第三十話 決戦

 ダンジョンの入口は混雑していたが、混乱はしていなかった。離れた場所に指揮所と探索者の待機所が作られていた。迅速な設営がされているので、今日に備えて準備していたと見ていい。


 犬井は隠れ身の霊能力を使う。さらに、用心して体を煙状に変えて、地面を這うようにしてエレベーター・ホールに向かった。エレベーター・ホールにも見張りの探索者がいた。


 犬井は注意しながらエレベーターの隙間から地下一層へと降りて行く。地下一層なのだが、随分とダンジョンの力が強く感じ取れた。一層に異常が起きている。言いしれないエネルギーの滞留だった。


 地下一層にはまだ誰もいない。迂闊に人を入れてバフォメットを刺激したり、僧正に気付かれたりしないための措置だと推測される。大仏殿へと続く道を進む。監視装置が仕掛けてあるので、地上では異常があれば察知できる。


 地下一層で探索者チームが敗北時には、ダンジョン入口の扉を閉鎖すれば時間稼ぎにはなる。とはいえ、相手がバフォメットだけにどれほど時間をかせげるかは不明だ。命に替えてもとは言わないが、失敗は許されない仕事だ。


 大仏殿への道は変わっていなかった。前は石壁だった場所には最初から何もなかったかのように穴が空いていた。そっと中を覗く。大仏も巨大な碑文石もないが、バフォメットはいた。バフォメットは目を瞑り眠っているように見える。


 前回は寝た振りをされて窮地に陥った。今回も同じ可能性があるので用心した。煙状の体で、バフォメットから離れた場所で部屋の中を確認する。巨大な碑文石がない以外は依然と変わりがない。新たな罠はない。部屋を隔離する前回あった仕掛けもなくなっていた。部屋の中へとするすると進む。


 そうしていると、部屋の入口に斥候役の探索者が現れた。バフォメットが眠っていると知ると、道を戻る。静かに十人の探索者が部屋に入って来る。十人は音を立てずに、バフォメットから十五mの位置まで近づいた。


 投擲槍なら充分に当たる距離。バフォメットは大きいので訓練を積んできた探索者なら外すと思えない。


「当てるだけなら問題ないが、急所に当てなければならないとするなら面倒だな」

 探索者は身振り手振りで意思疎通を図り、フォーメーションを取る。探索者の中の霊能者に力が集まり始める。


 同時に犬井の体に力が流れ込んできた。煙状の体では全力が出しにくいので体を形成する。どんどん力が流れ込んでくると、バフォメットが突如として目を見開いた。


 バフォメットの邪眼の力が発動するが、超能力者がバリアーを展開して防ぐ。犬井は集まった力を使いバフォメットに呪縛の霊能力をかけようとした。


 一瞬だけ視界が暗くなる。視界が戻った時にバフォメットはいなかった。視線を彷徨わせると、バフォメットは部屋の入口に立っていた。こちらを一人も逃がさない気だ。


 バフォメットが力ある咆哮を上げた。バリアーを展開していた超能力者が吹っ飛んで地面を転がる。バフォメットは咆哮一つで優勢に立った。探索者たちが銃による一斉射撃を試みるがバフォメットには効いている素振りがない。


 ここで探索者の一人が弓を射った。矢がバフォメットの顔に飛ぶ。バフォメットはこの矢だけは手で振り払った。バフォメットの視線が一瞬だけ塞がった。犬井は呪縛を行使する。


 光る輪がバフォメットを何重にも捕らえた。だが、バフォメットが全身に力を込めると輪は弾け飛びそうになる。

「ダンジョンの力を借りているのに、長くはもたないか」


 何をぐずぐずしている。早く槍を撃ってくれと焦った。探索者を見ると、超能力者が槍に力を込めていた。射出まであとどれくらいかかるがわからないが、すぐには撃てないように見えた。


 呪縛が破られそうになると、犬井に送られてくる力が増した。犬井は呪縛に集中すると呪縛の効力が増す。バフォメットは本気になったのかバフォメットから放たれる力も増していく。力が足りない。


 紋様が消されていたせいか、階層が浅いせいかわからない。だが、このままではバフォメットが直に自由になる。


 バフォメットを拘束する輪が弾けした。追加で輪を出すが次々と壊れていく。拘束する輪があと三つになった段階で、探索者チームから強烈に光る槍が飛び出した。槍はバフォメットの胸を貫通して刺さった。バフォメットが呻くと黒い煙になっていく。


 犬井の体から急激に力が抜けた。力の供給が途絶えた。間に合ったかと安堵するが、まだ終わっていなかった。部屋の反対側に背筋が寒くなる気配を感じた。振り返ればいつの間にか門が出現しており、門から僧正が現れた。


 僧正が印を組み呪縛の霊能力を放つ。犬井には僧正の呪縛を解くだけの力は残っていない。探索者チームの霊能力者も動けずにいた。超能力者も槍に力を奪われ過ぎたのか、呪縛を解除できない。


 かろうじて、呪縛を逃れた侍が僧正に斬りかかるが軽く弾き飛ばされた。僧正は強くなっていた。このままでは僧正により全滅すると焦ったが体が動かない。


 僧正は両手で印を組み呪文を唱える。黒い煙が三百㎏はありそうな紫の碑文石に変わった。碑文石はゆっくりと宙に浮き、飛んで門の中に消えた。僧正に碑文石を取られた。僧正がふらっと揺れる。


 僧正はバフォメットを碑文石に変えるのに大きな力を消耗していた。僧正はそのまま門を潜る。僧正を追い掛けたかったが体が思うように動かない。門を潜って僧正は消えた。


 無理やり体を動かして、消えかかる門に飛び込む。飛び込んだ先は暗闇だった。呪縛が解けたので体を動かせるようになったが、どちらにいけばいいのかわからない。上下左右もまるでわからない。


「飛び込んだはいいが僧正に閉じ込められたか」

 暗闇の空間からどう出ていいかわからなかった。ただひたすらに飛び出口を探す。暗闇の空間では心眼も役に立たない。


 不思議なことに消耗はなかった。暗闇の空間にいれば、アバタールの消滅はなさそうだった。されど、アバタールが戻らなかった場合、犬井の体がどうなるか不明だった。最悪、衰弱死もあり得るかもしれない。


 どうしたものかと思っていると、声が聞こえた。

「お困りのようなら助けてあげようか?」


 声には聞き覚えがあった。闇を纏った魔物だ。

「ありがたい申し出だが、タダではないんだろう?」


「いや、何もいらないよ。君は自分がやりたいようにしてくれればいい。もっとも、君なら時間を掛ければここから自力で出る方法を見つけるだろうが、時間がもったいない」


「バフォメットは倒された。時間は豊富にあるさ」

「そうでもないよ。まだ、事件は終わっていない。君は最後のピースとなってもらいたいな。この事件をハッピーエンドにしたい」


 魔物にとってのハッピーが人間にとっての幸せとは限らない。だが、僧正が碑文石の回収に動き出した以上、まだ何かが起きる。手を借りるべきか?

 

 闇を纏った魔物が楽しそうに促す。

「僕は急いだほうがいいと思うが、嫌なら無理強いはしない」


 癪だが闇を纏った魔物の提案に乗る。いまなら、まだ僧正の計画を止められるかもしれない。

「ここから出してくれ。ただ、借りを作ったとは思わない」


 犬井の前にキラキラと光る門が現れた。門を潜ると、寺の境内のような場所だった。

寺の境内には蛇目と僧正がいた。

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