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第二十四話 現代科学と探索者

 僧正がなぜ碑文石を集め出したのか気になる。素人考えで動いて、見落としがあっては困る。幸い蛇目と知り合いになれたので利用するに限る。使えるものはなんでも使っていかないとダメだ。


 連絡を入れ蛇目との面会を取りつけた。ダンジョン研究棟の共通応接室で待つ。前回と同様に五分遅れて蛇目がやってきた。犬井は挨拶もそこそこに用件を切り出す。


「ダンジョンで僧正を見ました。僧正は配下の魔物を使って碑文石を集めています。魔物である僧正が碑文石を集める理由がわかりますか?」


 蛇目は興味を示したのか機嫌が良い。

「一般的に魔物が碑文石を集めないと考えられているのが主流だ。だが、大多数の魔物が碑文石を集めないから、他の魔物も同じだと考えるのは早計だと私は思っている」


 蛇目には何か思い当たる節があると見た。

「魔物と人間との間に取引があると?」


「真相はわからないので否定はしない。また、知性のある魔物が探索者との間で取引を持ち掛けてくる状況もある。だが、相手が僧正であるなら、別の可能性もある」

「もったいぶらずに教えてくださいよ」


 蛇目は悠然と構えて、面白そうに微笑む。

「そう焦るな、もったいぶるのは物を知る人間の密かな楽しみだよ。僧正はもしかすると、碑文石から魔物を作る方法に気が付いたのかもしれない」


 驚きの発言だった。考えてもいなかったが、不可能ではない気がする。魔物が碑文石に変わるのなら、碑文石から魔物と作れる可能性もある。犬井が魔物を作る方法を知らないから、魔物製造法が存在しないとは言えない。


「聞いた覚えがないですが、理論的に碑文石から魔物を作るのは可能なんですか?」

「現代科学では不可能だよ」と蛇目はあっさり認めた。


 脅しかと、安心すると蛇目は楽しそうに持論を続ける。

「ただ、現代科学ではダンジョンを作れない。また、どうやってダンジョンが作られたかも解明できていない。現代科学の限界だ」


 不可能な構造物が存在するのなら、不可能な魔物製造法が存在しても不思議ではない。ただ、人間の知性が及んでいないだけの可能性も充分にある。そうなってくると、当然別の疑問も湧く。


「僧正がただの魔物ではない現状は認めます。では、僧正って何者なんですか?」

「君が捕まえて白状させてくれよ。私には知りようがないし、僧正が何者か、なんて専門外だ。信頼するに足る調書が取れたら良い値段で買うよ」


 無理だと思う。アバタールがあと十人もいれば捕縛できようが、犬井一人では命を懸けて倒すのですらやっと。ちょっとでも油断すれば、こちらの身が危ない。


「僧正は魔物を作るために、碑文石を集めて何かをする気だと思います。魔物の軍団を率いて地上に侵攻してくるとでも」


「私ならそうしないね。地上ではまだ人間が優勢だ。勝てるとは思えない。私なら碑文石を使って、まず憑依できる強い魔物を作るね」


 僧正自身の強化は考えられる。でも、そうなると厄介だ。せっかく、こちらが強くなったと自信を付けたのに、また差を拡げられる。これ以上、僧正が強くなるのは勘弁してもらいたい。下手に僧正が強くなれば、アバタールといえで手が付けられなくなる。


 気分が滅入ると蛇目が追い打ちをかける。

「バフォメットかあるいは、バフォメットより強い魔物を作るのかもしれない。碑文石の使い方によるだろうが僧正はバフォメットを制御できるようになるのかもしれない。どちらも、推測に過ぎないがね」


 悪い予感ほどよく当たったりする。バフォメットが強化されて戻ってきたら札幌に死体の山ができかねない。僧正がバフォメットを操るなんて悪夢以外の何物でもない。どちらにしろ、僧正を止めないと事態はまた悪い方向に進む。


 出勤してダンジョンに潜る。行き先は地下二層。僧正と遭えれば幸運だが、こうなると配下の魔物でも見つけ次第減らしておきたい。碑文石が集まるのが遅くなればそれだけ僧正の計画も遅れる。


 地下二層で謎の扉を探すが、見当たらない。姿鏡の魔物が作る扉なので移動が可能であり同じ箇所に出現しないので苦労した。以前にあった場所の付近にもない。おそらく、怨霊坊主が配置を変えたと見ていい。数時間かけてやって扉を見つける。


「これは他の探索者は数が多いので、扉が見つけやすい。一人しかいない俺だと辿り着くのは難しい。俺の介入を警戒しているのか」


 謎の区域に入って、さっそく索敵を開始する。会いたい時に限って会えないのがダンジョンだったりする。遠くで灯が見えた。探索者だと思うが動かないので嫌な予感がした。現場は下り坂になった先の部屋だった。


 探索者が四人倒れている。命の灯は消えているのですでに死んでいる。探索者の腕を調べると、救難信号が発信できる時計は作動していない。死体に憑依できないか試す。ぞわぞわする嫌な感触を我慢すると、死体にも憑依できた。


 ただ、体は死後硬直が起きつつあるのでまともに動かせない。手探りで体を触ると、外傷がなかった。骨折の形跡もない。念のために床を這って調べるが薬莢が残っていない。


 苦労しながら体を動かして他の探索者を調べると全員に外傷がなく、弾が銃に残っている。相手に気が付く前に殺された。バンシーに奇襲を受ければ有り得る状況ではある。だが、それなら、全員が同じ場所にいる点が不自然である。


「奇襲で全滅。生存者なしか、だが、バンシーのせいなのか?」

 元は五人か六人のチームで一人か二人逃げた可能性も捨てきれないが違う気がした。


 他の探索者の時計を調べると、高級探索者時計をしている探索者がいた。高級探索者時計には救難信号を打つ機能の他に色々な機能がある。有毒ガス検知の信号が点灯していた。


 憑依した死体の鼻ではわからなかったが、探索者の死因は有毒ガスによるものか。有毒ガスは怖い。自覚症状が出た時にもう手遅れで逃げられなくなっている場合もある。この部屋は下り坂の先にあるので部屋にガスが溜まっていたのかもしれない。


 気になったので碑文石を持っているか調べる。死んだ探索者は碑文石を持っていたがどれもグレードに低い碑文石ばかりだった。勘だが質の良い碑文石が抜かれていると感じる。


 普通なら他の探索者の仕業を考えるが盗んでいくなら、全部持って行く。となると、魔物が回収していった可能性が高い。怨霊坊主も石の力士も呼吸しないので有毒ガスが効かない。疑念が湧く。


 部屋に罠があった。これはダンジョンなので有り得る。死んだ探索者から魔物が碑文石を回収する。これも僧正の配下の魔物ならやる。問題はこれが本当に部屋に最初からあった罠かどうかだ。


「部屋の天井は低いのでバフォメットは入れないが、バフォメットの能力を継承した小型の魔物を僧正が生み出したら厄介だな」


 他の探索者が有毒ガスの部屋に入らないように、部屋と通路の途中に高級探索者時計をした死体を動かしておく。探索者が死体を見れば警戒し、必ず調べるので、先が有毒ガスの部屋だとで気付くはず。


 憑依を解除してダンジョンを探すともう二組の探索者チームを発見したがやはり死んでいた。先と同じように死因は有毒ガスによるものと思われ、グレードの高い碑文石は持ち去られていた。これは、誰かが注意喚起してやらないともっと死人が出るな。


 犬井は探索を切り上げる。探索者組合の情報提供サイトに実名で謎の扉の先に有毒ガスが発生する区域ができている情報を通報した。早ければ明日にも注意喚起が出るのでこれ以上は有毒ガスの犠牲者は増えない。どうしても行きたいのなら防毒マスクをもっていくのが探索者だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終わってしまいますか?毎回楽しく読ませていただいておりました。続かないのは残念です。
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