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第二十一話 扉の向こう

 事態は三日で動いた。地下二層に謎の扉が現れたと探索者ニュースに出た。謎の扉の先は地図上では存在しない場所に通じているとなっているが詳細は不明。情報提供を求めていた。


 危険な香りがした。探索者には好奇心の強い人間が多い。謎の扉を開けた先が地図上では存在しない場所に通じているのなら、どうなっているか知ろうとする。なのに、情報がないのはおかしい。考えられるのは入ったら帰ってこられない事態を意味する。


 いくつか想定できる。危険な地域に繋がっている。深層階への近道である。扉の先には危険な罠が多く仕掛けてある。どれかだと思われる。用心深いチームなら情報が出てくるまで待つが、待っている間に犠牲者は増える。


「誰かが情報を持って帰らないと収拾がつかないか。俺が探るか」

 茶の一杯を飲んでから出掛けようと給湯室に向かう。暗い顔の竜田と廊下で出会った。問題を抱えていそうな顔だ。探索者も心配だが、同じ会社の人間が困っているのならそちらも助けたい。助け合ってこそ組織の強みも生きる。


「どうしました? 問題が起きたって顔してますよ。俺でよければ相談に乗りますよ」

「実は昨日ダンジョンに入ったうちのチームが帰ってこないんですよ」


 謎の扉に関するニュースが流れたのは今朝だ。昨日ならまだ一般的になっていない。まさか、危険に気が付かず謎の扉を潜ったのか。


「チームはどこに行く予定になっていましたか?」

「話題に上っている地下二層です。もしやと思いますが扉を潜った可能性もあります」


 危険地域で遭難か。昨日の今日ならまだ生きているかもしれない。ダンジョンには水がある。汚いのでそのままでは飲めないが、濾過装備を持っていれば問題なく飲める。


 濾過装備は誰か一人が持っていればいい。重くもないので、チームの場合、一人は持つのが常識である。また、探索者は必ず携帯食料や高カロリー食を持っているので、三日くらいなら活動できる。問題は武器と弾薬だが、こればかりは運である。


 敵が次々と出てくれば、弾丸を撃ち尽くす。弾切れを起こすと、銃士中心チームだと攻撃力が激減する。敵を倒せなければ生還は難しい。こういう時に腕の良い霊能者や超能力者がいれば敵ぼ接近を感知できる。


 さすれば、遭遇を回避して弾を節約できる。いなければ、斥候が代わりをするが、心理的緊張から掛かる負担は大きい。


 会社のチームは銃士が中心。霊能者や超能力者はいない。野山羊が斥候として従事しているのでまだ良い。だが、野山羊が負担に耐えられないと全滅があり得る。


 これは危険を承知で俺も謎の扉に飛び込まないといかんな。様子を見たいと呑気に構えている場合ではない。犬井がアバタールになって助けにいこうと決心した時、会社の入口のドアが開く音がした。


 竜田と顔を見合わせて足早に歩いて行く。チームのメンバーが全員帰還していた。チームの全員は疲れた顔をしていた。隊長が竜田に声をかける。

「ただいま帰還しました。今回は凄い実入りになった。碑文石の検品を頼みます」


 探索者が予想以上に収穫を上げて、帰りが遅くなるケースはある。今回は悪い予想が外れて良い結果に終わったのか。


「おかえりなさい」と安堵した顔で竜田が声を掛けて、隊長と一緒に事務室に入っていく。他のメンバーも夜通し働いたので疲れていたのか、着替えるために、上の階に上がっていく。気になったので最後尾の野山羊を捕まえて声を掛ける。


「儲けたようだけど、どこでそんなに儲けたの? 地下二階にそんな美味しい場所なんてもうないでしょう」


 野山羊は疲れているようだったが犬井の問いに答えてくれた。

「以前に地下二層にはなかった場所に扉があったんですよ。潜った先で碑文石が落ちている区域があったんです。そこで碑文石を拾っていたら扉が消えて、どうにか別の場所から帰還しました」


 碑文石が落ちているケースは稀にある。なんらかの理由で探索者が倒して回収しなかった、ないしは回収できなかった場合だ。


「誰かが中で戦った後だった? なら、碑文石はグレードが低い物がごっそりあったのか?」

 探索者にとって碑文石の回収は収入に直結する。わずかでも回収しようとするが、時に大物狙いの場合は捨てておく対応を取る。


 不思議だといわんばかりの顔を野山羊がする。

「それがですね。薬莢の類が一つも落ちていなかったので探索者の誰かが残していった碑文石ではないようなんです」


 今回のケースでは餌として僧正が碑文石を撒いたと考えられる。だが、餌として碑文石を置いたのなら拾われるだけ大損である。ここらへんで謎の扉を潜ると儲かると噂を流したかったのなら、野山羊たちを無事に帰した説明は付くが、本当にそうなのか?


 野山羊が帰ってこられた状況は意図したものか、それとも本当に偶然なのか。判断に迷うところでもある。


「魔物はいなかったのか? 罠とかは?」

「罠はありましたが誰かが既に解除していました。私が始めて見る魔物も二体いましたよ。隊長はバンシーと長鼻と呼んでいました」


 バンシーや長鼻は地下四層に出る魔物である。危険度でいえばサイクロプス級の少し下ぐらい。野山羊たちのチームが戦っていれば全滅が有り得る。


 ただ、バンシーは縄張りを持ち、縄張り内に入らなければ襲ってこない。長鼻は徘徊する凶暴かつ危険な魔物だが探知距離が短い。長鼻は隠密行動をとればやり過ごせる状況も多い。


 隊長は両方の魔物の特性を知っていた。知恵を絞って地図を作りながら、安全なルートを探したのだろう。帰還できた結果は運かもしれないが、有能でなければ運があっても帰還できなかったと見ていい。


「いいチームに配属されて良かったね」

 本心からの賞賛だった。


「でも、皆、神経を使い過ぎて、くたくたですよ。生きて帰れるとは地上に出るまでわかりませんでしたからね」


 まだ、気が張っているから立っていられるが、腰を下ろしたら立てないほど疲弊するなと思った。あまり引き留めるのは悪いので、野山羊を解放した。


 野山羊の背中を見送り思う。出現する魔物の強さがわかった。情報が出回れば、自信のない探索者は手を出さない。リスクを承知で突入する探索者はいるだろうが、良い装備と人員を揃えるはず。


 これで予期しない犠牲者は減る。また、帰ってこられるのだから罠ではない。危険な区域になるが入っても良さそうだ。僧正が何を企み、危険な場所に繋がる扉を置いたか、調査する必要がある。放置しておくと後手に回りかねない。

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