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第十八話 横槍

 アバタールとなり、ダンジョンに入る。ダンジョンの空気が少し変わっていた。なんというか、ダンジョンが騒がしい。彷徨っていると、頻繁に銃声や戦闘音が聞こえる。覗きにいけば、探索者が魔物を狩っていた。


 地下一層と二層に探索者が増えた。増えた探索者は手際が良いので、一層から魔物が減る。魔物が減れば儲けも減るが、ピンチに陥る事態も少ない。当然に助けを必要とする探索者もいなくなる。いても、付近に探索者がいれば助けてもらえる状況も多い。


 平穏なので地下三層より下に行ってみようかと思いもしたが思い留まる。

「安全だと思っている時こそ危ないのが探索だ。僧正が探索者を狙ってくるなら油断を突いて来る」


 犬井は地下一層と地下二層での探索者の動きの把握に努めた。すると、集団から離れて探索しなければならない区域がいくつか見えてきた。もし、僧正が探索者を見張っているなら、孤立がしやすい区域に探索者が来た時を狙う。


 犬井は危険な区域に目星をつけて巡回を始めた。地下二層を見回り、地下一層に移動。ピンチに陥っている探索者がいないので、今日はこの巡回を最後に上がろうかと考えていると戦闘音が聞こえてきた。


 急ぎ飛んで行くと探索者が魔物と戦っていた。相手は待ちに待った僧正だった。集団から離れた探索者を狙ってくると予測した通りになっていた。


 探索者は四人。銃士二人、侍一人、霊能者が一人の構成だった。敵は腐った亡者が三体とデビル・ベアが二体と僧正だった。デビル・ベアや腐った亡者は犬井の敵ではないが、僧正の編成している魔物に隠し球があると困るので、まずは様子を見る。


 探索者の銃士は無駄に銃を撃ちまくらない。慌てずに威力の高い弾を使い狙撃する。デビル・ベアは一撃で倒された。デビル・ベアの筋肉は厚く、骨は硬い。されど、目から脳までは柔らかいのでピンポイントで打ち抜ければ一撃で殺せる。


 理屈の上では一発必殺が可能だが、ダンジョンは暗くデビル・ベアは動くので実行するのは難しい。もう一体のデビル・ベアも同じように倒されたので銃士の腕は良い。


 霊能力者が『禍祓い』を行い腐った亡者を倒そうとする。『禍祓い』は発動まで時間がかかる。敵は待ってくれない。


 壁役の侍が素早く動く。ただの刀では腐った亡者に有効的な攻撃ではない。侍も熟知しているのか、腐った亡者の膝を狙った。腐った亡者に痛覚はない。体の構造は人間なので膝を破壊されれば機動力は削がれる。


 動きが遅くなった腐った亡者に『禍祓い』が決まる。腐った亡者が呻く。三体は霊能者の目前で倒れた。

「霊能者もやり手だ。これで、残るのは僧正だけだが、果たして僧正に通用するか」


 探索者が僧正を倒せるのなら別に良いとは思った。同時に倒せるとは思えなかった。現状では探索者が押しているが、僧正には焦りが微塵もない。


 探索者の銃士と侍が膝を突いた。あきらかに呪詛の攻撃を受けていた。無事なのは霊能者だけ。僧正が呪文を唱えていた素振りはない。

「やはりまだ隠し球があったか。しかも、かなり厄介な魔物と見た。魂壁爆散 方円之陣」


 霊能者は僧正への攻撃を試みた。僧正の足元に円が現れ爆発する。噴き上がる光の中で僧正は悠然と立っていた。僧正が涼しい顔で右手だけで印を組む。僧正は呪文を唱え始める。


 銃士と侍が気力を振り絞って呪縛を自力で解除した。侍が僧正の詠唱を止めるために斬りかかる。僧正は空いている左手で軽々と刀を弾いた。侍は連続で斬りかかるが全て見切られている。僧正は左手一本で連撃を防ぎつつ、詠唱を続ける。


 銃士が光る石を投げた。亡霊系の魔物に効果がある護身石だった。護身石は強い光を放ち僧正の足元で弾けた。だが、僧正はわずかに顔を背けただけで効果はほとんどない。ここで霊能者が『大禍祓え』を完成させたが僧正には効果がなかった。


 僧正クラスの魔物でも『大禍祓え』がまるで効果なしは有り得ない。目の前の僧正はやはり別格だ。僧正の呪文が完成しそうになったので、銃士と侍は霊能者の傍に集まった。


 霊能者は即座に結界を張る。『大禍祓え』からの結界の即時展開は普通の霊能者では無理だ。探索者の霊能者はできる部類に入る。だが、僧正はできる霊能者の上を行った。


 僧正の詠唱が完成する。霊能者の張った結界が吹き飛ばされた。強い呪詛の影響により探索者全員が倒れた。天井から大きな黒い水が滝のように降ってきて探索者に多いかぶさる。隠し球の、汚染された水の精霊だ。


 汚染された水の精霊に取り込まれた探索者は呼吸もできず、動けもしない。勝負はこれでありだ。

犬井は隠れた位置から高速で移動する。肉眼では見えないが、アバタールには汚染された水の精霊の核が見える。核を壊されては精霊系の魔物は体を維持できない。まして、浅い階層ならダンジョンから力を得られずに水に戻るだけ。


 犬井は汚染された水の精霊に貫き手を放つ。水に勢いよく手が滑り込む。汚染された水の精霊の核を掴んで力任せに握り潰した。探索者が自由になったので逃げるための経路を指し示す。霊能者はアバタールが見えたのか走りだす。他の探索者も武器を捨てて逃走した。


 僧正は逃走を妨害しなかった。ただ、突然現れて隠し球の汚染された水の精霊を倒した犬井を見ている。邪魔をする者はいない。犬井は僧正に襲い掛かった。


 犬井は反応速度と思考速度を上げる。接近してアバタールでの戦いを挑んだ。犬井の直線的で素早い攻撃に対して、僧正は円を描くような受けで防御する。油断すると、僧正は掌底を打ってくるので油断できない。僧正は動きづらい恰好にもかかわらず、的確に犬井の攻撃を捌いていた。


 格闘戦では決め手にならない。さっと距離をとる。

「魂壁爆散 方円之陣」


 先に僧正の口元に霊力が集まる。犬井の霊能力は発動しなかった。犬井から先に仕掛けた。なのに後から動いた僧正の力が先に発動して、犬井の霊能力を打ち消した。霊能力の実力に関しては僧正のほうが上だ。


 僧正は強い。だが、負ける予感はなかった。近接格闘技術でも霊能力でも劣っていても、アバタールには、アバタールの強みがある。


 僧正が呪文を唱えようとする。妨害するために接近戦を挑む。体の一部を爆発する光の粉に変えた。僧正が独特の円を描く受けをしようとする時に、光る粉を爆発させる。


 一度、二度なら問題なく僧正は受けていたが、度重なると僧正の動き、円を描く受けが乱れる。そこに強い爆発を重ねる。爆発の威力で相手の防御を打ち破った。


 僧正の顎に一撃が決まる。詠唱が止まり、僧正の顔が歪んだ。すかさず、蹴りを放つ。僧正が一歩、退いたので足の長さを伸ばし一撃を入れた。


 体を回転させて腕を鞭のようにしならせて追撃する。僧正は回避しきれず胸にヒットした。手を鉤爪状にしてひっかけて投げ飛ばした。投げられた僧正が地面を転がる。僧正は体勢を崩していたので、距離を詰めて殴りつける。


 一撃、一撃に手応えがあった。アバタールの拳は僧正に有効だった。このまま倒しきれるかと思った所で、犬井の体が急に後方に引っ張られた。犬井は大きく後退せざるを得ななかった。僧正からの攻撃ではない。


 まだ、隠し球があったのかと苦く思う。僧正と犬井の間に闇を纏った魔物が現れた。僧正相手に有利になっていたところで油断した。闇を纏った魔物の実力は未知数。僧正に合力されたら、一気に犬井が不利になる。勝ちが見えたところで形勢が逆転され危機となった。

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