表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/34

第十五話 地下三層の魔物

 休日明けに会社に行くと弾薬などの装備が搬入されるところだった。仕入れ先の業者は変わっていない。価格は安売り業者に比べれば高いが物がしっかりした品を扱う業者だった。


 兎田の方針もあるだろうが、安易にコスト削減に走らないところは好感が持てる。最高級装備を支給してくれとは望まないが、武器と弾薬くらいはまともな物を使いたい。


 探索者チームの控室に適当な書類を回収しに行く。探索者チームは地図を広げてブリーフィングをやっていた。地図をチラ見したが地下三層のものだった。


 地下三層はふとした油断が死に繋がる危険な領域、中堅クラスでも行ったきり帰ってこない場所である。だが、探索に成功したときの実入りも大きい。心の中で心配する。


「それなりの碑文石を拾うとなると三層くらいに降りてもらわないと困るが、果たしてこのチームで大丈夫かな?」


 野山羊の他に四人の人間が参加する。隊長ができる人間なのは顔を見ただけでわかる。他の三人はそれなりに年がいっているので信用もおける。地下三層行きはちょいと危険な気もするが、野山羊の成長には避けては通れないところだ。


 新人もいつまでも新人ではいられない。経験を積んで成長しないとやってはいけない。部屋のホワイトボードを見ると出発が十時三十分、帰還が十五時となっている。探索に使う時間が短いのは野山羊の負担を考えての決定だろう。


 アバタールとなり地下三層に先に行く。もし、地下三層に異常があれば野山羊たちに警告をしておくつもりだった。地下三層も地下二層と見た目は変わらないが、やはりダンジョンから発せられる力が地下二層より強い。アバタールの体も調子がよい。


 地下三層を歩くと魔物が徘徊しているが、それなりの強さであり、数も多くない。五年前と変わらない三層の姿があった。会社のチームの顔ぶれを確認したが、大きなトラブルがなければ、死人は出そうにないと思った。


 地上に上がって詰所の前に行く。六m離れたところに日陰があるので待機する。詰所の前では探索者が社名を名乗ってライセンスを提示して入っていく。待っていると、犬井の勤める会社名を名乗る声が聞こえ、野山羊と名乗る。


 人数も五人と合っている。さっそく、後ろを付いて行く。探索者チームには霊能者や超能力者がいないので、犬井の存在がばれる危険性がなかった。隊長の方針なのか無駄口は叩かない。


 地下三層に降りると、野山羊が斥候として前進する。良い斥候役がいると、魔物の不意を突ける。危険な相手なら回避もできる。それゆえに重要な役割でもある。野山羊の腕が気になったので野山羊に従いて行く。


 野山羊の動きはまだ無駄があるが機敏である。体力や力の問題があっても斥候には攻撃力はあまり求められない。野山羊には適任かもしれない。前方の部屋を野山羊がそっと覗く。


 部屋の広さは横十m、縦二十mと縦長の部屋だった。中には樹人と呼ばれる魔物が三体いる。樹人は人型をした樹の魔物で、枝や蔦を伸ばして攻撃してくる。蔦や枝に棘があり、棘には出血毒があるので接近されれば厄介である。


 だが、銃士中心に組んでいる探索者チームには恰好の獲物である。野山羊がそっと引き返して、隊長に伝える。隊長は即座に討伐を決めた。チームがそろそろと近づき、部屋の外から一斉射撃をする。


 樹人が気付いた時にはすでに体はばらばらだった。近づくことすらできず、倒された。まずまずの手並みだった。野山羊が辺りを警戒している間に他のメンバーが碑文石を拾う。


 通路の向かい側を何かが進んでくる気配がした。犬井は先行してそっと進んで行く。金属鎧に身を包み大きな金棒を持って歩く牛頭の姿が見えた。牛頭は身長が三m近く、体重三百㎏はある。筋肉の塊であるのに動きは速い。


「これは戦闘になるな。できれば勝って碑文石を持ち帰ってもらいたいがいけるかな」

部屋に戻ると、野山羊とすれ違った。野山羊はすぐに戻ってきて隊長に牛頭が向かってきていると報告する。


「牛頭が来ます。金属鎧と金棒で武装しています」

 野山羊たちのチームは大光量補正がついた暗視装置を使っているので、牛頭からは灯で察知される状況はない。兎田は金の使い道を知っている。


 牛頭の金属鎧の強度によっては銃や刀では苦戦する。さりとて、牛頭で苦戦するようではあまり良いチームとは言えない。さて、どうする? 


 今なら急げば逃げられるが、隊長は即断した。

「この部屋で戦う。出会い頭にグレネードを撃ち込め」


 二人の探索者が準備を始める。他の三人も銃を撃ちまくる準備をする。部屋に牛頭が入った瞬間に中からグレネードが二発飛んでいく。グレネードが命中して派手に爆音を上げる。それが合図となり、銃がフルオートで一斉に火を噴く。


 人間なら終わりだが、相手は頑強な魔物。そう簡単には倒れなかった。鎧が千切れかけ血を噴き出しながらも、フルオート射撃に耐えた。弾丸を撃ち尽くした探索者が装填にかかるタイミングで牛頭は突進してきた。


 犬井は高速で牛頭の後ろに回り込む。牛頭は犬井の存在に気が付いた。犬井の行動のほうが早い。犬井は牛頭の膝裏を蹴った。牛頭が姿勢を崩した。倒れる寸前で踏み止まるも探索者チームへの反撃のタイミングを外した。


 探索者は距離をとりながら扇状に展開して、牛頭の頭に攻撃を集中させる。牛頭が血飛沫を上げるが、倒れない。普通の骨格ならライフルで撃たれようものなら貫通するが、硬い骨で止まっている感じだ。だが、雨のように飛ぶ弾丸が牛頭の目を潰していた。


 犬井はふわっと浮くと牛頭の首に足を掛けて乗る。両手に霊能力を込めて耳を打つ。牛頭の聴覚を潰した。目と耳を潰された牛頭は金棒を滅茶苦茶に振り回して暴れ回る。だが、探索者の位置がまるで掴めていない。探索者は適宜距離をとり弾丸をひたすら浴びせる。


 勝負はあったと思ったところで、犬井は誰かがこの部屋を覗いている事態に気が付いた。視線は感じるが敵の姿は見えない。ただ、悪意は感じる。

「まずいね、これは探索者側には不意打ちになるね。俺しか敵に気が付いていない」


 犬井はするりと牛頭から離れると、視線を送っている相手を探す。視線は右側の壁の向こうから感じた。壁をすり抜けると、そこには角のある一つ目の巨人がいた。


 体格は四mと牛頭より大きい。サイクロプスだ。サイクロプスの目は壁の向こうを見通しているのでただの目ではない。


 サイクロプスは壁をすり抜けて来た犬井に気が付いた。即座に近くにあった人間の死体を投げつけて来る。犬井はひょいと躱す。サイクロプスが瞬間移動したように加速した。躱せない間合いからのサイクロプスの剛腕の一撃が犬井を襲う。


 冷静に上半身を布状にして折り曲げる。そのまま、滑るように前に出て足でサイクロプスの金的を蹴った。固いゴムのような感触があって足は弾かれた。


 サイクロプスは攻撃を気にせず、高速のジャブを放つ。いちど、体を煙状にして攻撃をやり過ごす。サイクロプスの攻撃が止まった段階で、霊能力を使う。

「魂壁爆散 方円之陣」


 サイクロプスの足元に光る円ができた。霊能力の爆撃がサイクロプスを襲う。サイクロプスは身を縮めて耐える姿勢を取った。


 霊能力による攻撃にサイクロプスは耐えた。効いていない状況をアピールするためか、サイクロプスは軽く肩を回す。


 お互いの手が届く距離で立ったまま睨み合いになる。サイクロプスの強靭さと速度は牛頭以上。生半可な霊能力も効かない。となれば、犬井には決め手がない。


 サイクロプスにしても煙状になれる犬井に剛腕が通じない以上、有効打がない。一見すると勝負がつかずに泥仕合になりそうな気配がある。だが、サイクロプスには不思議な能力がある瞳がある。


 これにまだ隠された力があるなら、話は別だ。サイクロプスから見れば、犬井にまだ隠している霊能力があるなら勝敗はわからない。


 犬井は心の中で舌打ちする。

「後の先を取ってカウンターを霊能力で決められれば良いが、そう簡単にはいくまい」


 お互い相手が何を隠しているか思案中でもある。先に動いて先制が決まればよい。だが、外して手の内を曝せば、逆に窮地に陥る。両者が同じく考えたから戦闘は一時中断となった。


 外せば危ないが、いつまでも睨み合うのは性に合わない、仕掛ける。とはいえ、最速の一撃をもってしてもサイクロプスを沈めるのは困難。


 アバタールの体よりもっと速く動かす、そんな動作ができるか? 閃きがあった。煙よりさらに体を小さく、粒子の波にする。同時に、相手の攻撃をすり抜ける。ガン治療で使われる重粒子線がヒントである。相手の体をすり抜けながら破壊する。


 成功すればいくら相手が固くても強靭でも倒せる気がした。魔物の体をすり抜けてなおかつ体を再構成できるかは未知数。最悪、すり抜けられず、風のようにあたって終わりかもしれない。


 閃くとできる気がしてならなかった。上手くいく保証はない。確信に似た感情はダンジョンの中で得られる高揚感のためかもしれない。でも、試したい。


 犬井は粒子の波となるイメージを描いてサイクロプスにぶつかった。気が付いた時にはサイクロプスが後ろで倒れていた。やったのかと思い注視すると、サイクロプスは碑文石に変わる。


 犬井は強力な攻撃法を編み出したが同時に欠点も理解した。この術は使ったあとに記憶が少し飛ぶ、また体を再構築後に数秒の硬直状態が発生する。


「一撃で倒せた場合はいいが、倒し損ねると危険だ。また、一対一ならいいが、敵が複数だと使うのは危険だな」


 すり抜けて壁の向こう側に行く。野山羊たちが牛頭を倒して碑文石の回収中だった。牛頭の碑文石よりサイクロプスの石が高価なので回収してもらわないと困る。


 さてどうしたものかと困っていると、野山羊が隣の部屋に繋がる隠し扉を見つけた。サイクロプスが奇襲用に利用するはずだった物だ。これは幸いだった。


「隊長こっちに大きな碑文石が落ちています」

 野山羊の声を聞いたチームが移動する。隊長は即断した。


「これは素晴らしい。よし、大分早いが切り上げよう。チームが全滅して他の奴らにもっていかれたら癪だ」


 探索者の間に安堵の空気が流れた。蛇目との約束はこれで果たせる。さっそく碑文石の秘密を教えてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ