扉
月の眩しさが気になる日だった。
夜、寝る支度をする。
歯磨きをして、後は寝るだけ…に。
閉じてたカーテンの隙間から漏れている月の明かりが、いつもは気にならないのに、今日はなんでか気になって。
「そういえば、今日って月が大きく見える日なんだっけ…」
特に深く考えもせず、自然と手が動いてカーテンを開く。
窓を通しているのに月の明かりが輝いて見える。
「綺麗…だな」
月って…
「こんなに綺麗だったっけ…」
導かれるように、その月明かりから目が離せなくなる。
じっと見ることって、あんまりないかもしれない。
見るって言うよりも、魅入る、そんな感覚に襲われる。
「ーーーーて」
「ーーーぁてーー」
「え?」
どこからか、声が聞こえる?
「ーーーあけ…て」
気のせいじゃなく?
「ーーたーけて」
「ーーーあけて」
「たすけて?って?」
意識しだすと、徐々にはっきりと言葉になって届いてくる声。
自分以外いないこの場所。
どこからか聞こえてくる声に不思議さを、怖さを感じると言うよりも、どうにかしてあげたいって気持ちにさせられるような、この感覚。
「ーーたすけーーあーけてー」
聞き取りやすくなってくる言葉。
どこから…?
月明かりに奪われていた目を、その声の元を探すように部屋の方に向ける。
「……これって…どういう…」
月明かりを背にして、部屋の床に自分の影が映し出される。
見慣れたはずの自分の部屋。が。
「ーーあけてーーたすけてー」
床に見えるのは自分の影だけじゃなく、床に照らされた窓枠。じゃなく、扉。
あるはずのない、扉。
しかも、さっきまではどこから聞こえて来てるのかわからなかった声が、扉を認識した今ではそこから聞こえてきてるように思える。
「ここから?だよな?」
床にある扉。
その扉のノブに手を伸ばす。
シンプルな棒状の取手で、影になってるはずなのに月明かりの影響を受けてるのか、鈍く光ってる。
普通に考えれば、怖いとか、おかしいとか、抵抗があるかもしれない。
けど、不思議とそういったことはなくて、極々自然に。
カチャ
握ったドアノブを回すと、静かな部屋の中に硬い音が響く。