1年限定でイケメン最強になったら
どうやら俺は王女の許嫁になったらしい。俺が見た目を変えて、許嫁になるまでの俺の恋物語について聞いてもらおうか。
「この国の時期国王候補として、ダークを任命する」
俺はこの瞬間から次期国王となった。
「それ故、国王の長女である王女ルイザ姫の許嫁とする」
そう、それはこの国の王女ルイザの婚約者、将来の結婚相手と決定された瞬間でもあった。
夢のような幸せだと思う。
でも、俺には秘密があって、結婚はできないだろう……。
好きになってもらえないだろう……。
一般的に幸せな話ではないか? 逆玉の輿ではないか?
いやいや、この王女相当クセモノなのだ。
冷酷非道、滅多に笑うことのないサディスティックな王女は、気は強く、口は悪い。女というよりは、男と言ったほうがいい。ツンデレの「デレ」がない王女。この人と結婚したいなんていう男は、あまりいないと思う。
見た目は長いストレートヘアーで冷たい目をした美人だとは思うが……みんな罰ゲームに当選したかのごとく……
「ご愁傷様」
婚約発表があってから、会う友達、会う友達に言われるセリフだ。
「おめでとう」ではない。
ここの戦士はたいてい、この国の兵士として働いているので
王女のことをよく知っているのだ。
気に入らない部下を殺す。兵士が死のうともなんとも思わない王女。
王女は幼少のころから剣術にたけていた。
その王女に同年代で勝利できる若手を探していた。
王女は自分より強い相手が欲しかったのだ。強さに飢えた王女。そこで一般国民まで幅広く募集をかけたのだった。
その武術大会で、優勝したのが俺だったのだ。
しかしながら、俺には誰にも知られていない秘密がある。それは、ほんとうは小太りのブサメンで弱い男だということ。
それはあるできごとがきっかけで、1年間限定でイケメンに変身できるという魔法をかけられたのだ。
昨年の王女の誕生日パーティーのときだっただろうか……。
俺はあの日、はじめて恋を知った。
王女が美しすぎてまぶしすぎたのだ。
太陽のごとく、俺は目を開けていることができないくらいだった。王女の美しさに衝撃を受けた俺は一般人。王女と話すことも近づくこともできない。雲の上の存在だった。しかも、弱いブサメンだ。金持ちでも貴族でもない。王女に相手にされる要素はない。
目の前に現れたのは美しい妖精のような女性だった。
望みは何かと聞いてきた。
俺はひとめぼれした王女と仲良くなりたいと望んだ。
すると女性は――
「恩返しに1年限定であなたをイケメン男子にします。そして、1年限定で剣術武術ではだれにも負けない強い力を与えます」
という魔法をかけたのだ。
そして妖精は、ヘタレの俺が王女に近づけるチャンスを与えてくれたのだ。
その後、俺は王女の剣術相手の募集をみて、大会に出場したのだ。
でも、本当は剣術の腕は中の下、程度だ。
しかし、魔法のおかげなのか、俺の腕前はぶっちぎりに強くなっていた。
努力なしの最強なのだった。
もしかしたら俺は、イケメンになったおかげで、姫に気に入られたのかもしれない。でも……魔法が解けたら相手にされないことはわかっている……。
今の幸せだけを楽しんで、ドロンすればいいのか?
急にブサメンで弱い男に戻っていたら絶対ふられるだろ? 普通。
王女は強い男が好きなのだから。なんで1年限定? どうせなら永遠に最強でイケメンになれる魔法をかけてほしかった。
俺は優勝してから、この国の若手戦士育成所のトップ戦士集団に所属した。
魔法をかけられてからというもの、大会では毎回優勝していて向かうところ敵なしだった。
いつのまにか俺は、王女の御学友(剣術友)になっていた。いつもルイザの傍にいたように思う。最近では、休日は王女のボディーガードのアルバイトまでやっている。ルイザはスキを見て俺を倒そうと必死に修行に明け暮れている。王女は私が倒すまではここを辞めるな、といつも口癖のように言っている。勝ち逃げは許せないらしい。彼女の高い高いプライドが許さないのだろう。エベレスト並みに高いプライドが俺の強さによってへし折られたのだから。向かうところ敵なしだったルイザが負けてしまったのだから……。でも、俺は魔法で強くなったのだから、絶対に負けることはなかった。要するに、最強なのだ。俺の望みはかなった。
この短期間にどれだけ一緒の時間を過ごしてきたのだろう。
そして、結婚なんてしたらどれだけ一生一緒なのだろうか?
めまいと吐き気がするくらい長い話だ。
ルイザは、国王である父親しかいない。母親は表向き死んだことになっていたが、本当は部下と駆け落ちしたらしい。国王の妻が駆け落ちなんて公表できず、死んだことになったらしい。このことを知っているのはごく一部の人間だけだ。俺は婚約者になってから、ルイザからその話を聞いた。ルイザは、国王の任務が忙しく寂しかったのだろう。小さいころから剣が友達だった。それだけは、ルイザに同情をする。
しかし、いつの間にかルイザは自分のやり場のなさを兵士や部下に当たるようになっていったらしい。そして、気に入らないものは処刑することをなんとも思わない冷血人間になっていったのだ。
俺は、ここへきてはじめてその事実を知って、彼女に暖かい心を戻してほしいと願うようになった。
彼女の冷めきった心を溶かすことは難しいということは、周りの国の戦士たちに聞いていた。彼女の冷酷非道な行いは表向き報道されることはない。国王は、たくさんの秘密を抱えているのだ。娘のこと、妻のこと……
それは、トップに立つものだからこそ表沙汰にできない秘密なのかもしれない。
婚約する前に国王が直々に俺に話をしてきた。
「娘の心を溶かしてほしい。一人娘ゆえ甘やかしすぎた。唯一、ルイザは君にだけは心を開いている。」
本当は、超弱いブサメンとは言えず……。イケメンになった俺は「任せてください」と答えてしまった。
一年後が怖い。みんなを騙していた俺、まずいよな? 俺、処刑されるのではないのか? 少しずつだが不安になってきた。
♢♢
これは、ここへきて、まだそんなにたっていない頃の話だ。王女は、クリスマスだろうと毎日剣術の修行を欠かさない。当時は、俺との勝負に負けたことが悔しくて、俺を倒すためだけに、執念も合い混じって特訓に精を出していた。勝ち逃げされることは、彼女のプライドが許さないらしい。
戦うこと、勝つことしか眼中にない王女は、楽しさも悲しさも――何もそこにはないようだった。
俺は、努力して強くなったわけでもなく、今現在は世界一の強さだろう。
しかしながら、本当は中の下程度の強さなわけで……。
一応、魔法が解けたときのために修行はしている。魔法が解けたら、弱小の俺は間違いなく王女に殺されるだろう。瞬殺だ。
しかし、魔法でイケメンになったとか強くなったっていう話は、誰も信じてはくれないだろう。
だとしたら……逃げたとしたら、本当の俺の顔を知っている者はいないから、永久に捕まらない。しかしながら、王女と結婚することもできない。実に難解な問題だ。
話を戻そう。あれはクリスマスイブの日。
粉雪がひらひら舞い散る寒い午後だった。
定時を過ぎても王女は、ひたすら修行に明け暮れていた。
俺は同僚の戦士たちと一緒にクリスマスパーティーに参加することになっていた。知り合いの若い女性も呼んでパーティーをするらしい。イケメンになるとクリスマスイブはリア充な過ごし方になるものだ、なんて思いつつ若干浮かれていたことを否定はしない。
まだこの時は、王女の婚約者になっておらず、俺は少し新しい出会いとやらに期待をしていた。だって王女ときたら、一度も笑わないし、無口で戦いを挑んでくるだけで……。一目惚れをした俺ですら、他の誰かを探そうという気持ちになっていた。
王女は異性としての意識を俺に対して持っているとは思えなかったし、1年限定のイケメン期間だからこそ、普段できない経験がしたいという気持ちにもなっていた。
かわいい女の子が来るらしいとか、今夜は飲み明かそうとか、戦士たちの会話が自然と王女の耳にも入ったのだろう。
「せいぜい楽しんで来い。私は貴様が遊びほうけている間に、強くなって貴様を倒す。覚悟しろ」
俺、悪役か何かですかね? 王女の中では俺は倒すべき相手で、友達になるとか情というものは芽生えていないようだった。冷たい機械人間といわれている王女だから仕方ないのかもしれない。
「せっかくのクリスマスイブ、楽しまないのか?」
俺が聞いた。しかし、彼女にそんな質問は、野暮でしかなかった。
はじめてのリア充クリスマスパーティー。
女の子にモテるという状況は、人生初だ。
今までさえないブサメンだったのだから、当然だが。モテる男子としての喜びの中で人は見た目が百パーセントという悲しい現実を知ってしまった。
考えていることは、不細工時代と同じでも、顔立ちが変わっただけで、女の子の態度の百八十度の違いは何だ? 所詮、女という生き物はその程度のものなのか? 俺は、自問自答していた。
シャンパンで乾杯して、ケーキを食べる。歌って踊って、かわいい美女に優しくされる。人生初の楽しい経験に、俺は少しだけ浮かれていた。
二次会はどうする? という流れになり、俺を気に入ってくれた女性が強引に行こうというので、なんとなく参加していた。
もう、この子と付き合ってもいいような気がしていた。その子は連絡先を教えてきた。ふと、王女のことを思い出した。
目の前のかわいい女の子も気になるが、途中で俺は会場を抜け出して、初恋の人の元へ俺は向かった。
ブサメン時代は 絶対に言われたことのないセリフ、
「もう 帰っちゃうの? 残念」
人生は全くもって不平等だ。
俺は、ブサメンのわびしさもイケメンの楽しさも経験済みの男だから、身をもって感じる。人生は顔なのだと。今まで言われていた、
「キモい、ブサイク、怖い、暗い」
こんなセリフはイケメンに生まれていたら、一生無関係なのだ。
王女のいる城の一室に俺はバイクを飛ばして向かう。やっぱり、トレーニング室はあかりが灯っていた。王女は俺を倒すために鍛える。でも、俺の強さは実力ではなく、魔法のお陰だ。
どんなに強くなっても、俺にかなうわけがない。人生は不平等の連続だ。
俺は決死の思いで誘ってみた。
「クリスマスイブに何をしている? ちょっと外に出掛けてみないか?」
王女を外に誘うことは禁止されている。
勝手な外出はだめなことはわかっている。
それは王女もわかっていることだった。
でも、一年限定のイケメンの俺は、今年を逃したら来年はない。
来年はきっとここにはいられないだろう。
魔法が解けたら別人なのだから。
王女が俺の問いかけに答えた。
「パーティーはもういいのか? 今からどこへ行くのだ?」
少しだけ俺の誘いに食いついてきた。
「一時間くらいバイクでちょっと出掛けてみないか?」
やっぱり、断られるかな……俺は内心ドキドキしていた。
「たまには出かけてみるか」
意外にも王女は乗り気だった。
王女は思わぬ提案をしてきたのだった。
「貴様が言っていた幻のラーメンを食べてみたい」
王女は外の世界を知らない。
この国の姫君なのだから当然ながら、超箱入り娘である。
ラーメン屋に入ったこともなければ、1人で外に出かけたこともない。
いつもボディーガードが複数ついている。
今夜は俺がボディーガードだ。一年限定だけど、最強なのだから。
王女のラーメンが食べたいという提案に心の中で思わず突っ込む。
クリスマスイブにラーメンかよ?
きっと今日、ラーメン屋は、がら空きなはずだ。王女の考えていることは一般人には理解できない。どんな高価な店よりも、国宝級の建物よりも、王女にとってラーメン屋がとても興味のあるものなのだろう。
俺は一押しの幻のラーメン屋に向かった。
そこは、 男1人が食べに来るような古びた油まみれの店で、国王の娘である王女が行くことは、絶対に一生ないような店だった。
俺は自慢のバイクに王女を乗せて、冬の道路をぶっ飛ばした。あまり長時間不在だと周囲にばれてしまう。タイムリミットは一時間。こっそりうまく城を抜け出すことができた。
小デブのブサイクがバイクに乗っていても、さっぱり格好がつかないが、イケメンのスタイル抜群な男がバイクに乗るとかなり見た目がいい。これがドラマだったら、さまになるだろう。一年間だけ、せいぜい格好つけさせてもらうぜ。
冬の風は冷たい。
頬が痛い。
王女がバイクにニケツなんて、前代未聞だろう。
いずれ俺は消える。
少しくらいのヤンチャは、許してくれ。
俺の今しかできない、思い出作りなのだ。
王女は、一目惚れの初恋相手だ。一緒にいたい。
王女の腕が俺の腹の辺りを締め付ける。
ブサメンだったころの俺なら腹が出ていてプニプニだった。
全然ドラマチックじゃない。
しかし、今の俺の腹筋は割れて脂肪はない。魔法の力だがな。




