力が……欲しいか……?
羞恥心が溢れだして視界が滲んでしまった。小説の題材が浮かばず、気分転換という建前を掲げて現実逃避のゲームに勤しんでいたところ、情けない姿を見るに見かねたイマジナリーフレンドに声をかけられてしまったらしい。例の病はとっくに完治したと思い込んでいたけれど、今頃になって再発するとは恐ろしい。
(……我は貴様の妄想などではない……我が名は古の邪神・禍津甕星……力を欲するならば与えてやろう……ただし、それ相応の代償は……)
中二の好物、ドクロ横文字Tシャツ並みのネーミングセンスで瀕死の理性に止めを刺された。もし末っ子だったら、我慢できず恥ずかしさで叫びながら激しく床を転がり回った挙句、悶絶していただろう。確かに人の心を容赦なく磨り潰す邪悪さは持ち合わせているようだ。
大丈夫。まずは、ゆっくり大きく深呼吸。落ち着いて大好きな素数のことを考えよう。これは罪悪感が産み出した幻聴にすぎないのだから。
(……何度言えば分かるのだ! ……我は正真正銘、由緒正しき荒ぶる厄災、天地の理を乱し、世に破壊と混沌をもたらす邪神、禍津甕星なり! ……不敬な態度を改めぬのならば、その身と心に生涯癒えることのない恐怖を刻みつけ、思い知らせて……)
もし明日の朝まで治らなかったら、かかりつけの病院で診察してもらうべきだろうか。いい歳した大人が「邪神の声が聞こえるんですけど」なんて幼稚な告白をしたら、今度から陰でエセクラフトとかイタぃコなんて呼ばれそうで、考えただけでも胃がずしりと重くなる。
(……ひどい……邪神なのに……本当に邪神なのに……)
私が被害妄想に浸っている間に、当初の堂々とした威厳は儚く崩れ去り、すすり泣きと共に声はフェードアウトしていった。もし、万が一、本当に邪神だったのなら、ちょっと悪いことをしてしまった気もする。何はともあれ、深淵なる闇の力は貰えなかったけれどネタは頂くことができたので、まが……邪神様には一応感謝しておこう。




