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斜線の向こう側  作者: 月夜桐華
3/4

一つ目の話⑵

ホラー映画を実体験した人はどれぐらいいるだろう。

ましてや、PC画面の向こうから伸びてきた両手から

肩を掴まれて引き込まれるなんて、何処まで非科学的なんだ。

物理という概念はどうした。

困惑を隠せない頭の中、受け容れがたい現実に抗うために

自分は普通の人間だと言い聞かせるため、

繰り返し問いかけていた。


だって信じられないじゃない。

「何でこんなにさわやかなアニメOPみたいなところにいるのよ…。」

空は雲が漂い、小鳥の囀りも聴こえて、

葉の擦れ合う音もした。

なんとなく起き上がり、木に凭れ掛かると

「見つけたです〜!!!」

あのホラーを経験させた者と同じ声がした。

…いや、張本人だった。

見間違えることがない、

両腕に植物柄の蛍光塗料の緑の入れ墨。

しかしこんなに華奢だっただろうか。

衣服は澄んだ空を連想させる蒼いロングのワンピースに

透明感のある羽織をまとい、風になびく長い銀髪。

草原と木陰と海外の海沿いのカラフルな街のような

この世界に、馴染むその姿は

妖精のようだった。いや、実際にエルフだった。

耳が尖ってる。

身長は私より高い。170cmほどだろうか。

しかし、見た目の割に口調が幼い。

それも個性として許される世界なのだろうか。

あ、なるほど、コスプレイヤーさんか!

クオリティー高いな!

だからって、入れ墨はちょっとな…

あ、ステンシルか?

などと色々思索していると

目の前のレイヤー様(仮)が大人びた口調で

「勇者様?女神様?聖女様?なんとお呼びしましょう」

ハスキーヴォイスを発した。

って、ん?今なんて言った?

というか、あれ、口調とか声が違う・・・?

すると、目の前に長方形の透明な枠が現れた。

そこには【name】と書かれており、

なんだこれ?と触れると

某黒い敵役が光る剣を使って戦う時のような音が発生し、

目の前にPCのキーボードが現れた。

え、打つの?打てるの?

とにかくポチポチ触るとなんと文字が打てた。

・・・ああなるほど。

ようやくわかった。VRってやつか!なるほどなるほど!

にしても感覚もリアルだなー。よく出来てる。

などと感心していると

「あの~」

レイヤー様(仮)が困った顔をしていた。

困った顔も美人とは…なんだか哀しくなってきた。

私もこんな造形に産まれたかったと

今日ほど思ったことはない。

「あ、申し訳ございません。えーと」

こういう時に名刺があれば楽なんだけどなーと

紙の名刺の有り難さを思い知らされる。

とりあえず思いつかないので、

昔、趣味でものづくりをしていた頃のHNの一つを使うことにした。

「イリス様ですね。」

YES/NO表記が出たのでYESにした。

「ちなみに私は何を…?」

「それは、ボクが説明するです!!」

突然レイヤー様(仮)の後ろから

あの、例のホラー現象を起こした声がした。

ひょこっと顔を出した小人はパーティでもするのか

緑の三角帽を被っており、

白いパーカにデニムのつなぎを着ていた。

その姿で、私とレイヤー様(仮)の周りをスキップしながら

「この世界を救うという簡単なお仕事なのです!」

「…はい?」

今、さらっとなんて言った。

「この世界を救うまで、イリス様の本当の世界には帰れないので!」

「は?」

拉致られた上、世界を救えですと?いやその前に

「本当の世界って、ここゲームの中だよね?」

すると、レイヤー様(仮)は

ゲームとは何語?とでもいいたげな視線を向けてきた

(あ、イタタタ…やめて、その視線つらい…)

小人はフォローするように

「イリス様の世界では、この世界の事を―ゲーム―と言うのですよ〜」レイヤー様(仮)に教えた。

納得された。

小人を手招きし、根本的なところを訊く。

「え、あの、目の前の人、コスプレイヤーではない?」

「こす、ぷ…?」

おーけー。わかった。

「あの人なんて名前なの?」

「レイ()様ですよー」

「あ、あの~…」

レイヤー(仮)もとい、レイア様が寂しそうにしていた。

「あ、申し訳ございません!只今、小人さんにマナーをうかがっておりまして!」

「あら、そうでしたの。コビット、あまりイリス様に気を使わせてはダメですよ。」

小人はコビットという名前であった。

すごく安易な作者もいたものだな。

とりあえず、こんな時は!

スカートの裾をつまみ深々とお辞儀をし、

「改めまして、イリス・アンヴィレイシスと申します。レイア皇女とはつゆ知らず、気が動転していたとはいえ、無礼な口をきいてしまい、申し訳ございませんでした。」

謝礼を述べた。

その時、頭の中では【偶々、ロングスカートでよかった!】

と憧れの所作ができた事に喜んでいた。

(ちなみに本人はアンヴィレイシスと名乗ったことに気づいていない)


先程まで、ホラー映画のごとく、この世界に拉致され、世界を救えと無理難題を突きつけられ、いや、無理だろ。という

思考回路になっていた人物が、

実は一番、単純な思考の持ち主だったりする。

人間とはよくできた生き物だとつくづく思う。


「元・皇女です…」

レイア様は悲しそうにわらった。

その笑顔からなんとなく察した。

「失礼ながらお訊ねします。もしかしてレイア様の国で革命が起きたのではございませんか?」

大抵のアニメやゲームのテンプレを口にすると

無言の肯定を首の動作一つで表した。

「なるほど。そういう事でしたか。」

納得はした。納得したフリはした。

でも私は、普通の人間だ。なら、まずは。

「コビットさん、この世界の歴史について教えてください」

たぶん、この【世界を救う】という大業の相方になるコビットに教えを請うことにした。

「コビットでいいよ〜、ね、レイア様!」

コビットがレイア様の名前を呼ぶと

「それでしたら、現在、私がお世話になっているお家にいらっしゃいませんか?」

素敵な笑顔でレイア様のお家に招かれてしまった。

「よ、よろしくおねがいします」

そして、初期のゲーム機のピコピコな音楽を頭に流しながら、

歩いているとあっという間に家についた。

お読みいただきまして誠にありがとうございます

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