始まり
サロシャットは閉口していた。まさか自分が五段に昇格できるとは思わなかったのだ。
「私がこんな光栄に預かれるとは……」
遡ること五年前。サロシャットはソロチャットと言われ虐められていた。ソロチャットはソロのチャット、つまり独り言の意味だ。
「ああ、私はお終いだ……」サロシャットは言った。
彼女は異端宗教の巫女の家系であり、神懸りの使い手だった。神の言葉を独語症的に語るため、異端であるがために、虐められた。
彼女の宗教では、ワードボックスというゲームの勝敗によって占う儀式が行われていた。そのゲームは古典文学から引用した文を神力によって紙の上に表示し、動かすことで新たな物語を作り、紙面上の陣地を競うゲームだった。彼女たちボックス使いは古典文学をおよそ全部暗記していた。
サロシャットは彼女の神社の巫女業に飽き飽きしていた。しかし、ワードボックスは宗教色を取り除いた一般向けのゲームとして流行していた。彼女は宗教が嫌いだったので、世間のワードボックスに熱中した。
巫女だったから簡単に一般人を倒せた。巫女業に集中しない彼女を両親は嫌な目で見たが、彼女は気にしなかった。
段位を獲得したサロシャットは、昇段試験を受けていた。
”憂鬱な友よ、お前は本や書き物のうえに姿をあらわしてくれた。”
ファウストの引用だ。
その時、サロシャットは五段に昇格した。
それからはソロチャットとは呼ばれなくなった。