表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/216

2歳 -水の極日-

雨続きの今日この頃。

今年は水の気が強いのか、水の極日に入る前から雨の日が続いていました。幸いにも叔父上や山吹の帰還が早かったので、畑の種まきなどは早々に終わらせることが出来たのですが、こうも雨ばかりだと色々と捗りません。


洗濯物は浦さんの「撥水」を使った乾燥を止めて、桃さんの「乾燥」を使う事によって長雨の時の特有の問題は解決できているのですが、とにかく雨に濡れながら狩猟や採取をしなくてはならないので、連日泥汚れが酷いんですよね。


更に水の月に入ったとはいえ、まだまだ気温が低い日が多く。雨に濡れながら外仕事をした後は、身体が冷え切ってしまっています。その為に直ぐに温泉に直行することになるのですが、屋根で覆っている部分が半分程度の半露天なので、風があると雨が吹き込んできちゃうんです。その辺りの対策も少し考えないといけません。


2年間、色々と頑張ってきたつもりだったけれど、

まだまだあちこちに改善の余地があるなぁ……。



なんて事を考えていたら、外から叔父上が戻ってきました。


「姉上、魚とハマタイラを取ってきたので受け取ってください」


そう言って中には入らずに外から食料だけを母上に手渡します。何せ予想通りのドロドロのびちょびちょで、中に入ったら確実に掃除の手間が増えます。母上と(つるばみ)も1時間程前に同じような状態で畑作業と採取から戻ってきていて、つい先ほど温泉から出たばかりです。


「はい、今日もお疲れ様。

 すぐにお湯につかって温まってきなさい、身体に悪いわ。

 あら? 山吹はどうしたの?」


「山吹は狩った山鳥を小屋に置きに行っています。

 そちらから直接、温泉に向かうそうですよ」


そう母上と叔父上が話しているのを、少し離れた場所から見ていた私と兄上。兄上は母上から出された課題の、物語の音読をようやく終えた所でした。兄上が音読して私が聞く事で双方の勉強になるだろうと、山吹が昔ばなしの巻物を天都で買ってきてくれたんですよね。竹取物語とよく似たお話でしたが、幼児向け用にアレンジがされているのか、かなり簡略化&マイルド化されたお話でした。



そうそう叔父上と山吹といえば、出稼ぎから帰還した直後に自分を守護する精霊と対面する機会がありました。ですが本当に対面しただけで、叔父上たちの守護精霊はずっと無言でした。私とは言葉を交わしてくれたのに、何故自分が守護する人間とは言葉を交わさないのかと疑問を抱いたのですが、


<そなたは天女ゆえ、我らは常に傍に居る事が出来る。

 だが、他の者はそうはいかぬのだ。

 ゆえに関わりを最小限にすることが、精霊の慣わしとなっている>


と金さんが説明してくれました。母上や私は天女なので、その中に戻る事で精霊力の回復を行えます。ですが叔父上をはじめとした他の人は、ずっと傍に付きっきりだと精霊力の回復ができません。正確に説明すると、少しずつなら回復するのですが、回復量よりも消費量の方が上回ってしまうので、回復が追いつかないという事のようです。


にも関わらず、遥か昔、まだ第4世代の精霊が生まれたばかりの頃。一柱の精霊が人間と言葉を交わし親密になった結果、守護対象の人間の為にかなりの無理をして力を使い、消滅してしまった事があるのだそうです。それを避ける為に、精霊は最低限の繋がりしか持たないようになったのだとか……。


では、叔父上たちの精霊も私の中で回復出来ればよいのでは!

と閃いたのですが、それだと叔父上たちから守護精霊を奪う事になるらしく。それは絶対にダメなヤツだと即座に判断しました。なかなか思うようにはいきません。


ただ叔父上たちは


「日頃の感謝を直接伝える機会を得て、心から嬉しく思います」


って頭を下げて、ただただ感謝していました。この世界の価値観だとそういう感じなのかもしれません。感謝を告げられた二柱の土の精霊は、少しだけキラリと光を発してから姿を消しました。再び土の精霊力が豊富な場所に戻ったのだそうです。その消える直前に


<我らの守護する子らを、どうかよろしく頼む>


という小さな小さな声で心話が届きました。その声の小ささや申し訳なさそうな声音から、これは精霊からすれば筋違いの頼みなのかもしれません。ですが、私からすれば


<言われるまでもなく!! 叔父上も山吹も全力で守るよ!!!>


と目力たっぷりな視線を向けて、返事をしたのでした。



ちなみに母上は天女ですが、碧宮襲撃事件以降、自分を守護する精霊の気配を殆ど感じ取れなくなっているそうです。自分の所為で精霊様を大変な事に巻き込んでしまったと悔やんでいた母上に、浦さんが


「あなたの中でただ眠っているだけです。

 どれほどの眠りを必要とするかは解りませんが……

 決して消えた訳ではありません。

 無理する事を止め、己自身を大切にし、少しでも身体を休めなさい。

 あなたが元気であること、それがあなたを守護する精霊の為にもなり

 なにより子供たちの為になります」


と、母上に言った事があるんだそうです。確か浦さんが精霊力の使い過ぎで私の中で眠りについて、目覚めて少し経った頃の話しだそうです。


未来樹(小説版)では母上の精霊は結局最後まで出てきませんでした。

母上の最後……それは8年後に起こる疫病による病死です。


私は大切な母上や橡がそうならないように、数多のフラグをへし折ってきたつもりです。ですが油断はできません。今後ももっともっと頑張っていかないと!と張り切っていたら、後頭部に軽く手刀(チョップ)を喰らいました。


「気持ちは解るが、ほどほどにしとけ?

 お前は直ぐに無茶するから」


と桃さんにお小言を言われてしまいます。

ですが、この2年で私も学習しました。私が無茶をして怪我をしたり寝込んだりしたら、母上や兄上や叔父上、橡に山吹。そして三太郎さんたち……みんながすっごく辛そうな顔をするって事を。自分の所為でそんな顔をさせたくないので、今では自重するという事も覚えましたし、もう少し大きくなったら兄上と一緒に色んな鍛錬も受けたいと思っています。病原菌を寄せ付けない衛生的な環境、栄養バランスの取れた食事、そして病に負けない体力づくり。これらを私を含めた家族全員が気を付ける事で、疫病フラグを木端微塵にしてやります!





この2年。


衣の分野では土蜘蛛の糸から3種の糸を作り、


艶糸(つやいと)でたくさんの布を織り、その布で肌着や着物を作って常に清潔な衣服を身に纏えるようになりました。母上たちは基本的にはヤマト国の衣装を身に纏っているのですが、部屋着というか寝間着としてイオニア式キトンを利用しています。私と兄上は相変わらず、1日を通して着脱が簡単なドーリス式キトンです。寝具も肌触りの良い艶糸で織った布で出来ています。


硬糸(かたいと)は釣り糸にしたり、織物をべとべとさんの撥水液と合わせて窓ガラス代わりに使いました。透明度を上げる苦労や強度を上げる為の試行錯誤はありましたが、その甲斐あって綺麗な窓になり部屋の中へ外の光を届けてくれています。岩屋は昼でも暗かったですから……。


伸糸(のびいと)は切れやすい難点がありましたが、組紐にして使う事でその難点をカバーし、今ではシュシュとして家族全員が髪を結う時に使っていますし、兄上や私の服のベルトとしても活躍しています。


土蜘蛛の糸は強靭で汚れに強い反面、染色ができないのが難点です。何とか色を入れたくて試行錯誤をずっと続けているのですが今も失敗続きの日々で、そろそろアイデアが何も思いつかなくなってきていて、心が折れそうになっている今日この頃です。



食の分野では


この世界ではタブー視されている物も含め、様々な食材を活用し油と酢に困る事はもう無いでしょうし、甘味料として甘葛煎も作り出しました。


(こうじ)も作り、麹と塩とタケノコで竹醤(ちくじゃん)を作り、その竹醤から焼肉のタレや出汁醤油も作りました。今後は毎年、相当量の竹醤を仕込む事を考えて麹室(こうじむろ)も作り、麹が繁殖しやすい温度や湿度を保てる環境を確保してあります。


出汁といえば、干しキノコは桃さんのおかげで失敗(カビ)とは無縁となり、ハマタイラの貝柱や大根等の干し野菜は、保存食としてとても重宝しています。また澱粉(でんぷん)の確保の為に百合の移植も進め、百合根の確保を容易にしました。


それらの保存食を作るのに必要不可欠なのが塩と保存容器です。


塩はまだ本格稼働はしていませんが、海水を拠点の地下まで引き込んだので、その海水を使って塩を作る事をこれから本格化させようと思っています。


ただ作ったばかりの洞窟なので、海藻がまだ全く生えていません。釣り堀としても活用できるようにもしたいのですが、その所為で魚が来ず……。早急に海藻を移植して、海水魚も食べられるようにしたいところです。


保存容器は金さんの「鍍金(めっき)」と桃さんの「硝子化」の合わせ技で琺瑯(ホーロー)容器を作ってもらいました。その琺瑯で保存容器はもちろん、様々な形状の鍋や食器も作ったのですが、使い勝手が良いと母上や橡に喜ばれています。変わり種で「吸水」の霊石を仕込んだ、お米に急速吸水させる琺瑯鍋なんてのもあります。また、酢や竹醤を仕込む際にも使う為、今では数えきれない程の琺瑯容器が此処にはあります。


嗜好品としては葛の葉茶や、果物や木の実の甘葛煎漬けやシロップ。そのシロップを使ったジュースやスポーツドリンクっぽい飲み物などなど。他にも、私はまだ飲めませんが林檎からお酒も造りました。アルコール度数は蒸留の回数を変えて3段階あり、一番高いアルコール度数の林檎酒は消毒用アルコールとして使っています。蒸留でアルコール度数を上げるという技術はこの世界にはまだなく、好奇心を刺激された叔父上たちが試飲した事があったのですが、強いアルコールにむせてしまっていました。



消毒用アルコールと言えば衛生!


毎日、お風呂に入って頭の天辺から足の先まで綺麗に洗っているおかげで、母上たちの肌荒れや兄上の汗疹(あせも)などの肌疾患に悩むこともなくなりました。また、毎日身体をポカポカに温めている為か、毎年無の月になると寝込む事が多かったらしい母上も、この2年は熱を出す事も殆どありませんでした。


油と貝灰・木灰などから作る石鹸は相変わらず固形化できませんが、汚れ落ちと泡立ちは抜群で、最近では精油を使って香りも楽しんでいます。髪を洗った後は薄めたリンゴ酢(通称リンス)でごわつきを抑え、全身を泡で洗って肌の負担を減らし、毛穴汚れは5日に1回泥パックで解消。衣類も石鹸で洗う事によって、いつも綺麗な物を着られますす。


口腔衛生面では歯ブラシを作り、今まで使っていた房楊枝よりもずっと使いやすくなりました。ただ歯磨き粉は作れなかったので、竹炭粉と塩を混ぜたもので歯を磨いています。


あとは忘れてはならないトイレ事情。この世界のトイレ事情を知った2年前は絶望しかありませんでした。ですが今では便器だけでなく、使用後にトイレ内全てを「浄水」で自動洗浄して、常に清潔で臭いもなく綺麗なトイレが使えます。三太郎さんにはどれだけ感謝を伝えても伝えきれません。


そしてそれら汚水を含めた生活排水は、そのまま川に流すなんてことはしません。ありとあらゆる排水は一度地下の浄化槽へと流し込み、そこで「沈殿」「分離」で水とそれ以外に別けて、水は「浄水」後に川へ流し、それ以外は燃やして汚泥灰にして「圧縮」して保管しています。その汚泥灰は、石鹸を作る際に出る消石灰と合わせてコンクリートの材料になっています。



住の分野では


岩屋に住んでいた頃とは雲泥の差、月とスッポン!

全員に個室があり、ウォーターベッド御帳台やロフト、クローゼットを各部屋に完備しました。ただ御帳台は本来部屋の真ん中にある物なのですが、ウォーターベッドにお湯を流し込む関係で壁際になってしまいました。また御帳台なのに御簾ではなくカーテンを使っていたりと、母上たちにとってはちょっと首を傾げる御帳台になってしまっていますが、寝具としてとても質が高く寝心地の良い御帳台になっています。


それになにより羽毛布団!

この世界にはそもそも敷布団も掛布団も無くて、床(高位華族なら畳)の上に布を敷いて寝るのです。良くそれで我慢できるなぁ……と思ってしまいますが、これがこの世界の普通なので、誰も疑問に思わないのでしょうね。


他には床下・壁中・屋根下に温水を流して冬場は暖房&夏場は冷水で冷房と、一年を通して快適に過ごせますし、無の月でも屋根の積雪に悩むこともありません。そして外気温との差で生じる結露をはじめとした湿気対策は、浦さんの「吸水」技能とべとべとさんの殻の粉末でバッチリです。


水車を利用した洗濯機、「浄水」を使った食洗機、「発光」を使った照明器具、「保冷」&「冷却」の合わせ技が可能にした冷凍庫と冷蔵庫。「流水」で前世の水道と同じように水を使う事が出来ますし、竃も「発火」技能で火を常に保っておく必要が無く、いつも火の番をしていた橡にはとても喜ばれました。





そんな感じで、全力で駆け抜けた2年間。

良く言えば充実した2年でしたし、悪く言えば忙しない(せわしない)2年でした。でも「これでもう充分」とはまだ思えません。それだけ前世の文化水準が高かったという証左ですね。まだまだ「ここ、もうちょっとどうにかならないかな?」と思うところがあちこちにあるのです。


幸いなのは、すったもんだあったものの山吹を含めた家族みんなと仲良く、いつも笑顔でいられて、そして全員が元気な事です。前世ではお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの3人家族でしたが、今は三太郎さんも含めて9人家族と3倍になりました。


何の変哲もない毎日が楽しく、あたりまえの毎日が幸せなのです。

この幸せを守るために、私はまだまだ頑張っていこうと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ