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0歳 -火の陽月4-

早速とばかりに次の日のお昼寝の時間に金さんが見つけた候補地へと向かう事にしました。今日も一緒にお昼寝をしてくれるのは母上です。これに関して少々朝から揉めました。母上としては今日こそは橡に岩屋で留守番をしてもらい、自分が採取に向かうつもりだったようなのですが、橡が何かと理由をつけて母上を子守り&留守番役にしてしまいました。


やはりずっと「姫」として暮らしてきた母上には色々と大変なようで……。もちろん天都での生活を鑑みるに普通の姫よりは遥かに働けるんでしょうけどね。ただ、ずっと乳母や使用人として傍にいた橡からすれば自分が岩屋にいる間に、姫である母上を働かすわけにはいかないって感じなのかもしれません。


結局折衷案として、母上と私達は岩屋から比較的近い場所にある茂みに生えている木苺・野苺や桑の実。更には目についたウワバミソウをはじめとした山菜を取りながら適宜休憩をとるという事になりました。ちなみにそれらの植物はあくまでも似ているだけでなので、モドキって感じなんですけどね。


何にしても今日は兄上と遊んだり母上のお手伝いをしたりして過ごします。兄上は桑の実よりも木苺や野苺の方が好きなようで、籠に入れるより口に入れる方が多いみたい。口の周りに果汁をいっぱい付けちゃって可愛いすぎです。


私は流石にまだ食べませんよ?


果汁ぐらいなら、或は野苺1個ぐらいなら大丈夫でしょうけど、お腹壊したくないので……えぇトイレ事情的に。


ちなみに野苺の中でも黄色い花の苺は蛇苺なので、あまり美味しくないので注意が必要です。えぇ前世知識ですね。まぁ既に実が出来ている状態だと花の色が解らないことも多いんですが……。


そしてお昼寝は近くの木陰で三人で横になります。正直地面に寝るのは若干気が引けるものの、岩屋の中に充満している臭いと蒸し暑さに比べれば外の木陰はとっても寝やすいです。だからか母上はすぐにうつらうつらとしはじめ、私を挟むようにして反対側で寝ている兄上は既に夢の中です。



チャーーーンス、もぞもぞ匍匐前進で行動開始です!!



こうして匍匐前進ができるようになるまでやりたい事を我慢していたのは、自分で動けるようになってしまえば、姿が見えなくても少しの時間なら誤魔化しが効くから……。まぁ、バレない事に越した事はないんですけどもね。


三太郎さんたちも目に見えて意気揚々と楽し気です。そう“目に見えて”です。流石に匍匐前進で長距離移動はしたくはありません。なので母上たちから少し離れたところで三太郎さんたちには実体化してもらって、抱っこしてもらって移動します。


人の姿になってしまった当初は何かにつけてボヤいていた三人だったんだけど、こうやって人の姿だからこそ出来る事があるって事に気づいてからは滅多に文句を言わなくなりました。


あと心話で私が話す場合、一番近い人に心話→心話が届いた人は他二人に心話を飛ばすという方式をとる事にしました。私を含めた4人で会話をするなんて、普段は精神世界でしかやらないので私自身忘れがちですが、全員に心話を飛ばすのは正直面倒くさいのです……。


やっぱり出来るだけ早く言葉を覚えてしまいたいところです。





<金さんが目を付けた場所ってここからは遠いの?>


そう心話を飛ばしつつも私は金さんに抱えられながら跳ぶようにして移動しています。飛ぶじゃないだけマシなのか、むしろ悪いのか……。片足で踏み切るとぴょーんと数mは優に移動していきます。そうやって川の中から頭を覗かせている岩から岩へ、たまにショートカットして木々の隙間を跳んでいきます。


兄上や母上のお昼寝の間に行って帰ってこないといけないので、かなり大急ぎで移動しています。なので金さんの背後を見れば景色がひゅんひゅんと流れて遠ざかっていき、正直怖いので周囲を見たくありません。視線は極力金さんに固定です。


<そうだな、この川を上った先にある滝の裏にある洞窟を抜け……更にその奥。

 大雑把にいえばここから見て山の裏側のあたりだな。>


詳しく聞いてみると、岩屋のあるこの山はかなりの標高があるものの、岩屋の地点はせいぜい3~4合目程度。その山の裏側の8合目ぐらいの場所らしいです。なら今よりも更に人里から遠くなるだろうし安全かな? 場所探しをする際に、安全かつ水や食料の補給が容易な事が絶対条件でしたし。


水や食料に関しては及第点で、沢蟹モドキさえ取り除けば安全が確保できるとあれば、さっさとその沢蟹問題を取り除いて家の建設……いや先にお風呂かなぁ。


お風呂を作ってしまいたいです。

そうすれば夜の間にこっそり三太郎さんに連れてきてもらえるし。



浦さんや桃さんは妖の気配に注意しつつ、私の左右で一緒に跳んでいます。そういえば桃さんは竹炭づくりを頼まれた事が嬉しかったようで、起床直後にとっても良い笑顔で


<頼まれたヤツ、作ってきてやったぜ!!>


と早速報告をしてくれました。ただ……作られた量がすごかった……。


いや確かにたくさん作ってといったけれど、岩屋一杯に詰め込めそうな量は要らなかった。一応桃さんなりに気を使ってくれて、岩屋から少し離れた場所に積んであったんだけども、皆が居る最中に竹炭を持ち込む訳にもいかないし、かといってそのまま放置しておいたらその日の食料採集の際に見つかってしまいそうな距離だしで、朝から三太郎さんたちにお願いして大慌てで見つからない場所へと隠してもらったのです。


そのうえで皆が出かけてから再び岩屋内に持ち込んでもらい、床板の一部を外して床下に敷き詰めるという手間をかける事になりました。当然ながら全てを持ち込む事はできなかったので大半はそのまま隠してあります。



その間、浦さんの愚痴はまるで滝のように止まる事が無かったそうです……。

本当、ごめんね。



そんな訳で現在も浦さんは周囲を警戒しつつも少々苛々しているし、桃さんは若干不貞腐れいる感じがします。仲良くしてほしいんだけどなぁ。竹炭づくりをお願いしたのは私だから、元々の原因は私であり……。金さんに抱っこされながら申し訳なく思うと同時に、何とか仲良くしてくれないものかと悩んでしまうのでした。





目の前に広がるのは大草原……とまではいかないけれど、かなり広めの平地です。正直、山育ちの身としては山にこんな広い平地があって良いのだろうかと悩むぐらいには広い平地です。印象としてはテレビなどで見た事がある南米のギアナ高地か南アフリカのテーブルマウンテンといった感じでしょうか?


人里のある方から見える面はかなり険しいけれど普通の山に見えるのに、反対側コレなんて吃驚です。しかもここに来るまで、正直人の足では無理でしょ?って言いたくなるような難所があったりもして、確かにここなら対人間という意味では安全かもしれません。


「うぁーーーー。ぅごい(すごい)!」


舌っ足らずななりに今の感動が言葉として溢れてきます。多少の凹凸はあるものの平坦な台地には川があり、湖があり、それらを囲むようにして森もあり。この山を完全に超えてしまうと海なんだけど、その海から丸見えなんて事にもならなそうだし。


<ここ、ここが良い!!>


興奮してしまって言葉が足りないけれど、そんな感じで金さんに心話を飛ばします。


<で、あろうな。

 まぁここ以外だと少々遠いうえに水場が近くになかったり、

 平地が小さかったりするのでな>


そう金さんが頷く向う側で浦さんも


<小さくとも水場があれば私の力でどうにかできるかもしれませんが……。

 その他の条件等も考えると、私であってもここを選ぶでしょうね>


と言いつつも、地面に手を触れて念の為といった感じで水の位置を探ってくれます。


<えぇ、地下にも十分水があるようですし……ここならおすすめできます>


と太鼓判を押してくれる浦さんに対し、桃さんは不思議そうに首を傾げています。キョロキョロと辺りを見回してはまた首を傾げ、また辺りを見回す……を繰り返し挙動不審極まりありません。


<桃さん、どうしたの?>


<いや、なんか妙な感じなんだ。

 この山は別に火の山って訳じゃなさそうなのに、火の力を通常以上に感じる。

 今は確かに火の月だが、それにしたって火の力が強すぎる……>


<ここには水ではなく湯が湧くところがあるようですが、その関係では?>


と浦さんの言葉にぐりんっ!と視線どころか顔ごと向きます。


<お湯が湧く!? どこ!! どのあたり!!!>


本来なら金さん経由で飛ばす心話のルールも無視して浦さんに飛びつくようにして問い詰めます。だって、だって待望のお風呂に入れるかもしれない!


<おっと、無茶をするでない。>


<な、なんですかいきなり。危ないじゃないですか。>


金さんと浦さんが慌てて支えてくれてますが、温泉に入れるかもしれないと思うと冷静ではいられません。


<今すぐ教えて!!>


目の色を変える私に三太郎さんは呆れたように顔を見合わせたあと、仕方ないとばかりに浦さんの案内でお湯が湧いていると思われる所へと向かう事にしました。





平地を流れる川にほど近い岩場に、夏だというのに湯気が濛々と上がっている地点があり弥が上にもテンションが上がります。


ところが、ところがですよ!!


湧き出ているのはお湯というよりは泥。かなり細かい粒子の泥水といった感じでしょうか。薄青みがかった灰色という微妙な色合いをした泥湯なのです。


何というかコレを溜めて入りたいと思えるようなものじゃありません。残念にもほどがある……。泥だまりのふちでがっかりしすぎて脱力してしまいます。

しかも


「ぅあちっ!!!!」


何とかならないものかと触ろうとしたら思いのほかの熱さ。吃驚したわ……。


<もぅ、何をやっているんですか。

 お湯だと言っているのだから熱いに決まっているでしょう>


そういって浦さんが自身のひんやり気味の指でそっと握って冷やしてくれます。


<こんなに熱いとは思わなかったんだもん……。これ何度ぐらいなの?>


<“なんど”ぐらいとは?>


赤くなってしまった私の指先を浦さんがふーふーとしてくれます。不思議と浦さんの吐息は冷たいんですよね。


<いや、だからお湯の温度がどれくらいかな?って>


<“おんど”って何です?>


そこからかっ!!!!!


顎が落ちるかと思う程の衝撃でした。でも……〇度なんて温度計もないこの世界に必要の無い概念です。だから水温や気温も熱い・冷たいや暑い・寒いといった大雑把な基準で事足りてしまうのですね。


<えーとね、水が凍りだす冷たさを0度。

 ぼこぼこと沸騰する熱さを100度として、後はそれを等間隔に区切ったモノを

 熱さ・冷たさの度合いをあらわす“温度”というモノとして使っていたの。

 この先の事を考えると三太郎さんたちにも覚えてもらえると助かります>


これ、あくまでも普通の地上での話なので、拠点予定地である山の上(ここ)でも通用するのかちょっと心配です。何せ富士山の頂上だと90度ぐらいで沸騰するらしいからなぁ……。将来的に山を下りてお湯を沸かしてみたら110度とかになっていたりするかもしれないけれど、そこはそれということで割り切ってしまいましょう。


この未知の世界で私が色々と試行錯誤する際の基準だと思えば……うん。


それにしても、小説の中でも普通にお湯を沸かすシーンがあったから大丈夫だとは思ったんだけど、万が一にも水を火にかけてもお湯にならない世界だったらどうしようとか無駄に悩んじゃって、転生した当初はちょっとハラハラしたんですよね。

うん、お湯になって本当に良かった。




<なるほど。水の状態変化を基準にすれば良いのですね?>


ちょっと誇らしげな浦さんに一つ頷いてから、


<もちろん水だけじゃなくて、炎の温度が1000度とか、

 地底深くの温度が数千度とか……。


 逆に吐いた息すら凍りそうな氷点下……これは0度より下って意味ね?

 氷点下の気温や液温も表すから水だけに使われる単位じゃないけれど、

 確かに基準は水だね>


ちょっと胸を張っているように見える浦さんは、朝方の不機嫌さはどこへやらといった感じです。そのうえでじーーーーーっと泥水を見てから


<あなたが言う温度という概念でいえば56度ぐらいでしょうか>


うん、そりゃ熱いわ!!と言いたくなる温度でした。

それにしても見ただけで大雑把な温度じゃなく1度単位で分かるなんてすごいね!と言ったら


<水だからですよ。これが金属や炎の温度でしたら私には分かりませんから>


とのこと。

なるほどぉ。自分の属性のものならある程度理解できるって事なんでしょうね。



それにしても50度越えの泥水ならぬ泥湯かぁ……。

他にお湯は湧いていないかと探してみたけれど、ここと直ぐ近くの所に沸いているのだけでした。当然すぐそばだけあって、湧いているのは同じ泥湯。


んーーーー。浦さんに「浄水」してもえば入れるかもしれません。


しれませんが、今日一日だけならそれでも良いかもしれないけれど、これから先毎日みんなで入る事を考えると浦さんの負担が大きすぎるように思います。なにより「浄水」は飲み水にこそ使いたいですし。


とりあえず今日は一旦保留して何かしら方法を考えましょう。

そろそろ戻らないと兄上たちのお昼寝時間が終了してしまいます。





復路は往路よりも更にスピード感マシマシで一気に駆け下りてというより飛び降りて移動する三太郎さんに、喉の奥に悲鳴が張り付いたかの如く声にならない悲鳴をあげ、目を回しながら帰りました。


そして案の定、兄上よりも少し先に起きた母上が周囲を探していて、誤魔化す為に少し離れた死角となっているキイチゴの木の根元に金さんが窪みを作り、そこにすっぽりとおさまって寝たふりです。


「櫻、どこなの?!」


という母上の声に、あたかも今 目が覚めた!とでもいうかのように「あーうー」と返事をして無事に?母上に見つけてもらう事ができました。


ただ……


「櫻ってばお昼寝の最中にキイチゴが食べたくなったみたいで、

 いつの間にかキイチゴの木まで移動して、そこで寝てしまっていたのよ。

 槐がおいしそうに食べていたからだろうけど、もう櫻ってば食いしん坊さんね」


と、これ以降「私=食いしん坊」というイメージが付いたことには断固として抗議したい所存です。


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