第2話 森での出会い
遅くなってすいません。
あまりに強い光を浴びたため周りの景色がよく見えない。女神に飛ばされて5分くらい経っただろうか、ようやく周りの景色が見えはじめた。周りは見渡す限り暗い森である。もう一度いう森である。 異世界初心者のオレにとっては危険度MAXである。
「あの女神嫌い」
この一言が今の状況改善するわけではないが心は十分軽くなる。このやり方は学生時代から一貫して続けているメンタルトレーニングみたいなものだ。 大きな声でなくていいため手軽に使えるのが長所であるが短所として全く状況が変化しないためオススメはできない。
さてどうしたものか、ここにいたら獣に襲われてしまうかもしれない。移動した方がいいとは思うが、村に行こうにも道がわからない。ヤバいな。ここで死んだら女神に悪態をつかれてしまう。「あなたを使い魔にすればよかったわ。」ってね。
その時、頭に佐藤がうかんだ。
「そうか。 佐藤だ、佐藤をしょうかんすればいいんだ。よし。 召喚。」
ポンとシャンパンのコルクが飛んだような音がするとそこには寝転がっている猫(佐藤)がいた。詳しく説明すると背中に羽がはえた猫である。本当に佐藤なのか?
「久しぶりですね先輩。まさか納豆で死ぬとは思はなかったですよ。」
確かに佐藤でした。 しかし、こいつこの状況に慣れすぎではないのか? もしかして、この環境を楽しんでいるのか?
「おい、佐藤お前何ができるんだ? 何か魔法とか使えるのか?」
「いえ、大したことは出来ませんよ。 できることも少ないですよ。でも、空は飛べますよ。」
「そうなのか。 じゃあ、とりあえず空から村の位置を確認してくれないか。」
「了解です。」
すると、佐藤は一気に上に飛んでいってしまった。 なんで、佐藤はこんなにもやる気があるんだ。こいつはもともとめんどくさがりやで、仕事もせず、残業しているときに酒を飲むやつだ。それが、どういった風の吹き回しで素直にいうことを聞くんだろうか。
「先輩、村が見つかりました。現在の地点から東に2キロぐらいですね。」
そう言うと、彼はオレのもとまで降下してきた。
「ありがとう。佐藤。 よし、さっさと行くか。」
村の方向に歩き始めて10分が経っただろうか。 相変わらず、獣の雄叫びは鳴り止まず、森からは脱出できずにいた。
「佐藤そういえば、お前女神に会ったのか?」
気になったオレは佐藤に尋ねてみた。
「ええ、もちろん。 この姿に変えたのも女神様ですから。話もしましたよ。」
「そうなんだ。 お前この姿に変えられて女神に対して怒っていないのか?」
オレは一番気になっていることを聞いてみた。
「そんなはずないでしょう。僕は怒ったりなんかしていませんよ。それどこらか感謝すらしていますよ。」
帰ってきた佐藤の言葉が信じられなかった。 こいつはいまの状況を理解していないのか?
「お前、普通は怒るだろう。ただでさえ、いきなり異世界にブチ込まれたのに。さらにお前の場合人間ですらないんだぞ。本当のこといえよ。」
「いや、本気で感謝していますよ。 元いた世界と違って僕は人間でなければ、社畜でもありませんからね。あの辛かった暮らしからもおさらばできましたし。ここでは先輩の手伝いだけですみますからね。これも、あの女神様のおかげですよ。」
こいつはクズだ。かなりのクズだと思う。元の世界でも大して仕事していないで残業中に隠れて酒を飲むやつだ。というか、もともとこいつの発言が原因でオレは死んだのだ。佐藤に対しての憎悪がまた成長してしまった。佐藤のことを考えるとこいつが苦しむ顔を見たくなった。
「佐藤、お前オレの使い魔なんだろ。 じゃあ、オレを背中に乗っけてくれないか。」
オレはそう言って佐藤の顔を見た。たぶん佐藤は嫌な顔をするだろう。しかし、使い手であるオレには反抗することはできないはずだ。
「いいですよ。喜んで。」
「え?」
「どうぞ、背中と翼の背中あたりに乗ってください。」
佐藤はそう言うと、身体を大きくし、オレのもとに降りてきた。
オレは佐藤の行動に驚いた。 なんで、こんなに言うことを聞くんだ。 今までの佐藤からは考えられない行動に恐怖すら覚えた。 こいつ、佐藤じゃねー。
「 お前本当に佐藤なのか。」
「何言ってんすか? 僕は佐藤。正真正銘の佐藤ですよ。 元の世界でも先輩と一緒に飲みに行ったじゃないですか。 信じられないなら、行きつけの居酒屋全部言いましょうか。」
そう言うと、佐藤は居酒屋の名前を言った。
「 もういい、わかった。わかったから。もうやめろ。どんだけ言うつもりだ。 お前が佐藤ということはわかった。 じゃあ、女神に頭でもいじられたのか?」
「そんなわけないじゃないですか。 女神様はそんなことしませんよ。僕は今まで通りの僕です。佐藤です。 そんなに疑わないでくださいよ。とりあえず、乗るなら早く乗ってください。」
どうやら頭をいじられていないらしい。ここで、言い合っても仕方ないので佐藤の背中に乗ることにした。
意外と触り心地はよくカーペットの上に座っているようだ。
「先輩、あまり動かないでください。 あと、毛むしらないでください。 結構痛いです。」
ささやかな復讐がバレたので毛をむしるのをやめた。 しかし、佐藤のこれまでのオレに対する行動はかなり不自然だ。 こいつは何か企んでいるのかもしれない。そう考えたオレは佐藤に尋ねてみた。
「お前、なんでこんな親切なんだ。もしかして何か企んでいるのか?」
「さっきから疑いすぎです。先輩はご主人様なのですよ。企むわけないじゃないですか。 それに、ここは異世界ですよ。協力しないとすぐに命を落とすかもしれません。先輩もいい加減、僕を信用してください。」
確かに佐藤の言うことは最もだ。ここで仲違いをしていては、ピンチに落ちた時、大変そうだ。
「そうだよな。オレが悪かった。すまない。」
オレがそう言うと佐藤は息を漏らしながら、「良かった。」と呟いた。
そうしているうちに村が見えてきた。よく見ると門が閉まっている。 今は中に入れないらしい。
「佐藤、門の前で下ろしてくれ。今夜はここで、休もう。」
オレは、下にいる佐藤にそう言った。
「了解です。落ちないよう気をつけてください。」
そう言ったと同時に、佐藤は急降下した。下に降りたオレたちは門のそばで寝ることにした。
「おやすみなさい、先輩。」
「ああ、お休み。」
都会では見られないであろう夜空がオレたちを歓迎しているように見えた。
佐藤、再登場です。