結論を言おう。リア充爆発しろ。
「和人、あっちにいた敵はもうやっつけたぜ。これで全部か?」
「ああ、もう敵感知のスキルによる反応はない」
俺はsクラスの金髪のクラスメイト、戦士職のマルコスからの問いかけに応じる。
「ふう、片付いたか、やっぱ、探索系のスキルを使えるやつがパーティーに一人いてくれるだけで安心感が違うぜ」
傾いてきている夕日が木々の隙間から差し込んでいる森林の中、ゴブリンを倒し終えたマルコスが、こちらの方に戻って来た。
「私も和人の仕掛けた罠のおかげで敵の足が止まって、狙撃が容易だった」
マルコスとは反対の森の深い茂みの中から戻ってきたマレアもマルコスの言葉に同意を示す。
蒼い髪の彼女は銃撃手である。
「もう、今までも私がいたじゃない、私の援護魔法だけでは不満だったのかしらぁ、もう、和人は私の居場所を奪わないでよねぇ」
そう言って俺の方を向いて、むーっと、頬を膨らませてわざとムクれてみせるのは魔女帽子をかぶったシルヴィ。
緑髪の彼女は援護職のウィザードだ。
「シルヴィ、お前の魔法はほとんど攻撃魔法じゃないか。援護魔法だなんて少ししかないだろ」
マルコスは俺に構っていたシルヴィに食って掛かった。
その言葉にシルヴィは反応してマルコスの方に振り向く。
「あらぁ、そんなこと言っていいのかしら?攻撃魔法だって、使い方によっては足止めにだって防御にだってなるのよぉ?」
「おいおい、援護魔法特化のマコトとは全然比べ物にはならなかっただろ?」
「あんた、あとで覚えときなさいよ」
「嘘うそ、冗談だよ。いつも感謝してるさ」
「どうかしら」
シルヴィが、ぷいっとマルコスから顔をそむけた。
俺はそんな3人とゴブリン退治に出かけていた。
場所は学校のある街のブレイキではなく隣街、その街の北側に広がる森林地帯である。
森林地帯は広大なのだが、森の奥深くに進むほど、それに比例して、危険なモンスターが出てくるらしい。
しかし、森林地帯の入口にほど近い、この辺りはDクラスの冒険者たちにはおあつらえ向きの難易度であった。
クラスの顔合わせで、はじめて知り合った彼らとはパーティーを組むこととなって、今日が3回目の冒険。
マルコス達と4人だけの初めての遠征である。
転入試験から一か月間、俺は学校生活を謳歌していた。
転入試験が終わり、その後、学校の寮にすぐに住まわせてもらえることになった俺と、妹の神楽、天王院、町田はそれぞれのクラスに翌日には、合流。
クラスメイト達と対面していた。
この1か月間、クラスのみんなに教えてもらいながら、レベルのあげ方、スキルの覚え方、ジョブごとの役割、パーティーでの動き方、編成の組み合わせ方、様々なことを知った。
そして彼らと同じパーティーになることが決まってから、彼ら3人には特にお世話になった。
俺はクラスのリーダーである山内サクラという女生徒に彼らのパーティーに入るように勧められた。
彼女は異世界転生してきた生徒らしく、クラスでは絶大な人気を集めているようだった。
俺は山内に、マルコス、マレア、シルヴィの3人のパーティーに不足している役割を教えられて、俺はそのバランスを取ることのできる魔法、スキルを所持していくように指示された。
俺は、自分で好きな魔法やスキルを覚えられることをひそかに楽しみにしていたので少し残念だったが、仲間との連携は大切だと言い聞かせられたので、了承した次第である。
そして、そのおかげもあり、今日、パーティーを組んでから3回目の冒険で、すでに俺はパーティー内での役割をうまくこなしたことで、仲間に歓迎されていた。
何事も最初が肝心というが、良いスタートが切れているのだろうとこの時感じた。
剣を腰の鞘に入れてクエスト帰りの帰り道、俺の隣を歩いているマルコスが言った。
「それにしても、和人は戦いに慣れるのが早かったよな」
「そうだわ、私達なんかよりチョッ早よ、ちょっぱや!さすが、クラスのみんなにいろいろ教えてもらえただけあるわよね。転入してきた特権だわぁ」
シルヴィがうらやましいよぉ、と唇に人差し指を添えてなまめかしく、こちらを伺いみるように言い寄ってきた。
「でも、和人は俺たちのクラスのリーダーと違って、この世界に来るときに特典とかもらわなかったんだろ?」
マルコスが俺の前を歩いていたシルヴィにそう言う。
シルヴィの横、あるいは斜め前と言った方がいいだろうか、マレアは静かに話を聞いていた。
マレアはどちらかというと物静かなやつだ。
「それとこれとは違うじゃなぁい、私は素の和人の成長の速さについて褒めているのよぉ?」
そして、反対にマルコスとシルヴィは良くしゃべる。
俺はどちらかというとおしゃべりではないため、周りがにぎやかにしてくれることは嫌いじゃない。
「でもよお、そこんとこどうなのよ、和人?」
金髪を風になびかせながら、マルコスが俺に話を振る。
「そうだな、俺達の会った、女神はほとんど何もくれなかったよ」
それを聞いて、シルヴィが驚く。
「うっそ、それマジィ?そんなことって、あるんだ。この世界に冒険者を送り込んでくる女神の名前も何人か、私聞いたことあるけどぉ、私そんな女神様がいるの、初めて聞いたわぁ」
「少なくとも俺は天界ではなにも貰えなかったな」
俺はそう口にした。
「え、え、それって本当なの?なにも貰えなかったって、この世界に無防備のまま転送されて来たってことなのか?」
マルコスが反応する。
マレアも少し興味深げにこちらに視線を向けている。
「そうだな、俺が一緒に来た仲間が機転を利かせなかったら、俺たちはその日の宿代もなかったよ」
俺の言葉にパーティメンバーはそろって苦笑した。
「おいおい、そんなことってあるのかよ、仮にも女神様だったんなら、そんな仕打ちするとか俺にはちょっと、信じられないわ」
「でも、それって、なんの補填もないのにぃ、いきなり順応した和人ってやっぱり凄いってことじゃあない?」
その言葉に今まで口を動かさなかったマレアが同意する。
「私もそう思う。和人は身のこなし方がすでに私達よりも凄いし」
マルコスはマレアの方を伺った後、話を進める。
「まあ、そうだな。同じクラスの町田と比べたら俺もそうなんだろうと思うぜ」
町田はsクラス全員で、いくつかのパーティーでの区切りはあったものの、今までで2回一緒に狩場に赴いたことがある。
町田は魔法使い職になったようだったが、まだ、この世界に適応しているとはお世辞にも言えない様子だった。
「そういえば、和人は他にも一緒にこの世界に来た連れがいるんだろ。そいつらはどこのクラスにいるんだっけか」
俺はマルコスの問いかけに答える。
「aとbクラスだ」
「もう、俺達とは別格だよな。最初からよ」
マルコスはお手上げだぜという身振りをした。
「ちょっとぉ、そうやって、すでに諦めちゃうってどうなわけぇ?」
「なんだぁ?シルヴィ、お前そんなこと言っといて、一番そんなつもりないくせによう」
「そんなことないわよぅ」
シルヴィはおどけて見せた。
そんなこんな話しているうちに、今日の泊る宿についた。
この街に来るときは馬車を使って来て、道中寝るときは馬車の中だったため、久しぶりのベッドの上での就寝で体を休められる。
部屋は2部屋取った。
「じゃあ、俺たちはそこの部屋使うから、じゃあ、また明日な」
そういって、マルコスは部屋へと入っていった。
シルヴィと一緒に。
えっ?
てっきり、男女別で部屋を取ったのかと思ったが、どうやら違う模様。
隣には俺の目線より下の位置にマレアがたたずんでいるのが見える。
「俺てっきり、男女別で部屋を取ったかと思っていたんだけど、大丈夫なの?」
「大丈夫。いつものことだから」
いつものことか。なんだ、なら安心だ。
安心なのか?
「あれ、マレアはいつもどうしているんだ?」
「私はいつもあの二人とは違う部屋。今日はいつもと違って相部屋になるみたいだけど」
んー、どうしたことか。
俺、こういう経験一度しか味わったことないんだけどな。
もちろん、それはこの世界に来ての1日目のことだ。
それ以降は学校の寮で個室だったのと、この街に馬車で揺られながら睡眠をとったことしかない。
俺は傍らの少女に声をかけることにする。
「もう一部屋取ってくるか?」
そう問いかけると、マレアは意外だというように目を見開いた。
少し間をおいて答える。
「それなら、お願いする」
どれだからなんだ?
とも思ったが、そういうことなんで、俺はもう一部屋の鍵を受付からもらってきて、持っていた鍵の片方を彼女に渡した。
「ありがとう。マルコスが部屋を取って、二つ持ったうちの片方の鍵を和人に渡したとき、私はマルコスが何を考えているのか察したけど……。和人はそういう人じゃないんだね」
どういう人だ?と思ったが、その後、明日の朝食の時間などを彼女と確認した後、俺たちは別れた。
このリア充を爆発させてやる。