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スモール4  作者: 木下すいか
1章
6/24

お兄様は劣等生

「もうっ、あの頑固な試験官の言っていたことは理解できません」


「まだ引きずっているのか……?」


 魔法学校の転入試験が終わり、しばらくしてから配属クラスが発表された後、少しして俺たち4人は学校の校舎を出たところで合流した。


 俺は筋肉痛の影響で合流するのはこの中では最後の4番目だった。

 登校時には一緒に来ていた、女神ネメシスの姿はこの場にはまだ無い。

 ネメシスは私が戻るまで校舎の外で待っていてくれと言っていたので俺たちは待っている間、先ほど受けた試験についての話をしていることになった。


 妹の神楽は先ほどの試験の採点を受け持っていた一人の試験官への文句を続けていた。


「お兄様の実技の成績は本来トップクラスのはずなのに」


「神楽、あまり俺をはずかしめないでくれ。過ぎたことをいつまでも、とやかく言ったところで仕方がないだろう。それに余計にみっともなくなる」


「でも、お兄様の実技の腕は本来、琴ちゃんにも劣らないというのに、琴ちゃんがaクラスだっていうのなら、あんまりな結果じゃないですか」

 

 しかし、運が悪かったのだからしょうがない。




 転入試験の内容は二つだった。

 魔法適正検査と実技試験である。

 

 魔法適正検査の順序は次のとおりである。

 まずは、魔法における才能の数値を特別な水晶に手をかざすことで自動分析してもらう。

 そして、その数値が冒険者カードに記載されるため、それをもとにして試験官が評価するというものだ。

 

 一方、実技試験はすべて、戦闘に関わる体裁きや身のこなし方などの身体を動かす内容。

 魔法技能など魔法に関わる実技に関しては一切、試験されなかった。


 魔法学校なのだから魔法技能が評価されないのはおかしいと感じられるかもしれないが、これから魔法学校にいる間に学んでいくことを、入学時に評価してしまっては本末転倒だと学校からは説明された。

 もともと、この世界にいる者たちからしたら、違う意見も出てくるだろうが、俺たちにとってはこの世界に来て2日目であるのに魔法技能など評価されたとあってはたまらないので都合がいい話であった。


 そんなわけで身体能力と魔法に対する才能が評価された結果が以下のとおりである。

 まずは、天王院琴葉てんのういんことは

 彼女は冒険者Aランクに認められうる金の卵の生徒たちが通う、小文字ぼうけんしゃみならいのaクラスへの配属が決まった。

 

 さすがは、元の世界では高校での体育の成績が学年一位だっただけはある。

 彼女の身体能力は昨日のサメとの戦闘でも、いかんなく発揮されていたことからその評価も過分ではないだろう。

 俺はあまり詳しくは知らないが、高校のほとんどの成績で、学年一位だったのと同じように、魔法適正検査の方も才能の評価は、ずば抜けていたようである。


 妹の中村神楽はbクラスだった。

 小文字のbであるbクラスは冒険者におけるB階級のb、c、dクラスの中で、一番評価が高いクラスである。

 妹がaクラスに入れなかったのは定員の問題もあるようで、その評価は天王院にもほとんど引けを取らなかったそうである。

 

 入学式から通えていたのならaクラスに配属させられただろうと試験官の一人には言われていた。

 妹は高校の体育の成績は次席、他の成績もトップクラスだったことからその評価は異世界にも引き継がれているのだろう。



 そして、俺と、何かと冴えない俺の幼馴染の町田姫花はsクラスだった。

 小文字のsである。

 もちろん、正式な冒険者でいうところの大文字のAランクの上にあるとされる大文字のSランクの卵というわけではない。

 それは数時間前にこの学校に向かう馬車の中で説明されたようにだ。


 つまり、正真正銘、落ちこぼれの、正式な冒険者階級でいうところのDランク、その卵なのである。

 冒険者としての最低ランクのDランクに相当する魔法学校のクラスはk~vの12クラスであるが、sクラスはDランクの中でも下から4番目である。

 Dランクの中でも下から数えた方が早いというのだから、落ちこぼれ中の落ちこぼれクラスということだ。




 数時間前に時はさかのぼる。

 俺は転入試験の内容を聞いて愕然がくぜんとした。

 魔法学校なのに、身体能力の良し悪しが大きくクラス分けに影響するということに。

 そして、その転入試験は今日この場で行うことが決定しているということに。


 俺はの悪さを呪った。

 どうして今日だったのか。

 俺は知っていた。

 女神ネメシスが今日、転入試験を行うように手続きをしていたことに。


 俺はいた。

 昨日はっちゃけすぎたことを。

 今のコンディションは最悪だった。

 それは今朝けさからずっと続いていた。




 俺は実技試験にて修学旅行二日目にいつもより、張り切って筋トレをしてしまったことによる筋肉痛で、満足に足腰を動かせなかったのだ。

 最初はそれでも何とかやっていたが、俺が本調子でないことを目の当たりにしていた女神ネメシスが同じく見ていた俺の妹から、俺のコンディショニングの悪さを説明された。

 するとネメシスに、実技試験は後日に立て替えるから、今日は無理に身体を動かさなくていいと俺は説得され、俺の実技試験は終わった。


 しかし、その場にはいなかった先の魔法適正検査の評価を行っていた試験官はそれを認めなかった。

 転入試験の取りまとめ役で、この学校の中でも一番のお偉いさんらしいその試験官の取りまとめ役は、実技試験の延期は認められないと、試験終了後に学校の役員を通して連絡を寄越してきたのである。

 結果、ネメシスは怒って、今は試験官のおさのもとへ抗議に行っているところだ。


 ネメシスは抗議に行く前に俺に言っていた。


「すまない、和人。これはすべて、私の責任だ。私が勝手に手続きを進め、試験の日取りを決めたこと、コンディションが最悪でもなんとか実技試験を受けていたのを途中で私がやめさせてしまったこと。今から私は取りまとめ役のじじいに抗議しに行くことになるが、正直あの頑固爺がんこじじいの決定を覆すことは難しいだろう」


 そういって、ネメシスはお偉いさんのもとへと判決をくつがえしに向かった。




 そして、時は元の時間にさか戻る。

 意気消沈した様子で女神ネメシスは戻ってきた。


「くそ、あのじじいめ、なんて融通ゆうづうが利かないんだ」


 戻ってきたネメシスが説明を受けたことを話した。


「冒険者たるもの身体の調子が悪いことを言い訳にすべきではないだと?まだ和人は冒険者じゃないだろうが。それも、この世界に来て間もないというのに」


 ネメシスは文句を垂れるが、まあ言われたこと、というのはそんなに間違っているものではないと俺は思う。

 しかし、女神はなおも続ける。


「それに、実技の実力が本来はもっとあるとしても、それを発揮しないでいるのは冒険者としてやる気を見せていないということではないのか。だと?だから、私が途中でめさせてしまったと説明しただろうが。それになんだ、男の転入生がさぼったのをお前が隠してかばおうとしているだけではないのか。ともほざきやがった。だから私は試験の振り替え日をお願いしているだけだというのに、くそがっっっ!!!」


 うわ、ガチギレしてらっしゃる。

 それを聞いていた天王院が話に入ってきた。


「たしかに、和人の高校での体育の成績は3位だったと神楽から私も聞いていたから、実際本調子だったら、冒険者Bランク相当のb~dクラス辺りには入れたかもしれないわね」


「でも、私は和人が一緒のクラスになってくれて嬉しいよ」


 そうのんきに嬉しがる町田は普通に試験を受けて普通に冒険者Dランク相当の評価をなされていた。


 ただ、町田の場合、Dランクの中では上の方のクラスに配属されるところだった。

 しかし、どうせなら俺と一緒のクラスが良いと、町田がクラス発表の時に言ったため、そうとりなされたのだ。

 その場にいた試験官たちはDランク相当の人材は非常に多く、戦力的にもあまり重要視されていないためその程度のことならと了解してくれた。


「体育というのがどれくらいの身体能力の評価につながるのかは私にはわからないが、aクラスの琴葉とbクラスの神楽の身体能力にもあまり引けを取らないというのなら、どう考えても和人の振り分けられたクラスは適切じゃないだろ。……でもまあ、姫花が少しでも喜んでいるというのなら、和人さえ我慢してくれれば、私も溜飲を下げるが」


 まあ、俺には転入試験で明らかになった欠陥が一つあった。

 それを思えば、万全のコンディションでも妹の神楽と同じクラスに入れるくらいの評価がなされることは難しかったに違いない。

 おそらく冒険者でいうところのC階級辺りに振り分けられていたと思われる。

 だから、CもDもあまり大きく違わないだろうと俺は考えることにした。


「ネメシスは抗議に行ってくれたし、真摯に俺への対応もしてくれた。俺はもうそれで充分ですよ」


 俺がそういうと、ネメシスはそうか、とだけ言って、受け入れることにしたようである。

 しかし、俺はこの時知らなかった。


 CもDも大差ないだろうと思ったことがまちがっていたことを、俺が振り分けられたsクラスというクラスがどんなところなのかということを。

 そして同時に、町田姫花が俺と一緒のクラスに移ってきたことが起こす大きな出来事を。

この作品の初期タイトルをラーメン屋で一緒に考えた友人にはまんま劣〇生だなって言われました。

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