第一話
この宇宙には、現実と二次元という二つの世界があった。そんな二つの世界が協力し、ある装置を作った。
――意志伝達
意志伝達とは、意志――つまり、心の中で誰かと通話が出来る。腕にブレスレットのような首輪染みた物を装着し、登録した者同士で会話が出来る設定になっている。
二つの世界は論争に暮れていた。どの国民に実験させるか。
大体決まったペアの基準は、小学生同士、中高生、大人同士となった。それを各二ペアずつ出すと考えている。それに、必ずしも男女でなければならない。
全国民の調査を行った結果、ペアは決まった。
「美紗、話があるんだけど良いか?」
美紗は担任の初芝に呼ばれ、相談室に行った。初芝は妙な雰囲気を醸し出していて、美紗は少し肩を震わせた。
「世界は二つあることを知ってるかい?現実と二次元というのがあるんだ」
中学三年生の美紗には分からない世界の話だった。そこから更に難しい話が続く。
「二つの世界が協力し創られた物がある。意志伝達。それは意志で話すことが出来る道具なんだ。それで、美紗にはその被験者になってもらいたいんだ」
「被験者、ですか?」
「相手も美紗のような人間の男の子だ。年上だが、二次元の世界の子だから安心して。その意志伝達が実用化を目指すために実験を行うんだ。美紗は、その実験に協力してもらうんだ」
美紗には偉大過ぎる内容を理解するのは難しいものだった。
つまり、美紗は意志伝達の実施実験に参加させられるのだ。それで、相手の人と話をするというだけだ。
「一年通してやってもらって、異常が出たか、相手とコミュニケーションが出来るか、という実験だ。先生達で話し合った結果、美紗はその被験者に値すると思って選んだ」
「私がそんな……」
「そんな君だからこそ私は選んだのだ。私は君の心を救えると信じてるんだ」
初芝は真剣な顔でそう言った後、紙袋から固そうなブレスレットを出した。
「手を出してご覧」
初芝に言われ、美紗は手を出した。ブレスレットは広がり、美紗の腕にピッタリとハマった。
「まだ相手が付けたか分からないけど、心の中で念じてみて」
美紗はそう言われて、何を言おうか考えていた時だった。
『君が美紗って言うの?』
優しい声音が聞こえて、美紗は肩を震わせた。
『はい……』
『肩苦しいのは止めようよ。俺はウィリッシュダイ・ノウレン。ダイって呼んで良いよ』
『はい』
『緊張し過ぎだよ』
笑い声も聞こえる。心の中で笑うのか、と美紗は不思議に思った。
「通話出来てる?」
「はい、出来てますよ」
「それは防水性もあるから手洗いとかお風呂も大丈夫なんだ。保護者にも話したし、後は明日みんなに言えば良いだけだ」
そして、美紗は教室に戻り、帰り支度をした。
『あれ?なんかあった?』
ダイの声が聞こえた。
『いや、先生に話をされただけだよ』
『俺もだよ。被験者になってくれだって、なんだよって感じだよ』
『世界が二つあるって、よく分からないね』
『だよな。最初に話されて、意味わかんねぇよってなったよ』
美紗は、笑いが零れた。ただ、面白かったのだ。
『ということは、俺らは全くの別世界に住んでるってことか?』
『そうらしいね』
美紗が現実の世界に住んでいるとするなら、ダイは二次元の世界に住んでいるのだろう。別世界の二人が意志で会話をしていることはとても素晴らしいことであるのだ。
『年齢は?俺は十五、高校一年生だ』
『私は十四、中学三年生だよ』
『一つ下なんだな』
中高生のペアというのは、美紗とダイのペアらしい。あとはどこかの人なのだろう。
外は都会でもない田舎でもない町並みが広がっていた。十字路の横断歩道を渡り、美紗は家へ向かった。
『今、何してるの?』
『家に帰ってるんだ』
『あっ、俺も。なんか気が合うな』
『そうだね』
美紗は静かな住宅街で小さく笑った。誰かと話すって楽しいな。
家に帰って見れば、母と謎の男が裸で戯れていた。そんな様子に美紗は嘆息を吐き、自分の部屋へ駆け足で向かった。
美紗の母親は水商売をしている。父と離婚してからずっとこんな様子だった。誰か愛人を連れては裸で戯れ、愛の言葉は囁き合う。金と嘘に紛れた愛だなんて気持ち悪いものだ。
『どうかした?』
馬鹿な母親に美紗は呆れていた。そんな時に優しいダイの声が聞こえた。
『いやぁ、またお母さんがねぇ……』
『いいよ。話なら聞くよ』
美紗の呟きにダイはそんな言葉を返して来た。美紗はパッと目を開いた。
『うん、ありがとう』
美紗は自分のクズ過ぎる母親について話した。泣きながら話す美紗にダイは優しく相槌を打つ。
美紗が小学生になってから両親はよく喧嘩をするようになっていた。家が崩壊していた。ついには離婚した。母親はその美貌を生かし、水商売をやり始めた。母親はたくさんの人と愛人契約を結び、家に連れて来ては裸になっている。そんなクズな母親が美紗は大嫌いだった。
『そっか。美紗の母親は父親への愛はそんなもんだったというわけか。酷いもんだな。娘が居る家でそんなことしてるなんてな』
ダイはうーんと唸って言った。
『大丈夫だよ。そんな馬鹿女は気にするな。美紗には俺が居るだろ?大丈夫。俺が付いてるさ』
『ダイ……』
ダイの言葉に涙が止まらなかった。今までの傷が縫い尽くされるように。
ありがとう、ダイ。




