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ドラゴンミスト

作者: 地底人

「それでは、こちらのゲームに関する記憶の消去でよろしいですね?」


そう言ってコンパニオンが差し出したのは、僕が事前に渡しておいたゲーム、「ドラゴンミスト」の画像が映し出されたハンドビジョンだった。


「ええ、そうです。ところで、本当に都合よくゲームの記憶だけが消えるんですよね?」


心配から思わず聞くと、満面の笑みを浮かべるコンパニオンが答えた。


「はい。こちらのゲームは特に人気ですから、何人もの方々が同じように記憶を消去し、また新鮮な気持ちで感動を味わっておられますよ。」


その言葉で得られたのは、より大きな不安感だけだった。ドラゴンミストは数十年は前の、いわば古典と言うべきゲームだ。ぼくは幼い頃からやり続けているが、周囲でその話を自然と話すものは見たことがない。

話すものがいるとすれば、それはネットのドラゴンミストコミュニティ、もしくはオタクカフェーーサブカルチャー好きがこぞって集まるカフェのことだーーくらいなものだ。

信頼からは遠のいたが、この文言は裁判になれば有利に働く材料となる。それを易々とコンパニオンが口にすると言うことは、それだけ安全性に自信があると言うことでもあるだろう。そう考えると、ある種の保障を得たような気持ちで少しだけ気が楽になった。


「わかりました、お願いします」


「かしこまりました。私は退出致しますので、あとは機械が約3時間ほどで作業を完了させます。横になって、できるだけ楽な姿勢でお待ちください。」


そう言うと、くるりと優雅に半回転し、コツコツとハイヒールを鳴らしながら遠のいていった。

寝転がった僕の視点からは、あやうく膝上数センチの扇情的なほど短いスカートの中身が見えそうになり、慌てて目を背けた。

プシュウと炭酸水の気が抜けるような音をたてドアが閉まると、一気に圧迫感が増した。

空気が密閉され、気圧が増し音が籠っている感覚は妙に気持ちが悪かった。

やがて微かな、スーっという音とともに空気が流れ込んでくる。

いわゆる麻酔だが、笑気ガスのような優しいものではなく、ほぼ全ての人が吸い込めば無条件に睡眠ーーというより昏倒ーーし、ノンレム睡眠に導いたところで処置は開始される。

つまりノンレムに至るまでに見る夢が今までの自分であり、それから見る夢は処置を施され、なにかが変わった自分ということになる。

姿勢を楽にしろと言ってたのは、この時に気を失い、突如倒れこむ行為は危険だからだ。そして僕もそれには同意している。

こうして寝転がっていると、思考が止まる瞬間を想像できない、すでに何十分も経過したのではないか? 本当にぼくは眠れーーーー


ピー! ピー!


「あ、あと少し……」

けたたましい音の出所を突き止めようと手は辺りをのたうったが、それが叶うことはなかった。

そのわずかな怒りが覚醒を手伝い、諦めて起き上がると察知したように目覚ましはピタリと止まった。


「おはようございます」


ドアが先ほどより一段と大きく音を鳴らすと、あの短い、扇情的なスカートのコンパニオンが姿を現した。


「どうですか?ご気分は。」


そう聞きながらスカートの端をヒラヒラとーー見えそう!ーーはためかせながら近づく。

不思議と、目を逸らそうという気にはならなかった。

生まれ変わった興奮からか、はたまた笑気ガスもどきの副作用で気が大きくなってるのか。

定かではないが目はまさにコンパニオンが目の前に来て「斎藤さま」と少し強い語気で呼ぶまで釘付けにされていた。


「お身体に異変はございませんでしょうか?」


下から見上げると、整った顔に落ちた陰がそこはかとない哀愁を感じさせ、守ってあげなくてはという気に駆られる。


「君こそ、そんなに寂しそうな顔をしてどうしたんだい?」


そう思うと同時に声が出ていた。幾ばくか記憶と食い違う自身の積極性に驚いたが、それと同時に本能的には正しいという感が違和感に蓋をした。


「大丈夫です。さ、お客さま。 こちらの車椅子に…ご自分で乗れますか?」


問いかけに応じて足を動かすと、やや頼りないが力は入る。がーー


「いや、どうもうまくいかない。抱きかかえてくれないか?」


「かしこまりました」


コンパニオンは笑顔で応じると、身体をピッタリと密着させた。人間であれば太ももがある位置から、強化義肢のトルクがあがる音をわずかに漏らしつつ、ゆっくりと上体を起こさせた。

その間、顔は胸にうずくまっていた。

それから一度身体をはなし、ちょうど肩を貸す姿勢になる。ぼくの腕の下に身体を滑り込ませ、腰に手を当てグッと持ち上げた。

支えもないにもかかわらず、華奢なコンパニオンは容易く身体を持ち上げた。ゆっくりと動作しているのは重みのためというよりは、全身義体にありがちな、力をかけすぎないように気をつけている動作だ。

生の部分なんて数えるほどしかないとなると、下手したら天井までぼくを吹き飛ばしかねない。

ゆっくりとぼくを車椅子に座らせると、「お怪我は?」と短く聞く。「まったく」と首を振りながら答えると、ゆっくりあのドアに向かって歩き始めた。

続く予定はないです。

気が向いたら書くかも知れませんが、書くとなると短編ではなくなるかと思います。

現状でもなんとなくのプロット的に中編規模っぽいからです。

なので、気が向いたら書きます。

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