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【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
後日譚

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11 異界調査の説明会①

「……は、え、……えーと、すみません、もう一回お願いします」

「では、もう一度」


 混乱する私に向かって、遠野(とおの)さんは再び口を開いた。


榊原(さかきばら)さん。あなたには今度の、定期の異界調査に同行してもらいます」

「えぇー……」

「えぇーじゃありません」




 友達と遊びに行った、あの日から三日。直接会うのは久しぶりの遠野さんに呼ばれ、指定された部屋へと行ってみれば。

 異界へ行け、と。


「なんで、(バイト)が、そんな重要そうなものに同行するですかね……?」


 室内には、テーブルとイスが並んでいる。私はそのイスの一つに、遠野さんと対面になる形で座っている。


「バイトでも、あなたは他の非正規とは違う、特別な立場ですから」


 遠野さんはテーブルに手を置き、それを組んで。


「あなたは人ならざる力を持ち、神の加護を得ており、けれど未だ人として生きていられている。異界への調査に行くのは、元々異界に住んでいた方々や、経験豊富な方々がほとんどですが……」


 そこで遠野さんは、溜め息を吐き。


「諸々総じて言ってしまうと、上からの命令です」


 上というと、本部長ですか?


「跳ね除けられないやつですか」

「そうですね」


 あ、諦めの笑顔。じゃあもうこれ、どうしようも出来ないワケね。


「……分かりました、了解です。具体的な話はいつするんですか?」

「まだ未定ですね。今週中に全員の都合が合えば、その時になると思います。ことが問題なく進めば、異界に赴くのは三週間ほど後かと」

「結構すぐなんですね」

「ええ、今回はそれほど長期滞在でもありませんし、未経験の榊原さんもいますから」


 ……ん? 待って?


「……滞在?」

「ああ、異界調査は基本一泊以上の泊まりです」


 私の疑問に、事もなげに答える遠野さん。


「……そうなると、動くの土日ですか?」


 休み丸潰れですか?


「そうなってしまうでしょうね。もし、榊原さんの大学の時間などから、平日に動けると判断されたりしたら、また変わるかもしれませんが」

「まじすか……」

「ええ。──あ、あと」


 まだなんかあるのか。


「その調査には、てつさんも同行しますので」

「へ? てつも? ですか?」

「はい。ですので、少しは気を楽に持てると思いますよ」


 笑顔で言う遠野さんに、なんとも言えない顔をしてしまう。


「そぅ、なん、ですか、ね……? あ、遠野さんは行くんですか?」

「ええ。今回は僕も行く事になっています。その他のメンバーについてはまだ調整中で、確定した事は言えませんが……」


 言いながら、遠野さんは立ち上がる。そして、部屋の隅にあったホワイトボードをガラガラと引いてきた。


「それで、今日呼んだのは、その連絡と、異界調査についての簡単な事前説明のためです」

「え」

「まあ、軽い講義だと思って下さい」


 言いながら、ボード用のマーカーを手に取る遠野さん。


「えっまっ、待って下さい! 紙、なんか書くもの出しますから……!」


 脇に置いていたカバンからガサゴソと、ルーズリーフとペンケースを取り出す。


「そこまでしなくても大丈夫ですよ。きちんとした説明は、また別個に行われますから。今日のは初参加の榊原さんのための、ちょっとした予習みたいなもんです」

「そ、ですか……? ……でも、一応取っときます」

「そうですか。……では」


 私がルーズリーフとペンケースをテーブルに置いたのを見て、遠野さんは説明を始めた──




「異界とこっちの世界の関わりについては、前聞いたのと、大体一緒」


 私は書き留めたルーズリーフを眺めつつ、小さく独り言を零す。


「でも、そもそも異界は、この世界と隣接している……と考えられている」


 そして時間の流れる速さは同じ。加えてどうしてか、風土や使われている言語もとても似通っているという。

 言われてみれば、そうだ。てつだって、榮介(えいすけ)さんだって、あの四獣達だって、私達と同じ日本語を話していた。

 そして、こっちと違うのは、こっちで言う『怪異』『UMA』『超常現象』などが、日常のものとして受け入れられている事と。


「文明の発展具合、ね」


 世界的な規模で、それは証明されている。異界の文明の程度は、こちらには無い不可思議な力という一部を除き、数百年前のこちらの世界とそう変わりないらしい。だから、てつや榮介さんは、昔の人のような、着物だったり袴だったりの姿だったんだろうか。


「さっきからぶつぶつと、何を言ってる?」

「あ、ごめん」


 ルーズリーフから顔を上げ、てつの顔へと視線を向ける。

 ここはいつもの洞窟だ。私はいつもの如くてつの毛に包まれ、もふもふと暖かい状態で、遠野さんの説明を書き留めたルーズリーフを読んでいた。


「ちょっとね。遠野さんから、異界の……てつが居た世界の、説明を受けてさ」

「ほぉん」


 遠野さんは話が終わったところで、「今日はもうこれで良いですよ」と、てつの所に行くよう言ってくれた。


「あっそうだ。てつも行くんだよね? 今度の異界の調査。私も行くんだけど」

「……あぁ、そんな話もあったな」

「あったな、て……。てつの住んでた所の話でしょ? なにか思うとことかないの?」

「ねぇな、別に。俺の山に行く訳でもねぇしよ」


 てつは「フン」と鼻を鳴らし、尻尾をゆらりとしならせた。


「……なあ」

「うん?」

「…………俺ぁな…………おまぇ……、……」


 ん?


「私?」


 私がなにか?


「…………なんでもねぇ」


 てつはまた尻尾を一振りして、口を閉じてしまう。


「……そう」


 最近、なんでか、てつはいつもこうだ。

 私に何か言いかけて、でも止める。その繰り返し。

 てつのその、気の揺らぎは、何かを躊躇っているようで。


「……あのさ、てつ」

「あ?」

「私になんか不満があるなら言ってよ?」

「はぁ?」


 こっちに向いたその顔は、「何言ってんだコイツ」と、語っていた。


「はぁ? はこっちだよ。最近のてつ、なんか変だよ?」

「お前に気にされるこったねぇよ」

「気にするよ」

「なんでだ」

「なんでって……」


 なんだよ、この狼めが。


「てつに何か……悩みとかあるなら、解決するかは分からないけど、私にも話して欲しい。そのままにしないで欲しい。このままで、てつに何かあったりしたら、それこそ嫌だから。──っ?」


 瞬間、ざわりとその気が揺らめいた。

 ……てつが、動揺した?

 驚きながらその顔を見れば、てつは前を向いて。こちらとは目も合わせない。けれど耳は、思いっきりこっちを向いてて。


「え、なに。私なんか変な事言った? だったらごめん」


 背をてつから離し、体ごとてつの顔の方へ向き直る。


「…………別に」


 てつの体勢は変わらない。


「ごめんって、ねぇ、てつ」

「別にっつってんだろ」


 溜め息を吐かれ、その眼がちらりとこっちを見た。


「お前が気にする事じゃねぇ」


 けれどすぐ、また前に向かれてしまう。


「……そお」


 これ以上、この話を続けるのは無理そうだ。

 ……ってか、ふと思ったんだけど、この『てつの住処通い』、いつまでやればいいんだっけ?




 で、異界調査のための、メンバーの顔合わせの日が決まり。

 支部内の会議室に、そのメンバーが集められた。

 それなりの広さの室内には、口の字にセッティングされたテーブルと、そこに付属するパイプ椅子。集まったひと達はめいめいに、隣り合ったり合わなかったりして座っている。


「全員、集まりましたね」


 同じように座ってる遠野さんが、みんなの顔を見るように室内を見渡す。

 ここにいるのは七人。私と、狼男姿のてつと、遠野さんに、伊里院(いりいん)さん。そして、久しぶりに会う稲生(いのう)さんに、籠町(かごまち)さんと中野(なかの)さんだ。


 窓側のテーブルについているのは、籠町さん。籠町さんのフルネームは、籠町六花(りっか)。軽く茶に染めて緩くウェーブがかかってる背中までの髪は、今まで見た限りではいつも下ろしてる。そしてその顔を見る度、「まつ毛が長いなぁ」と、思ってしまう。で、籠町さんは、人間の、女性。


 で、通路側に居る中野さんは、昔、異界に住んでいたというヒト。こちらに来てからつけたという名前が、中野(あらた)。性別は男性。背が高く、それ故か手足も長く。短い黒髪は赤みがかっていて、それは染めではなく地毛だそうで。そして中野さんは、こちらで言う『土蜘蛛』の一族に連なっていたという。座っている今の人間の姿は、こっちで生活するために変化(へんげ)している姿だそうだ。本来は四メートルほどの大きさの、赤黒い蜘蛛だと前に教えてもらった。


 ちなみに、私とてつと稲生さんは、窓が左に見える壁側のテーブルについている。てつは私の左隣に、そして反対側に一つ席を空けて、稲生さんが座っている。

 遠野さんと伊里院さんは、私達の目の前のテーブル。伊里院さんは向かって右端、遠野さんはそこから一つ左にいったイスに座っていた。

 てつと一緒に部屋に入った時は遠野さんと伊里院さんしかいなかったんでどんな人が来るのかと思ってたけど、どれも知っている顔ぶれだったので、少し緊張が解れた。

 まあ、籠町さんも中野さんも、何度か話をした事がある程度だけど。


「では、今回の異界調査についての、説明会を始めましょうか」


 遠野さんはそう言うと、イスから立ち上がった。




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