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【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
後日譚

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7 修復作業

 開口一番そう言って、本部長──藤原尊(ふじわらたかし)本部長は、大仰に溜め息を吐いた。


「申し訳ありません……!」


 吉野(よしの)さんが頭を下げ、村山(むらやま)さんの側まで寄り、「ほら、立って下さいよ……」と小声で促す。


「えー……」


 いかにも不満そうにイスから立ち上がった村山さんは、


「これはどうも。お早いお着きで」


 と、とびっきりの笑顔でとても分かりやすく嫌味を言った。対して本部長は、その不機嫌そうな顔のまま、ぴくりと眉を動かす。吉野さんと永野(ながの)さんは、焦り顔になる。

 私も、気が進まないけどてつを起こすか……。

 そう思って、てつの方へ顔を向けたら、


「……ふぁあ……」


 てつは大きなあくびをして、軽く伸びまでして、ぱっちりと開いたその目を、入って来た人達へと向けた。


「おー……やっとか」


 なんとも気の抜けた声だ。そして入って来た人達へ、ニヤリ、と牙の見える笑顔を見せる。


「お前らのおかげでよく眠れた。感謝しねぇとなぁ」


 本部長の眉間にシワが寄った。遠野(とおの)さんは薄く笑みを作っているけど、加茂(かも)さんはてつへ、少し呆れたような視線を寄越した。

 入って来た残りの二人は、努めて無表情を作っている。けど、その気はとても読みやすく、諦めの感情が乗っていた。


「……君達は、自分の立場を理解しているのかね?」


 本部長が低く問う。それに吉野さんと永野さん、加茂さんは姿勢を正す。ので、私も一応姿勢を正す。村山さんとてつは力を抜いた、楽な姿勢のままだ。……遠野さんは、なんというか、姿勢を正した()だ。器用だな。


「……」


 誰も本部長の言葉に応えず、嫌な静寂が場を包む。吉野さんと永野さんの顔色が悪くなっていくので、どうにかしたいんだけども。

 そんな空気にさらに気分を害したのか、本部長が口を開きかけた、その時。


「お疲れ様です本部長。一つ、お聞きしたい事があるのですが、良いでしょうか?」


 遠野さんが顔色一つ変えず、世間話でもするように軽い感じで問いかけた。


「……何かね」

「人員の変更というは、本部長の事と理解して良いでしょうか? それとも他にもどなたか、いらっしゃるのでしょうか?」

「ああ、変更でここに来たのは私だけだ」

「でしたら、予定時刻も過ぎてしまっている事ですし、現場に参りましょう」

「現場に入る者の説明を受けていないが」

「先に資料をお渡ししている筈ですが……それとも、その資料に目を通しておられない?」


 と、遠野さんが珍しく煽っている……! そして本部長は煽り耐性がないのか、不機嫌なその顔が、より不機嫌に!

 なんて事を考えているうちに、本部長が渋い顔で「……いや、問題ない」と言った。


「では参りましょう」




 その後、遠野さんが先導しかけたが、吉野さんがハッと気付いたように「すみません! ご案内します!」と先頭に立った。

 今日の仕事は『管轄内の神社の、広がってしまった異界との繋がりを、元に戻す事』。

 こちらの世界に元々ある異界との繋がりは、時折こうして広がったり、逆に縮んだりしたりする事がある。そして、ここは元々繋がってるけど、偶発的に繋がってしまうものもある。それらは、簡単には修復出来ない。天遠乃さんが生きていた頃、彼女がそれら全てを担っていた。あの人にしか出来なかった事だったから。

 そして今、こういった仕事を遂行出来るのは、私だけ、らしい。なので、必然的に私にお鉢が回ってくる。

 支部を出ると、そこは緑に囲まれた、件の神社のお足元。境内に入り、本殿からさらに奥へと回って少し進むと、空中にうかぶように、異界へと繋がるそれが認識出来た。辺りを見ると、その繋がりを囲むように、地面近くにぐるりとしめ縄が設置されている。結界だ。


「ここ、ですね。……榊原さん、分かりますか?」

「はい、大丈夫です。あの通り道を今の三分の二くらいに狭めればいいんですよね」


 吉野さんの言葉に頷くと、吉野さんと永野さんの『気』が、分かりやすく驚きを放っていた。「本当に分かるんですね」と言っているみたいだった。


「じゃあ、やっていいですか?」

「お願いします」


 遠野さんの言葉を受けて、私は結界を作っているしめ縄を千切り、繋がりに近寄る。あの時(・・・)亀裂(さけび)とは違い、これは自然発生的なものなので、とても気が楽だ。


(あんず)


 すると、てつが横に並んだ。


「ん? なに?」

「…………いや、こういうのは、何度目だ」

「んーと、……てつがあっちに帰ってからなら、八回目くらい?」


 記憶を辿りながら言えば、「そうか」と言って、てつは元の位置に戻っていった。

 なんだったんだろう? ……心配してくれた?


「えっと、それじゃ、やりますね」


 心持ち声を大きくして言ってから、繋がりに手をかざす。たぶん、本当はかざさなくても良いんだろうけど、この方がイメージしやすい。

 異界との繋がりの流れを、意識する。そして、比較的新しく繋がった部分を、粘土細工でもするように、合わせて、馴染ませて、閉じていく。

 数分とかからずにそれは終わり、指示通りに、元の大きさ──最初に視たのの三分の二ほどの繋がりに戻せた。

 うん、今回も成功。


「終わりました」


 言って、振り返れば、てつと村山さん以外の人全員が検査ゴーグルをかけていた。どうやら、繋がりの確認をしているみたいだ。

 ……本当は遠野さんは、ゴーグルなんかかけなくてもこの繋がりなんかを、はっきりくっきり視る事が出来るらしい。……んだけど、色々と事情があるようで、皆と同様の行動を取るようにしているんだそうだ。これは、天遠乃さん情報。


「……すごい。本当に元に戻ってますね……傷跡もなく、元通りだ……」


 鞄からタブレットを出し、なにやら入力していく吉野さんが、感心、というより、感嘆、といった様子で感想を述べる。永野さんも同じようにタブレットに何か入力し、繋がりのあるところを写真に撮っていく。


「やー、ウワサに聞くよりスゴイわ。榊原さん、やるじゃん」

「ありがとうございます」


 村山さんに親指を立てられ、会釈する。


「問題ないなら、戻っても大丈夫ですか?」

「あ、そうですね。はい、大丈夫です」


 吉野さんに頷かれ、元の位置に戻れば、


「……素晴らしい」


 とても小さな呟きが聞こえた。声からして本部長だろうが、別にそっちへ向く気はない。


「お疲れ様です、榊原さん」


 左隣にいる加茂さんが、声をかけてくれる。


「ありがとうございます、加茂さん」

「榊原さん、お疲れ様でした。今回も特に問題なく終わりましたね」

「ありがとうございます。そうですね。別に変な感じもなく、元に戻せました」


 少し後ろにいた遠野さんへ返事をすれば、右隣にいるてつが近寄ってきた。そして、少し屈むようにして鼻先を近づけてくる。

 なに? 匂いでも嗅ぐの?


「てつ?」

「なんだ」

「いや、こっちが聞きたいんだけど……」


 この体勢はなんでしょうか。ご返答をお願いいたします。

 てつは、その深い青緑で、私を観察でもするように眺めて。


「……別に、なんでもねぇよ」


 言いながら、顔を背けられた。なんなんだろ……まあ、いいか。


「では、修復作業も完了したので、支部に戻りましょう。……良いですか?」


 吉野さんが視察の人達へ、緊張した顔を向ける。


「ああ、問題ない」


 本部長が首肯する。本部長を窺っている二人は、口を開かず、まるで本部長の守護者のように立ったまま。

 吉野さんは改めて全員を見回し、


「では、戻りましょうか」


 また先導して、奥まったここから本殿へと、足を向けた。




 十一支部へ戻ると、視察の人達は別室へ、まあたぶん偉い人用の部屋へと案内されていった。吉野さんと永野さんは報告に行き、私達二十五支部のメンバーは村山さんに「じゃ、休憩室に案内するね」と言われ、その通りに休憩室へ案内された。


「やー、それにしても、お見事な手腕だったねぇ」


 ここの休憩室も、うちのとあまり変わらないんだな、と思いながら、備え付けのサーバーからほうじ茶を取ると、村山さんがそんな事を言ってきた。


「天遠乃の人達がアレを何やらするのは何回も見てきたけど、全く関係ない榊原さんがそれと遜色なくやってのけたってのが、一番の驚きだね」


 ああ、さっきの事か。てか村山さん、完全に敬語が抜けてるな。こっちが素か。


「ありがとうございます。私は、自分に出来る事をしただけですが、それが皆さんのお役に立っているのは確からしいので、素直に嬉しいです」


 異常な亀裂(さけび)閉じていた(還していた)、あの時とは違う。これは通常業務だし、皆喜んでくれる。


「で、こんな部下を持って、そこんとこの心境はどうなのよ? 遠野くん」

「とても心強いですよ。こんな部下を持てるなんて、僕は運が良いみたいですね」


 遠野さんが笑顔で応じる。ちなみにてつは、目を(つむ)って寝そべっている。加茂さんはイスに座り、カフェオレを飲んでいる。

 と。


「すみません。榊原さんという方がこちらにいると、聞いて来たのですが」




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