55.5 掻き消えた、その後
今回、閑話・本編と、二話更新しております。
こちらは閑話の55.5話となります。
(2020/11/23)
「は、ははっ……」
堪えきれない笑いが、自然と口から漏れて来る。
「はははっ!ははっ!!あひゃぁははは──」
時折引きつれた呼吸が混じり、次第にひび割れ、耳障りな騒音と化す。
海を抜け、空を飛び、噎せる度に体勢を崩す。そんな事はお構いなしに、もしくはそれさえも可笑しくて、笑い続ける。
「やってやった!やってやった!!ひゃは、はははっ!ははははあ゛ぁっ!げぼっ……は、はははっ!」
狂ったように哄笑し、それは偽の翼を羽ばたかせる。
「あの顔!かお!訳も分からず莫迦みてえに呆けて!なあ?!」
雨雲を抜ける。小雨に濡れた身体が、陽を浴びて光った。
「ああ見物だった!胸がすくようだったぜ!ざまあみろ!」
高笑いとそんな言葉が、遠く空に吸い込まれる。
「あの野郎、俺だと気付きもしねえ!ざまあみろ!ざまあねえ!」
己の成果を高らかに、虚空へ向かって響かせる。その声は、誰に聞かれるでもなく。
「これであいつも!また!これで!ああやっと!やっと──」
終わりだ。
もはや言葉は掠れ、雑音の如く。叫ぶように嗤いながら、化けた鳥の姿で空を舞う。
それは、薄い蒼の中で一頻り笑い転げると、
「はは、は、あ…………報告に」
転ずるように声を落とし、
「行かなきゃあな」
その身も、落ちてゆく。
打って変わって無言のまま、風を切り、瞬く間に地へと近付く。
「……」
そうして、借り受けた力で狭間から、
「はぁ……気が重い……」
接する世界へ戻っていった。
暗闇の中、自身を光らせ彼女は呟いた。
「幽霊って光るのよね……分かってはいたけど……分かんないわ……」
うすぼんやりと発光する、その色は何度も目にしてきた。別の場で、別の魂で、それに今は自分自身で。
「この経験、何かに使えると思うんだけど」
うーんと唸り、浮いた身体を回転させる。
「いつ戻れるかしらね。そこが問題よね」
腕を組み、地上へ目を向ける。そこかしこにいる見張りの気配。そして、それらを消し去ってしまいそうな程圧倒的な気配が、四つ。
「あの子達は、何がしたいのかしらね」
独りごち、また唸る。
「そこがいまいち分かんないのよねー……そのせいで余計動き難いし」
ゆらりと浮かび、くるりと回る。自分の傍を揺蕩う彼女は、また声を零す。
「そもそも……今いつ頃だったっけ……この間会ってから、何日経ったかしら……?」
困ったように眉を下げ、一拍してから頭を抱えた。
「ああもう!暦!カレンダーが欲しい!文明の利器!」
幽体だからか、かき混ぜた髪は乱れない。けれど、象徴的なその衣服は空気をはらむ。
「十年はそろそろの筈なのよ。そこは間違ってないと思うの。そこからが問題なのよ……!」
誰とも会えず、否、遭わずにいたためか、昔より独り言が増えた。頭の片隅でそんな事を考えながら、また口を開く。
「こう、上手く、コンタクト取って、連携とかしたいんだけど。それは流石に無理よね」
眉間に皺を寄せ、顎に手を当てる。
「組織、機能してるのは分かったけれど……今の方針とか分からないし、変な方向に行ってなきゃいいけど……それに」
その顔が、ふいに和らぐ。
「守弥、どうしてるかしら。もう成人してるのよね」
思い出の中の弟は、その幼さが残る顔に、努めて微笑を浮かべている。感情を表に出すなと、常日頃から言われていたから。
「あの子……立ち回りは、巧いけど」
独りで抱え込む質であると。そしてそれは、自分と家の影響が大きいと。彼女は、そう考えている。
「尭とかがまだ居てくれれば、少しは……上と下の板挟みとか、なってなきゃ良いけど……」
懐かしく寂しげに、記憶に残る弟へ微笑みかける。
「これが終わって戻れたら、楽させてあげられるから」
だから今は、もう少しだけ頑張って。
声には出さず、祈るように目を閉じた。




