表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/107

46 緊急事態なので手荒に封を破ります

「……あ、止まる」


 船の速度が緩やかになり、エンジン音が小さくなる。停止したのは、昨日より(やしろ)に近い位置。


「なんだあ?早いなぁ」


 海面が大きく揺れ、白く波立つ。船尾の方から、ザブァ……と、海坊主さんが顔を出した。


「おはようございます。皆、張り切ってるんですよ」


 操縦室から出てきた遠野(とおの)さんが、努めて明るく応え、話を始める。


「昨日、皆で話し合いまして。こちらに反応を示してくれた姫様と、それによって皆さん──」


 てつが言った、『時間がない』部分は伝えない事になっている。もし伝えたら、気付かれたら。


『この身果てるまで姫様と共に()ろうぞ!』


 あのダンさんの言葉通り、皆梃子(てこ)でも動かなくなるだろう。そういう結論に至った。


「……あの」

「はい?」


 遠野さんと海坊主さんが喋るのを眺めていたら、後ろから声をかけられた。


「あ、織部(おりべ)さん」


 織部さんは眉尻を下げて、


「あの……昨日は本当に、遅くまで……」

「だから大丈夫ですって。気にしないで下さい。今日沢山寝れば良いだけですから!」


 船に乗る前も謝られたし……。そう申し訳なさそうにされると、心が痛む。


(れん)榊原(さかきばら)さんは、仲良くなったんだねえ」


 織部さんの後ろからしみじみとした声が聞こえ、稲生(いのう)さんが歩いてきた。


「仲良く」


 そこまでいったんだろうか、あれは。そう考えながら織部さんへ視線を移す。

 そしたら不安そうな顔をこちらに向け、口をもごもごさせていて。


「……そうですね!割と仲良くなれました!」


 一瞬にして、織部さんの表情が明るくなる。わっかりやすいな。


「そっか。今回以外の時でも、一緒になったらよろしくね」


 稲生さんも、そんな織部さんを見て微笑んだ。


「はい、こちらこそ」


 織部さんと稲生さんは、良くチームを組むらしい。そのためか、単に年長者だからなのか。稲生さんも織部さんの悩みは知ってるし、気にかけているみたいだ。


「おい」

「ん?」


 狼から狼男へ。瞬く間に姿を変えたてつは、私の頭に手を置いた。


「気が浮ついてる」


 そしてがっしりと頭を掴み、


「え?ちょっ」


 ぐわんぐわんと回される。

 待ってそれは、それは気持ち悪く……。


「おっと」

「うわぁ……」


 見てないで止めて下さい二人とも。


「溺れるような間抜けはすんな。昨日よりもっと慎重に動け」


 そう言うと、回された頭は元の位置に戻される。


「ぅお……ん?」


 同時に、スゥッと何かが抜けた感覚があった。眠気が、覚めた?


「てつ?なんかした?」

「気付けだ気付け」

「気付け……」


 頭を回すのが?


「お、あっちも終わったみたいだよ」


 稲生さんに言われ、同じ方を見る。遠野さんがちょうど、こちらに振り返るところだった。


「それじゃ、始めますよ」

「頼むなあ」


 その後ろから、海坊主さんが海面から手を出し軽く振っ──

 いや、それ、船が揺れる……!




 昨日より近いから、現場にはちょっと泳いだらすぐ着いた。


「……淀みが、薄くなってる?」


 窪地の周りは少しだけ、通常の海のような雰囲気を感じられた。


「押し込めてんだよ、あの『姫』が」


 また、顰め面。てつはそれだけ言って、遠野さんと共に降りていった。


「……押し込めて……」


 織部さんはそれを目で追い、不安そうに呟く。私も気になって、姫様へ近付いていくてつ達を見てしまう。


「……さ!こっちはこっちでやろうか」

「あ、はい……」

「……はい」


 そんな私達を稲生さんは促して、少しぎこちなく仕事が始まった。


「姫様……」


 昨日同様、姫様を心配しているひと達は窪地の縁に集まり、底を覗いている。……その上、少し増えてる?


「楽にはなったけどさ……」

「……姫さん……」


 そうか。環境が少し改善されて、自分達で避難してたひと達も集まって来たのか。

 ……仕事量が、増えたって事?


「あいつらが来たぞ」

「おお……!」


 そして皆、社へ降りていくてつ達へ目を向けた。また昨日のような事が起こるんじゃないかと、辺りは一気に色めき立つ。


「皆さん」


 そこへ稲生さんが呼びかける。


「ああ、あんたら!」


 昨日より反応が良い。一気に沢山のひと達がこちらを向いた。


「また姫さんは、お社を守り始めてしまったんだよ」

「また、起こしてくれるのか?」

「どうか姫様を……」


 まあ、分かっていたけれど。皆、自分より姫様の方を気にかけている。


「ええ、今度は昨日よりもっと、姫様と話が出来るでしょう。そのため──」


 稲生さんの言葉は、集まったひと達の歓声にかき消された。


「姫様が助かるぞ!」

「ああ、ああ!良かった……!」

「姫様もお社も、ここも!また元に戻るんだ!」


 歓声が、心に響く。どうにも嫌な響き方だ。私達は今、このひと達に重大な隠し事をしている──。


「……っ」


 思わず口を引き結ぶ。


「だから、みんなも早くここから離れて」


 その隣から、力強い声がした。


「この環境が良くなるまで、昨日行ったひと達と一緒に支部にいて。またここが元に戻ったら、そしてみんなが良くなったら、全員帰ってこれるんだから」


 そう言って、織部さんは胸を張る。そして私を見た。


「ね!」

「あ、はい……あ、うん!そうです!姫様もですけど、まずは皆さんが動かないと!姫様はてつ達がきちんと対応しますから」


 この言葉は、彼らを守るため。てつも結局なんだかんだ言いながら、とても渋い顔で「わぁったよ……」と言ったんだから。

 だから、大丈夫。いつものように、昨日のように動けばいい。


「でも、それなら姫様と一緒に行きたいねえ」


 ダンさんとは違う白黒のクマノミが、言いながら社を伺う。


「俺も、先に行くのは忍びねえ」

「姫様がここからお離れになるんなら、それについて行きたいよ」


 今度は、そういう方向の問題か……。


「皆さん、まずは皆さんが動かなければ。そうすれば姫様も安心なさって、ここから離れやすくなるでしょう」


 稲生さんの言葉に、皆あちこちで顔を突き合わせたり、話し始めた。


「姫様を安心させる……」

「でも本当にお社から、姫様は『しぶ』とやらに行くのか?」

「だけど昨日のを見たろう」

「ああ。どうやってかあいつらは、姫様と言葉を交わした……」


 昨日より確実に、周りのひと達の気持ちは揺れている。


「ねえ、考えるのも大事だけど。それなら『姫様のためになる事』を考えてみなよ」

「姫様のため……」


 織部さんの言葉にも、耳を傾けてる。これならこのまま、上手くいけば全員保護出来るんじゃ──


 ボォァアアッ!!


「っ!」


 社の方から、勢い良く何かが弾けた。その衝撃は窪地から溢れ、形を崩しながら外へ広がる。


「何だ?!」

「今何が」

「姫様ぁ!」


 一気に騒ぎ出し、社の方へ身を翻すひと達。薄まったとはいえまだ強い衝撃波の残りによろめきながら、窪地の底を覗き込む。


「大丈夫です!今のはてつ、ええと、あの狼がやったものです!」


 呼びかけながら私も縁へ、というかそっちへ行ったひと達のもとへ泳ぎ走った。


「説明する前に始まってしまったね……聞いてはいたけど、結構な威力だ」


 稲生さんも織部さんも、同じ様に縁へ近寄る。


「何が起きたんだ?!」

「今のは、てつが姫様の意識をこちらへ向けようとしたんです。だから──」


 言いながら、社へ目を向ける。


「……」


 社のすぐ傍で牙を剥くてつと、苦笑いでもしているような雰囲気の遠野さん。

 姫様はまるで何もなかったかのように、社を抱えたままだった。


「姫様……!」

「おい、本当に何をしたんだ?!」


 周りのひと達は右往左往し、何人か私に詰め寄る。


「危ない事をしてないだろうな?!」

「姫様になにかあったら、あんたらも只じゃおかないよ……!」

「……はい。大丈夫です。そんな事にはさせませんしなりません」


 私の声が少し低かったからか、詰め寄ったひと達はちょっと離れた。


「失敗ではないようだけど」


 そう言って、稲生さんも少し眉をひそめて姫様達を眺める。


「はい。姫様はちゃんと起きてますし、気付いてます」


 私の言葉に、周りはまたこっちを見た。


「織部さんも、分かりますか?」


 魚の気持ちが分かるって、昨日聞いたけれど。……まあ姫様は、魚じゃないけど。


「……うん。なんとなくだけど、分かる。姫様はあえて無視してる」


 織部さんの言葉に、またどよめきが起こる。


「姫様……?」

「お社を守るためだろ?」

「けれど昨日はお顔をお上げになって……」

『A班B班、C班(こちら)は順調に進んでいます。皆さんの動揺を収めて、作業を続けて下さい』


 遠野さんの声が、耳から響いてきた。

 それと別に少しずつ、社の方から何かが伝わってくる。苛立ち……違う、怒り?それと、困惑と哀しみ……?


『それを言葉通りに受け取って大丈夫なんだね?なんなら一旦、全員とは言わずとも姫様へ人手を割いても良かったりしないか?』


 稲生さんの言葉に、遠野さんは少し間を置いてから、


『……いえ、最少人数で当たった方が良いでしょうから。このまま進めていきましょう』

『……了解』


 苦笑しながら応えた稲生さんに続いて、皆も返事を返していく。


『了解、しました……』


 私も、なんとかそれだけ返す。けれどまだ、社から──恐らく姫様から伝わる渦巻く感情に、足を動かせない。


「……織部、さん」

「はい」

「織部さんには、伝わってきてますか……?姫様の……」


 織部さんは首を傾げ、ややあって口を開いた。


「自分の封を破られた苛立ちの事?それなら僕にも、多分周りにも伝わってるだろうけど……」

「いえ、それじゃなくて……」


 なんだろう。上手く言えない。滲むようにぶつかってくる感情の波に、足元を掬われそうな気分になってくる。


「皆さん、問題はありません。じきに姫様もまた顔を上げます」


 まだ騒めいているひと達へ、稲生さんが呼びかける。


「ほら、二人も。……榊原さん?何かあった?」

「……いえ、大丈夫です」


 良く分からないものに時間を使ってる場合じゃない。一度深く、深呼吸をして。不安そうなひと達の説得に、戻っていく。

 大丈夫。てつがいる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ