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【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
本編

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44 それが本望、己の使命

「ほれで、また寝ちゃったんですよね?姫様って方は」

「ちゃんと飲み込んでから喋った方が良いですよ、華珠貴(かずき)さん」


 一日目の作業を終えて、今は夜。皆で事務所に戻り、それぞれの報告を終え、明日の確認もして。自由時間でご飯を食べているところ。


 あの後、姫様がまた動かなくなるまで。私達は二往復ほどして、それなりの数のひと達を保護出来た。今までと比べ、上々を通り越して見事と言いたくなるくらいにはなったようだ。


「その通りなんですが、事が起きてからずっとああ(・・)だったあの方の反応を得られたというのは、大きな一歩です」


 当たり前だけど外は暗く、加えて雨が降っている。そのせいで、来た時より空気がじめっと重く感じられる。


「私もそれはそう思うよ。一度でも起こせば、また同じに出来る可能性が高まる」


 遠野(とおの)さんの隣で、稲生(いのう)さんがそう言った。


「面倒くせえんだがなぁ……」


 そして私と遠野さんの間で、てつが言葉を体現するように、めんどくさそーに溜め息を吐く。


「……なんで、そんなに面倒だって、言うんですか……?」


 華珠貴と稲生さんの間に座る織部(おりべ)さんが、てつに向かって聞いてくる。


「……そもそも俺ぁ、事を引っ掻き回すのは好きじゃあねえんだよ」


 人型のてつは頬杖をついて、空になった弁当箱を爪で弾く。

 ……そもそも、なんでこの面子で食べてるんだろうか。


 リノベーションだか何だかされて、事務所の内装は新築のように綺麗だった。その一階のダイニングには、大きめのテーブルが置かれている。

 そして今そこに、てつ、私、華珠貴、織部さん、稲生さん、遠野さんが、時計回りに座り。計六人でお弁当(ごはん)を食べている。


「引っ掻き回している訳ではなくて、対策を取っているんですけどね」


 遠野さんが苦笑しながら、てつの言葉にそう返した。

 自由時間という事で、皆好きな場所へ行って好きに食べている。ものは支給されたお弁当だけど、食材の持ち込みも了承されてる。実際それで稲生さんは、ガスパチョを作って皆に振る舞った。

『最近スペイン系にハマってるんだよね』だそうで。ご馳走さまです。


「じゃ!どうやって姫様を起こしたんですか?」


 今度は口の中を空にして、元気に手を挙げながら華珠貴が聞く。


「あ?ただ裂いただけだ。まだ薄かったからな、多分お前でも出来る」

「本当ですか?!」


 賑やかなのが苦手な訳でもないし、別にそこまで気にする事でもないけれど。ほんと、何故にこの面子。他の人達はだいぶばらけたっぽいのに。


「ああ。てかお前の方は、こっちより上手くいったんだろう?その感じで(こっち)の事もやったらどうだ」

「はい!なかなかの手応え……え?!私も海入って良いんですか?!」

「駄目です」


 間髪入れずに言った遠野さんに、華珠貴は少しムッとして言い返す。


「なんでですか。私、今日いっぱい保護出来ましたよ。進捗?は海の方より良いって言ってたじゃないですか!」


 華珠貴達「陸組」は、華珠貴の手腕、と言えばいいのか……?とにかく華珠貴にしか出来ない方法で、今までにないほどの成果を上げた。


 それは

『勝負を申し込んで負けたら言う事を聞く』

 というもので。


 姫様が心配で残っていたひと達は、林の中を歩き回る陸組に警戒心を抱いてた。けれど似たような(・・・・・)存在の華珠貴に、少し興味も持っていたらしい。そのために、出て来ないけれど存在感は匂わせるひと達。その様子に散々歩き回ってしびれを切らした華珠貴は、林の奥へ突撃まがいに飛び込んで──


『みぃつけた!!やっと姿を見れました!』

『ひぃえ?!』


 そのままの勢いで先の勝負を仕掛け、全勝した。負けたひと達は皆、約束通り保護された。


「それはそれ、これはこれです。しかも今回の事は突発的な行動だった事、それと華珠貴さんが良い意味で興味を持たれていた事も、要因の一つです」


 言い含めるように、遠野さんが一言一言はっきりと口にする。


「明日同じ手法が取れるとは限りません。むしろ難しくなるでしょう」

「? なんで?」


 華珠貴は首を傾げ、その柔らかな黒髪が揺れる。


「より警戒されるからだろう。自分らと似たもんだと思っていたら、仲間を引き連れて行っちまった。この島の、より深くまで引っ込んじまうだろうな」

「ええー?!」


 遠野さんの代わりに答えたてつへ、華珠貴は非難の叫びを上げた。


「あれでですか?!危険な事はしてないのに!お相撲しただけなのに!蛙さん達とかと!!」


 なんだろう。昔話を聞いてる気分になってきた。


「ていうかてつさんが行けるんじゃないかって言ってくれたんじゃないですか!もう少し推して下さい!」


 立ち上がりそうな勢いの華珠貴に、てつは溜め息を吐いて、


「今のは島での話だろう。海の話は止めろとは言ってねえぞ」

「本当ですか?!」

「だから駄目です」


 すかさず遠野さんが止めてくる。


「まあ、ねえ。華珠貴さんは『特別』配員だから、何かあったらまずいんだよ」


 稲生さんが話に加わり、華珠貴はまたムッとする。


「特別配員……何かあったら、鈴音(すずね)さんが怖いんでしたっけ」


 私の問いに、稲生さんが頷く。


「そうそう。私は会った事無いけど、華珠貴さんの母親の、その鈴音さん。随分渋ったと聞いてるし」


 けれどその迸る熱量で、華珠貴はそれを押し切った。押し切ったからこそ華珠貴にも、この〈仕事〉に対しても、鈴音さんはとても厳しい目を向けている、らしい。


海江田(かいえだ)達にあまり負担をかけるのも、決められたものと別の行動を取るのも、後で怒られるんじゃないかな?」

「むぅ……ぐぅ……」


 稲生さんの言葉に、華珠貴は流石に反論出来ないようで、浮いていた腰を下ろした。箸も持ち直し、食べかけの弁当を食べ始める。


「だがあの『姫』も、もうあまり時間がねえぞ」


 息を吐きながら放たれたてつのその言葉に、一瞬全員が動きを止めた。……時間がない?


「てつさん。詳しく話して下さい」


 遠野さんはその目を細め、低く鋭くてつに言う。


「あ?そのままだよ」


 てつは未だ頬杖をついて、面倒そうに口を動かした。


「あの社と同化し始めてやがる。そうする事で広がったっつう通り道を、己の身と力を使って狭めるって考えだろう」


 皆がそれぞれに驚愕する。私は、一瞬思考が止まった。

 ……同化、お社と?姫様(あのひと)姫様(あのひと)で無くなるって事?……なんだ、それ。


「確かにそれは上手くいってる。しかも、俺達があいつに手ぇ出したおかげで吹っ切れたんだろうな。同化を速めやがった。後……七日、いやぁ五日か?そんなもんであの姫は完全に社になるだろうよ」

「てつ?!」


 なんで、そんな!


「てつさん。何故それを報告の時に言わなかったんですか?」


 遠野さんの声が冷たい。稲生さん達は驚いたまま、何も言えないようだった。


「そもそも始めから同化はやってやがったろう。周りの奴らに悟られねえようにな。あの時なんとか引っ剥がせればどうにかなったかも知れねえが……」


 てつは今までで一番大きく溜め息を吐いて、


「結局あれじゃあ止められねえ。あいつが()める気が全くねえからな。だから言わなかった。言ったところで何も変わらねえ」

「あいつ……姫様……?」

「ああ」


 なんとか出した私の声に、てつはゆっくりと首肯した。


「……流れをせき止めていただけでなく、自らを使って現状を戻そうとしていた、と」


 遠野さんは冷静に、分析を始めたみたいだ。でも、私はそこじゃなくて。


「なんで止める気がないって……そんな事分かるの」


 周りは、ダンさん達は、皆姫様を心配して。私達もだからこそ、姫様を、今日のあれを希望として話していたのに。


「気がな、完全に物語ってる。あそこからは離れねえ、放さねえ。なんだか知んねえが、どっか満足そうにしやがって。ああいうのの相手は心底面倒くせえ」


 吐き捨てるように、てつは続ける。


「あの姫は、元からそうしたかったんだろうよ。あれが本望、己の使命。今の自分に酔っちまってる。……俺ぁそういうのは、俺に何か無けりゃ関わらねえようにしてんだよ。昔から」


 昔。ここに来る前の、てつの話。


「だから面倒だって、ずっと言ってたんですね」


 華珠貴は納得したようにうんうんと頷く。そして、てつは長く、長く息を吐いた。




「……あ」

「……榊原(さかきばら)、さん」


 廊下でばったり、織部さんと鉢合わせた。織部さんの短い髪はしっとりと濡れ、頬には赤みが差していた。


「お疲れ様です。お風呂上がりですか?」

「……あ、はい……」

「私もちょうど行くとこだったんです」


 あの後、緊急に再召集がかけられ、てつの話が共有された。


『──今日はこのまま休みますが、明日以降の動きは大幅に変更します』


 文字通り、朝から晩まで動く事になる。緊急性が増し一刻を争う事態と判明した事で、全員に緊張が走った。期間は明後日の夜までだったけど、それもどうなるか、不透明だ。

 けれど、てつはいつまでも面倒くさそう……というより、苛ついている様に思えて。


「じゃあ、おやすみなさい……ですかね?」


 ある意味、誰よりも姫様を気にしてるような……。

 そんな事を思いながら織部さんとすれ違う。


「……あ……あの」


 その直後に声をかけられた。


「はい?」


 振り向くと、織部さんは少し目を泳がせ、迷うように私を見る。

「……あの、榊原さんは」


 私より少し背が低いのか、ちょっとだけ上目になりつつ口を開く。


「完全な、……人間じゃない、んですよね?」

「へ?!」


 いきなり何を?!


「……っあっごめんなさい……変な言い方になっちゃって……」

「いい、え……あの、どういう……?」


 わたわたと手を振る織部さんに、恐る恐る訊ねる。


「……てつさんと、異界の方と混ざってしまってるって……聞いて……」

「あ、ああ!それの事ですか!」


 織部さんも恐る恐る口を開き、私はその言葉に納得した。


「てつとは、どうしてかくっついちゃったって感じで。今のところなんとかなってるので、そのまま来ちゃってますけど」


 苦笑いで返すと、織部さんはこれまた複雑な表情になって。


「そう、なんですね……」


 何故だか落ち込ませてしまったようだ。なんでだ。


「え、ええと。織部さんの知り合いとかに、私みたいな人がいるんですか?」


 組織繋がりでそういう人がいても不思議じゃないし。だから話を聞きたがった?


「……いえ、僕……なんです」

「……」


 目の前のご本人だった。




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