表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/107

40 無人島の依頼者

「……」

「なにしてんだ」

「ちょっと、一回閉める」


 支部の中にある、今回行く場所へ通じるドア。一度開けたそこを閉め、深呼吸をした。


「なんだ?臆してんのか?」

「いや、私もまだまだだなあと……良し」


 気合いを入れ、もう一度、ノブを回す。


「……うん」


 右には海が、左には林らしき木々が生え、足元は砂浜だ。


「おい」

「はい、行きます」


 ドアを通り抜け、すぐ横へ避ける。てつは三角の耳を動かしながら、砂浜へ四つの足裏を付けた。


「ほぉ……」


 私をちらりと見てから、海の方へ。私はドアを閉めながら、辺りを見回す。ここは支部にある別空間じゃない。今回の仕事の現場であり、無()島。

 完全に支部(さっきまでいた場所)と違うと、足元の感触や周りの音や湿気や、勿論景色も合わせ、実感する。


「てつー」


 海に近寄っていくてつへ声をかける。今は九時半で、集合時間は十時。そんなにのんびりはしてられない。


「近くにあるって言われた事務所をさが──」

「てつさん(あんず)さんこんに、おはようございます!」


 元気な声が被さり、私は口を閉じた。この前もあったなこれ。


「来てたんですね、今来たんですか?」


 閉めたドアが付いている、物置のような箱の向こうから、黒猫が一匹駆けてくる。まだ距離はあるのに、その声ははっきり聞こえた。


「……華珠貴(かずき)さん、おはようございます。今来た所です」


 一応聞いてはいたけれど、本当に通ったんだなあ、話。


「そうなんですね!私今、この辺りを探検してたんです!」


 そんな事して良いんですか?と聞こうとして、その後ろからやってくる人影に気付く。


「あー……元気なのは良いんだけどな、もうちょい、抑えてくれ……」

「あ、海江田(かいえだ)さん」

「おう、榊原(さかきばら)。今回も一緒だな。よろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします」


 軽く礼をし、頭を上げる所で、


「てつさん!!」

「……この間もだが、お前は何故そんな事をしたがるんだ?」


 海側の会話に、思わずそっちを向いた。

 波打ち際の、本当にぎりっぎり波がかからない場所。そこに佇む金の狼の頭の上に、黒い猫又が乗っかっていた。華珠貴はそのまま丸くなり、二股の尻尾を揺らす。


「この前は乗り損なってしまったので……てつさんの毛並みって、母様(かあさま)みたいに気持ちいいですね!」

「……」


 なんとなく、写真を撮った。周りの景色と合わさって、結構いい感じになった気がする。


「よーし、もう良いだろ。皆で戻るぞ」

「……あっはい!すみません」


 ハッとしてスマホをしまう。


「はい!ありがとうございました!」


 そう言って、華珠貴はてつから飛び降りる。てつも視線を、海からこちらに向けた。


「こっから、この林を入ってすぐ……」


 先導の海江田さんについて行く。ぱっと見はそうでもない、けれど良く見るとしっかりと整備された道を歩いた。


「あれだ」


 不意に、開けた場所に出た。そこには瓦屋根と漆喰の、古民家みたいな家が一軒。


「あれ、ですか」


 波音はここからも聞こえる。それと緑に囲まれた家の風景が合わさって……なんでだろう。また異界に来た時のような、不思議な気持ちになった。


「戻りましたー!てつさんと杏さんも一緒です!」


 華珠貴は駆けながら人の姿になって、そのままの勢いで扉を開ける。そしてするりと中に入っていった。


「さ、俺達も入るか」

「はい…………てつ?」


 斜め後ろにいたてつはいつの間にか立ち止まり、少し距離が開いていた。てつはそのまま耳をぐるりと回して、後ろへ傾ける。そしてその長い尾をゆっくりと振った。


「……何か、あるか?」


 海江田さんが抑えた声で問う。


「……いや」


 もう一度緩く尻尾を振って、てつはまた歩き出す。

 空には薄く雲がかかり、それでも煌めく金色の毛は、温い風で柔らかく波打った。




「それでは、今回はこのメンバーで」


 遠野(とおの)さんの飄々としながらも、いつもより張りのある声。湿度が高めなこの場所で、相変わらずの黒いスーツを着て。


「今回は範囲が広く、大変な作業も多いでしょう」


 全員に聞こえるよう響くその声。私はさっきまでの、この島に着いた時の事を思い出しながら、それを聞いていた。

 なんだったんだろう、てつのあれ。


「調査結果は頭に入ってますね?経験による判断も大事になりますが、こういう時こそ基礎をしっかり思い出して行動しましょう」


 来た時とは別の浜の、林寄りの場所。大きな木を背にする遠野さんを囲むように、集まった人達は半円になる。私とてつも、半円の一部になっている。


「最後に、当たり前ですが安全を第一に。それと共に、周りとのコミュニケーションも忘れずに。……はい、それでは行動開始!」


 パンと手を打ち、それが合図となって周りが動き出す。

 私も遠野さんの元へ向かおうとして、肩を叩かれ足を止めた。振り向くと、少し眉根を寄せた表情の、


加茂(かも)さん」


 あの古民家の中で、メンバーとは顔合わせが終わっている。人数は私とてつも入れて、十六名。その時に、加茂さんとも普通に挨拶した、と思うんだけど……。


「……えっと、何でしょうか」


 無言でこっちを見るもんで、私から言ってみる。……私、何か変な事したっけ?


「……いえ、止めてしまってすみません。……あの、私が言うのもなんでしょうが……」


 加茂さんはぐっと目に力を入れて、真っ直ぐに私を見た。


「……気を付けて、下さいね」

「は、い……?」


 何をそんなに──


「あ!はい!気を付けます!常に意識して力は抑えますし、変な事に首を突っ込んだりしません!」


 てつ由来の力の事、どれだけの人が知ってるんだろう。この間会ったばかりの、加茂さんにまで心配されるなんて。


「あ、いえ……いや、そうですね。それも気を付けて。それでは」

「? はい」


 違った?加茂さんはちょっとだけ眉を動かして、自分の持ち場へ向かってしまった。


「……行くぞ」

「ああうん……」


 てつに促され、再び遠野さんの方へ。あっちも何人かと話しているようで、さっきと同じ場所にいた。


「んー……」


 加茂さんは単に心配してくれた、という事で良いんだろうか。何かありそうではあるけど。


「お前は無茶をせずに、ちんまり動いてりゃ良い」

「ちんまりて」

「ああ、てつさん、榊原さん」


 私達が来た時にちょうど終わったらしい。話をしていた人達は「それでは」と離れていった。


「では、行きましょうか」


 言って、遠野さんはぐるりと周りを見る。その場には、私とてつと、あと七人。


「依頼者の所へ」


 この島唯一らしい船着き場から、船に乗って少し沖へ。停止した海上は風もなく、波も穏やかで、このままだと観光気分になりそう……。


「……っ!」


 呑気にそう思っていたら、船が不自然に大きく揺れた。すぐ傍に渦ができ、その中心から黒く大きな丸い頭が、せり上がるように出て来る。


「ほおん」


 それを見て、てつが関心したように声を出した。


「今日はよろしくお願いします。こんな時間帯(とき)に出て来て頂いてすみません」


 呼びかけた遠野さんに、少し(あぶく)混じりの声が返される。


「いやあ、急げっつったんはこっちだからな。別に出られねえ訳でもねえし」


 ──海坊主。


 その姿を人はそう呼ぶ。私もアニメとかで見た事がある。


「で、だ」


 真っ黒い顔の上半分だけ出ているせいか、白目の部分が際立って白く見えた。その目がこちらを向いている。


「ちゃあんと、どうにかなるんかねぇ?」

「全力を尽くします。そのための僕達ですから」


 今回の内容。それは現地調査ではなく、その次の段階、問題解決のための「実働」だった。


『海の様子がおかしい』


 数週間前、二十五支部管轄のこの島から、そんな簡素な「伝言」が送られてきた。それから急速に、そこだけでなく周辺や、別の島からも同じような報告が上がり出し。周辺地域の「人」からの目撃情報も出始める。それだけでも、確実に問題とその範囲が大きくなっていると分かる。

「よろしく頼むよお?」


 ここの島民は所謂「怪異、妖怪」と呼ばれるひと達のみ。だから一応無人島。そうなら本来、迅速に対応出来た筈なのに、最初の調査に入る前に状況は急激に悪化した。それ以外の理由もあるんだけど、調査は長引いて。やっと今回、実働に入れるまでになった、と事前に説明された。


「ええ、勿論」


 船に乗ってる私達は、主に海中で動く「海組」。華珠貴が同行を許された、加茂さんや海江田さん達は島に残って動く「陸組」。今回それぞれに分かれて問題解決に当たる。けれどその問題が、なんかややこしい状態らしい。

 因みに、一番最初に『様子がおかしい』と言ってきたのが、目の前にいる海坊主、さん。古株では無いらしいけど、わりかし私達(にんげん)に友好的なのだそうだ。


「では、行きましょうか」


 少し前と同じ台詞を言って、遠野さんは船から海へ。落ちていった。


「……ほんとに」


 ドポンという音を聞いて、私は反射的に駆け寄って覗き込む。

 波立った碧から、少しして白が浮かび上がり、遠野さんが顔を出した。


「テスト通り、問題ありませんね」


 こちらにか自分にか言葉を発し、持ち上げた右手で髪をかき上げる。その髪も、顔も腕も、衣服もどこも濡れていない。


「凄いよなあ……新しく構築したやつなんだろ?」


 事務所で渡された小さな護符。プラスチックみたいな素材のそれは、『海中での動きの補助、呼吸や発声の確保、簡易の保護結界』の機能……呪い(まじない)?が込められてるらしい。私はそれを首から下げ、服の下にしまっている。


「そりゃ天遠乃(あまえの)(かた)だしな。前々からこういうのは進めてたらしいぞ」


 横で同じ様に覗いていたメンバーの人達は、どこか誇らしげに頷いていた。





ブクマありがとうございます!とても励みになります!!

ここまで読んで下さった方もありがとうございます……!宜しければ来週からも読んでやって下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ