37 ローテーブルを囲んで
続けて読んだ方が分かり易いかと思い、36、37と二話更新しています。
こちら最新37話となりますので、先にこっちに来てしまった方は一つ前からお読みください。
(2020/7/6)
「ああ」
てつは深い青緑の目で私達を見下ろし、腕を組む。堂々たるその立ち姿は何。
「何故急にその姿に」
「今ならいけそうな気がした。狭いのもあったが」
キラキラもふもふして分かり難いけど、結構ガタイが良い。筋肉ついてる。前の小さい姿は細めだったのに。
「……よし移動しよう、座ろう。芽依」
「ぁ、うん」
芽依の背を押し、部屋へ向かう。
「あ、てつ、靴は脱いで」
振り返りながらてつに言うと、
「くつ?」
首を傾げられた。
「その革靴的なやつ。ここ室内だから」
「おぉ、そうだった」
足元の黒く艶のある履き物を示すと、それは一瞬にして掻き消える。
「……」
ま、小狼の時もそんなだったし。大きくて立派な爪は何故か床を傷つけないし、気にするのは止めてる。
「こうなると、狭いな」
「一人暮らしの間取りなんで」
ベッド側に芽依を、窓の側にてつを座らせ、冷蔵庫から麦茶を出す。
「俺にもくれ」
「え?飲めるの?」
食べ物はいらないんじゃなかった?
「いけるようになったらしい」
らしいとは。
「……まあ、分かった」
コップ、三つあったっけ……あるわ。
「はい、お待たせしました」
「ありがと」
それぞれに置いて、私も座る。芽依を右、てつを左に見る位置だ。
「……」
えぇと、何を言えばいいんだろう。
「まず、聞きますけど」
逡巡していたら、芽依が口を開いた。
「てつさんは、そもそもなんで杏について……ついて?るんですか」
「あ?杏から洗いざらい聞いたんじゃねえのか?」
てつは胡座をかいて、コップに手を伸ばしながら聞き返す。
「聞くには聞いたけど、てつさんから聞きたいんです」
「はぁ……俺だって分かりゃしねえよ。ちょいと後ろの鬼を弾こうとしただけだってのに、気付いたらこいつの腹ん中だ」
言って麦茶を飲むてつに、芽依は少し眉根を寄せたようだった。
「……てつさんは、杏をどう思ってるんですか」
「あ?」
「はい?」
どう思う……?
「最初は確かに助けてくれたのかも知れないけど、今はどんどん……危なくなっていってる。私にはそう思える」
芽依はまっすぐてつを見て、静かに言う。
「今日だって、杏はあなたの事で巻き込まれた。……それに、本当に巻き込まれただけ?」
え?
「てつさんは、何かあるかもって、あえてあそこに杏を……とかそんな穿った見方だって出来てしまう」
「え、えええ?!」
「ようするに、俺が気に入らねえって訳だ」
私の声に被せながら、てつが嗤うように言った。
「俺といるとこいつが危ねえ、しかし俺と離す術がねえってんで、説経を垂れてると」
「そんな偉そうな事じゃありません。あなたは杏をどう見てるのか……利用して、テキトーに扱う気なのか、それが聞きたいんです」
てつが、私を、今まで……?
「……聞いてどうする」
「私に止める力があれば止めてますけど、無いので。友達に、杏に何かあったら、勝手に一生恨みます」
芽依が、とても厳しい視線でてつを見据える。
「…………はあぁ……」
大仰に溜め息を吐いて、てつは頭を掻いた。
「言っとくがな、俺ぁ利用するだのなんだの、そういうまどろっこしい事は面倒で嫌いなんだ」
私を一瞥して、芽依に顔を向ける。
「俺ぁ俺のやりたい事を、やりたいようにやってる。それで周りに何かあろうが、俺がやった結果でしかねえ」
「はあ?」
「だから、今日の事も、俺がしくじっただけだ」
しくじる?
「俺に馴染まないように、繋がりを薄めてた。結果、見事裏目に出た。もうちょい気を張ってりゃ隙間に落っこちる前に気付けたろうよ」
ケッと吐き捨てるようにして、
「気ぃ使って喪くしてりゃあ、元も子もねえ。とんだお笑い種だ。だから、あー……大間」
てつは芽依を見ながら人差し指を、その長く鋭い爪を私に向ける。
「お前が気を揉むのは勝手だが、俺は俺のしたいようにして、こいつといる。これからもな。だから、諦めろ」
芽依は、じっとてつを見てから、はーっと息を吐き出した。
「はい、うん。……分かりました。そんなんだろうなとは思ってたけど」
「え、思ってたの?」
芽依はなんだか呆れたような表情になった。
「うん。だって、てつさんずっと……」
ずっと……?
「……うん」
「いやどういう事分かんない」
曖昧な顔をする芽依に、てつは頬を引き上げる。
「イイ根性してんなぁ大間」
「てつさんほどじゃないですよー」
てつの言葉に芽依は笑って返す。
「納得はしてませんし。どっちにしても、何かあったらは変わらないので」
「おーおー。良いトモダチがいるなぁ杏」
「え?うん、うん?」
お互い理解し合った、みたいだけど。こちらはついて行けてないよ?
また私、置いてけぼり食らってる?
「とりあえず、てつが私を利用してるってのは違うんだよね?」
なんで二人してこっち見るの。
「そんな面倒なこたぁしねぇっつってんだろ」
た、溜め息を吐かないでもらいたい……。
「……んー……」
小さく唸るようにして、ぽつりと芽依が零す。
「……てつさんはさ、杏が大事なんだよ」
「あん?」
「ええ?」
大事?私が?……ああ、そっか。
「今私に何かあったら、てつにも影響あるもんね?」
言ったら、芽依はてつを見、私を見、またてつを見て。
「はぁ……」
なんだか気が抜けたように軽く笑った。
「あ?何だ、言いたい事あんなら言え」
牙を見せるてつに、芽依は澄ましたように言う。
「いえ別に」
結局分かったような、そうでないような。
あとこの二人、仲良くなりそうでならないなぁ……。
自ら二話更新しておきながら…なのですが、これにより、来週は更新をお休みさせて頂くかも知れません。ご了承下さい。
結構お盆も忙しくて…、書けたら…書きます…
(2020/7/6)




