表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/107

35.5 杏達が歪みに迷い込んだ後

「あんなん無理だよ、死んじまう」


 薄暗い空間に、控え目な呟きが意図せず大きく響いた。


「っ!……」


 声の主はびくりと動きを止め、辺りを窺う。


「…………」


 耳を立て、気を張り、周りに自分しかいない事を確認すると、またゆっくりと歩き出した。広い回廊の端に沿って、なるべく空間に溶け込むように。


「……ハァ」


 壁の灯りが、磨き抜かれた床と黄色の毛並みを、ゆらゆらと照らす。

 そのまま無言で歩みを進め、比較的小さくそれでいて装飾の多い扉の前に着くと


「んっんっ」


 面を付けた人間に化け、入室の伺いをたてた。


「……入って」

「失礼致します」


 室内には四人。どうやら盤上遊戯をしているようで、皆入室者には一瞥もくれない。


「“材”集めの報告に参りました……が、改めた方が宜しいでしょうか……」

「いい、早く」


 一番奥に座る、黒い着物に艶やかな黒髪の童女が呟くように言った。


「量はそれなりに集まって参りました。彼方をちの者も多くおりますので、前より質の高いものが出来ましょう」


 姿勢を正し身振りは控え、こちらを見ない四人へ『報告』をする。


「信奉者も増えて参りましたので、必要量へ達するのも「あれは?」」


 黒髪の童女と対面に座る少年が、ぐるりと話し手に振り返った。


「あれ。あーなんてったっけ。微塵になった繋ぎの」


 背もたれに腕を置き、黒の混じる短めの白髪を揺らしてどこか愉しげに問う。


「あれ、は」

「どれだけ集まった?本体とか、もう九割いった?」

「……破片を五割ほどです」

「はあ?!」


 少年の右から高い声が上がった。


「あんた、どれだけ時間かけてんの?!逃げられたせいで計画は遅れてんのよ?本当なら今頃みんなぐっちゃぐちゃの筈なのに!」


 勢い良く顔を上げたために、深い赤の髪が舞う。大きく振った腕に引かれ、長い袖が床を擦った。


「申し訳ありません。破片は近寄ると中てられますし、彼方の者共も集めているようで……。気は窺っておりますが、本体も警戒を解きませんで」

「そんな言い訳!」

「ま、落ち着け麗燿りよう。逃げたのはおまえの責任もあるだろ?」


 白髪の少年に言われ、麗燿と呼ばれた少女は押し黙る。


「なぁこま、本体はどんだけ戻った?」

「……二割程かと。彼方の人間との繋がりのためか、姿や力はそれ以上になっているかも知れません」


 今日逃した分を取り込まれてたら、もっと……。その言葉は、舌に乗る前に飲み込んだ。


「……あれが無いと、取っといた人間を混ぜても面白くないよ」


 麗燿の対面の、蒼い髪を一つに括った頭が、ぽつりとこぼした。


「こま、今日がんばった?どれだけ命を削った?」

「……っ」


 こちらを向いた縦長の瞳孔に気圧され、化けて出来た肩が少し震えた。


「なに?さぼってた訳?」

「いえっそんな事は!」


 こまは素早く首を横に振る。


「破片の回収に走り回っておりました!先刻も、破片が起こした歪みに──」


 言いかけ、動きを止める。八つの瞳が面の奥を射抜くように、こまを見つめていた。


「歪みに?」


 白髪の少年が、愉快そうに繰り返す。笑んだ口の間から、鋭い牙が見えた。


「……、……歪みに、入りましたが、とても……耐え切れるもので無く……閉じきる前に脱け出ました……」

「あっはっ!」


 白髪の少年は腹を抱えて笑い出す。


「はあ?何それ、命削って無いじゃないの」

「ですが、材はいくらか持ち帰りました!あの場に中てられたものならば、より質の高いものになります!」


 こまの掠れた言葉に、笑い声は一層大きくなった。


鏤皎尤るこう、少し黙って」


 奥に座る黒髪の童女が、こまを見つめたままで静かに言う。


「悪い、いや、面白くてさ」


 笑いすぎたか、白髪の少年──鏤皎尤は、軽く咳き込みながら姿勢を戻した。


「こま」


 黒髪の童女の瞳は、幽かに眇められているように見えた。


「戻って、取ってこれる?」

「……ぃえ、彼方の者が辺りを囲っておりました。そのまま、あの者達の手に……」

「そう」


 その視線は、面の奥まで貫くようで。


「頑張れば頑張るほど、未来は明るい。頑張らなければ、暗いまま」


 詠うように、高く幼い声が響く。風など無いのに、揃えられた黒髪が揺らめく。


「分かってる?」

「……っ……も、勿論です……っ」

「なら、頑張って」


 言って、童女は盤面に視線を戻した。重く、刺さるようだった空気が、一瞬後に解ける。


「……ぁ……?」

「いつまでいんの。俺らとコレやりたいの?」


 鏤皎尤の声に我に返る。もう四人共、こまを見ていなかった。


「っいえ!あ、いや…………失礼、しました」


 まごつきながら退出し、逃げるようにぎらついた扉から遠ざかる。


 音を立てずに回廊を駆けて。そうして、己の息遣いだけが聞こえる場に来ると、


「……っ…………ハァッ……」


 狐に戻り、こまは吐き捨てるように言った。


「どっちにしろ死んじまうよ……!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ