34 攻める案で
「そもそもさ、その欠片ってなんで動くの?」
屋根と同じくらいの高さで飛ぶ正宗を見上げながら、芽依が呟く。
「呼び合うとか影響とか……皆バラけるとそうなる人達なの?」
「んぅ、うーん…………」
言われれば、なんでだっけ……唐突に、当然のように言われたもんだから、流れで受け止めてた節が……。
「てつがバラバラになったのは何かのせいな筈で、だからこれは一応異常事態で」
それにしちゃ本人があっけらかんとしてるんだよなあ。
欠片だって、取り込んだものと回収されたやつしか目にしてないし。考えてみれば呼び合うなんて初?気付いてなかっただけ?説明とかされたっけ。
「バラバラになっちゃったから戻りたがってるんだとは思うんだけど」
「フィクションだと凄い生命力高いキャラとか、そういうのいるよね」
……いるね。大概グロいね、そういうやつ。
「よし!ワタシも位置は掴めたぞ、行ってくる!」
「お願いします、気を付けて」
正宗は、より高く上がってから降下するように飛んでいった。足でしっかりとハンカチを掴んで。
攻める案でいく事にしたけど、さてどうするかという話で。
私達はここで待ち、正宗が欠片を運んでくる事になった。私は欠片の位置を正宗に伝え、出来るだけ動かない。動くと欠片に影響するから。正宗が欠片を集め終わればいざ、吸収────という割とシンプルな方法だけど。
「直に触るのは気が引ける」と正宗は私のハンカチを借りていった。
「大丈夫なのかなぁ」
芽依が野球バットでパシンと手を打ちながら、不安げに呟く。
「正宗さんの意識もしっかりしてるし、駄目そうだったらすぐ戻ってくるって言ってたし大丈夫だよ」
バットはそこの家の玄関に置いてあったので、護身用にお借りしました。二本あったので私も。歪んで出来た場所だから元はバットじゃなかったろうし、大目に見て欲しい。
「もう少しで戻れるから。芽依、大丈夫」
「いや、それもあるにはあるけど……」
芽依は、ううんと首を振る。
「普通の雀じゃないのは分かるんだけど、やっぱり雀って意識が抜けなくて。強さとか良く分かってないし」
「……あー」
ここまで、目に見えるような何かはしてないっけ。
「正宗さんはどっちかというと、その仕えてるひと達の力が出てるしね。周りの影響を受けてないのも、多分そのお陰なんだと思う」
愛されてる、可愛がられてる?それが保護にもなっているみたいだ。
「そうなの?」
「みたい。ぐるぐる回ってる時に気付いたんだけどね」
あ、ちゃんと掴めた。こっちに戻って来る。
「まあ、正宗さん自身も凄いとは思うよ。ほら」
私が指差す方へ、頭に疑問符を浮かべた芽依が振り向く。
「杏よ、これで間違いは無いな?」
私達の頭上に着くや否や、正宗はそれを放った。そして一緒に落ちたハンカチを空中でキャッチする。
「ぅわっ?」
すぐ側に落とされたものに、芽依が声を上げた。
ドサリと乱暴に地面に降ろされたのは、サッカーボール二個分くらい?の薄ピンクのもの。この感じは、やっぱりてつの。
「合ってますけど……もう少しそっと置いてくれませんか」
「すまんな。やはり長く持つのは気が引ける。可笑しくはなってないだろう?」
正宗は側の屋根の上に留まって言う。
「それは大丈夫ですけど……」
厄介事の元凶だし、中てられないように気を付ける気持ちが勝るんだろうけども。少し、切なさが。
「次は気を付けよう。思ったよりいけそうだからな、どんどん行くぞ!」
高く言うと、正宗はまた飛んでいく。
「あっはい気を付けて……」
聞こえてないか?
「…………これを運んできたの?」
ワタシの側に寄りながら、芽依はてつの欠片を見つめる。
「そう。これくらいのが後四つ」
「でか……雀が、これ……」
私も、今まで見た中では一番大きいかな?
てつの一部、であるそれを、一応という気持ちで上からバットで押さえる。
「これが動くの?」
「うん。だから距離空けてね」
今は動いてないけど。でも芽依と欠片の直線上にいるように意識して、欠片からは目を離さない。
「おっけぃ……」
あ、早いな。
「持ってきたぞ!」
「早!」
驚く芽依を後目に、正宗が勢い良く降りてきた。重ねるように置いた欠片は、さっきより小さいもの。
「今度はちゃんとしたぞ」
「ありがとうございます」
正宗は頷くような仕草をして、器用にハンカチを抓み上げすぐに飛び立つ。
「では行ってくる!」
「いってらっしゃい……」
大丈夫?なんか、勢いあるけど。
「急にテンション上がってない?」
「うん……中てられたような感じは無いんだけど……」
そしてすぐまた、次の欠片を運んでくる。大丈夫か聞くと、ぴょんぴょん跳ねて正宗は言った。
「今の所障りはないな。それどころか調子が良い、力が漲る」
「そうですか……?」
変になってる感じも無いし、でも急に力が漲るなんて何か……あ。なるほど。
「もう半分も無い。そちらも備えをしておけよ!」
そしてまた勢い良く飛んでいく。
「芽依、あれ、欠片に対抗して護りの力が強く出てるんだ」
「あの、お仕えしてるって人達の?」
「そう」
飛んでいった正宗の方を見ながら、芽依は目を細める。
「欠片に近付いてるから、その影響を受けないように正宗さんに力を与えてる。だから元気になったように思えるんだよ」
でもあれ、一時的に抵抗力を上げてるようなものだろうし。長時間そのままでいるのは、多分宜しくない。
「危険が及べば手を差し伸べる、ね」
腕を組み、芽依が小さな声で言った。
「欠片もここにあるからか、歪みが少し柔くなってきたみたいだし。後少しで帰れるよ」
「うん」
欠片から物理的距離を置いたためか、迷い込んだひと達も少しずつ気が落ち着いてきてる。
これなら後は私が──
「ん?……は?」
正宗さん?
「杏?何か……」
「芽依、離れて。あっちの十字路辺りまで」
「何が……っ」
高く小さな叫び声と、被さるように響く不協和音。
「やばそうなのが来る」
「分かった」
走り出す芽依を視界に納めつつ、こちらに向かってくるものへ意識を向ける。まだ遠い上、ここからじゃ見え辛い。
「ぉぉぉぉおおおお!!」
正宗さんの声は良く聞こえるけど……しょうがない、登ろう。
「っしょ」
屋根の上は見晴らしが良い。こちらに来る二羽の鳥がよく見える。
「正宗さん!」
加えて、なんだか分からないでかい鳥。あっちこっちぶつかりながら、完全に欠片に向かって飛んできてる。
「ぁぁぁあああァァアア゛あ゛あ゛ァァアア!!!」
ダチョウくらいあるんじゃないかあれ。見た目はダチョウじゃ無いけど。
「杏ううぅぅ!最後のを持ったらこいつがああぁあ!」
「それこっちに放って!芽依の所へ行って!」
何で二個いっぺんに持とうとしたのか。よろめいて危なっかしい。ぎりぎりで怪鳥を躱しながら飛んでるもんで冷や冷やする。
「ああああ頭が痛いいいイィィ!!」
骨に響く不気味な声で叫びながら、きらきらした斑の鳥は身体を捩らせこちらに迫る。
「頼むうううう」
すれ違いざまに欠片を放り、正宗は急旋回して芽依の方へ。二つの塊は見事、他の欠片の真上に落ちた。
「芽依をお願いします」
でかい鳥はまだ少し距離がある。でも凄いスピードで、周りにぶつかりながらもこちらへ向かってくる。
「ううう゛ぅ゛ぅぁああアア゛アァァァアアあ!」
完全に中てられる。訳が分からなくなって苦痛に呻きながら、唯一認識出来る原因に向かってるんだ。
「ごめんなさい!でもこっち来ないで下さい!」
さっきみたいに、弾く!
「ぎゃああ゛ア゛アァいだああぁぁいィィ!!」
怪鳥は衝撃で舞い上がって、でもすぐに体勢を立て直す。
「弱かっ……、ぅわっ」
一瞬気が遠くなって落ちかける。全身に響く不協和音に、意識を持ってかれそうだ。
「これ、早くしないと……」
顔を上げると、もう目前に鳥が迫っていた。
「ぎも゛ぢわ゛る゛い゛い゛い゛ぃぃいい!!」
突っ込んでくる。私めがけて。
「う、ぐぅっ!」
避ける余裕は無かったけど、ぶつかった衝撃は弱められた気がする!お腹にめり込んでるけど!
「あああぁぁああアァァアアぁぁあああ」
「えっちょっ?!」
そんな、その勢いのまま上に向かって飛んでいく?!
「危ない危ない危ない!下行って!」
地面が、屋根が遠くなる。芽依達が小さく見える。
「煩いいぃィィイ!頭痛いぃぃぃいいい゛い゛!!」
「う゛ぐっ……」
その声凄い響く……しかもなんかぞわぞわする…………。
「……くっそ……」
どんどん昇ってく。誘導なんて出来そうにないし、首に抱きついた状態で後何が……。
「ううう゛う゛ぅぅがんがんするうぅぅうう!」
駄目だこの声、思考が乱れる……手が変に強張って落ちそうになるのを、なんとか耐える。
「うぐぅぅ……ごめんなさい……今これしか思い付かない……」
これ以上上昇されると、どうすればいいか分からないので。
「おやすみなさい!」
「ギャアッ……」
言葉の勢いのままバットを打ち下ろし、気絶……した?いけた?
「……う」
直後、内臓が持ち上がる浮遊感。分かっていたけど──
「落ちるっ……!」
風が上に流れてく。いや、私が下に向かってるんだけど。
冷静に……的確に動け。今の私なら、体勢を直して綺麗に着地出来るから。
「杏!」
この鳥も落とさないように……へ?
「はっ?なにっ……」
下から何か、ピンクっぽいものが勢い良くこっちに飛んで……
「欠片?!」
一塊になったそれは、ぐにゃりと狼の顔になって大口を開けた。
「はあ?!なんで?!」
避けられない。鳥を放り出すのが精一杯。
「正宗さんそのひとお願い!」
叫んで、悪足掻きのようにバットを前に出す。
鋭くて綺麗な牙と、生首な癖に奥まで続く咽がよく見えた。
喰われる。
「あんず!!」
芽依の声が聞こえ。視界が暗転する。
ばくん。
ブクマ、評価ありがとうございます!
すごく嬉しいです、元気出ました…!




