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【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
本編

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28 現地調査②

「あー遠野とおの?そっちはどうだ」


 海江田かいえださんが片耳に手をあて、ボリュームを抑えた声で喋る。


 あの後、また何人かに話を聞けたが、あの女性ほど詳しく知っている人には巡り会えなかった。

 それとは別に、先に報告されていたキズの場所に行ってそれを確認したり調べたりもした。キズは鋭利な切れ込みのようなものもあれば細く抉ったようなものもあり、何か、もしくは誰かが付けた事は明白だった。

 という感じで調査をして、今は小さな商店で買った飲み物を飲みながら休憩中。

 あっちはどうなっているのだろう。気になって海江田さんの通話に耳をそばだてる。


『──……ま……せん……─────ちい……──』


 あれ?意味ないと思ったけど、ちょっと聞き取れるな。


「そうか。こっちはいつも通りな進み具合だ。このまま行くか?」

『────ぅですね。……くと通常……てつさんが活躍してくれまして』


 意識を集中させると、今度ははっきりと遠野さんの声が聞こえた。


『もう少し調査を進めたいですね。てつさんの気も乗ってますし』


 てつがノってる?珍しい。


「分かった。こっちもそのまま進めよう」

『よろしくお願いします』


 プツンと音がして、通話は切れたようだった。 

 海江田さんは耳から手を離し、こちらを向いた。


「あっちは問題無く、むしろ順調だそうだ。俺らももう少ししたら調査の続きだな」

「はい……」


 ……盗み聞き、になっちゃうのかな。今更後ろめたさを覚え、意味も無く海江田さんから視線を逸らす。


 ──おい。

「?!」


 急にてつの声が聞こえた。えっこれテレパシーもどき?!


「どうした」

「あっいえ」


 とっさに誤魔化す。あれ、なんで誤魔化したんだ?


 ──何慌ててんだ?


 いやだって、こんな離れてるのに……いや元々テレパシーってそういうもんか。ん?そうか?


 ──ごちゃごちゃ言ってんのはよく分からねえが……妙な『気』があんのは分かってんのか?


 てつは私の動揺は気にも留めず、そんな事を言う。……妙な気?


 ──この辺りに漂ってる。この山全体を包むように、な。……曖昧な気だ。何かあったらすぐ動けるようにしとけ。


 なにそれ。


 ──後、海江田にも気を付けろ。


 はあ?

 思わず声を出しそうになった所で、てつのテレパシーもどきはすうっと遠くなってしまった。直感で、私の声は届かなくなったと解った。

 ……なんだったんだ、今のは。


「……榊原さかきばら、疲れたか?」

「……いえ、大丈夫です」


 妙な気っていうのはなんとなく理解出来る。同調地域だし、異界が絡んだと思われる噂が立っている訳だし。

 でも、海江田さんに気を付けろ?


「もう少し休むか?」


 私の様子を気遣ってか、海江田さんはそんな風に言ってきた。


「大丈夫です、行きましょう」


 てつの事だから意味のない事は言わないだろう。でも今はそれがどういう意味だか分からない。

 考えても分からない事は、一旦置くのが良い。


「……そうか。じゃあ、行くか」


 休憩終わり。私達は情報集めのために、また歩き出した。


 ヒュン


 そのすぐ後ろを、何かが通った。


「ッ……!」


 私も海江田さんも、瞬時に振り向く。

 だけど、そこには何もない。


「海江田さん、今の」

「ああ」


 目配せして頷き合い、慎重に辺りを伺う。人はいない、車もない……下?


「!海江田さん!」

「!」


 地面に、細く長く抉られた跡があった。さっきまでこんなのはなかった。


「まだ近くにいるか……?」


 海江田さんが呟く。

 何かがいる。それは確かだ。だがそれをどうやって捕捉する?…………あ。

 てつがやってた事を、あの時の事をすればいいのか。


「海江田さん」

「何だ」

「私、分かるかも知れません」


 意識を自分に集中させ、全体に広げる。天遠乃あまえのさんを見つけた時にやった事を繰り返す。

 すると、辺りが揺らめくような錯覚を覚えた。……揺らめきに溺れないように、自分を保ちながらその輪郭を辿る。


「……榊原?」

「……見つけました」


 すぐ左の家の屋根の上。身体を丸めるようにして、うずくまっている。

 そう伝え、見上げる。


「……家の人に言って、屋根の上に上げてもらいますか?」

「……いや、いい」


 海江田さんは眼鏡……じゃなくてあれか。簡易検査用ゴーグル、をかけて屋根を見上げる。


「……いるな」


 そのままでは見えないが、歪みのようなものは認識出来る。ゴーグルでもそういう感じで見えてるんだろうか。


「弱ってそうだ。穏便に保護できれば良いが……」


 言いながら、海江田さんが一歩踏み出した時


『────ッ……!!』


 ゴォオ゛ッ


「わっ?!」


 突風?!


「ッ!」


 身体が浮きそうなほどの強い力に、咄嗟に腕をかざし足を踏ん張る。目を開けられない!


「…あっちか!追うぞ!」

「えっあ、はい!」


 風はすぐ止み目を開けると、海江田さんは走り出していた。その先を歪みと風の渦が地面すれすれに飛んでいく。

 台風の目のような渦の真ん中にいる何かは、飛びながらも歪みが綻び徐々にその姿が見えてくる。茶色っぽくて、長細い身体……。


「おっきいカワウソ?」


 にしてはちょっと違うような、それに手足が光ってる?


「まずいな」


 這うように飛ぶそれは、時折うねり、周りにぶつかってキズを付けながらだんだん速度を上げていく。引き離されていく。

 このままでは見失う。


「まだ走れるか?」

「いけます。というか、多分、回り込めます」

「は?」

「動きを止めれば良いんですよね」

「ああ」

「じゃ、やります」


 一歩を、強く。


「お?!」


 後ろにいった海江田さんの声を聞きながら、地面と塀を駆ける。追い抜いて、回り込んで──


『ギギャアア!!』


 突っ込んでくる所に


「ふん!」


 結界の札!


 バヂィッ


『ィギッ……!』

「よし!」


 止まった、所にちょうど網が被さり、茶色の何かは一気に大人しくなる。


「文字通りに回り込んだな」


 追い付いた海江田さんは投げた網の上から更に札を貼って、息を吐いた。


「榊原、状態診るから、辺り注意しといてくれ」

「はい」


 来た道を少し戻りぐるりと見回すが、人は見当たらない。結構走って山と住宅地の境ぐらいまで来てしまったのもあるけど、この、茶色いのが人を避けるように逃げていたのもあって、それらしい気配は全くない。


「大分衰弱してるな……外傷も……」


 海江田さんの呟きにつられて、意識がそっちへ向く。……本当、心も身体も弱っている。ぐちゃぐちゃだな。その上、これは俺の


「遠野」

『はい』


 ……ん?


「こっちは一体確保。だが状態が良くないんでなるべく早く支部に連れて行きたい。そっちは?」


 えーと、私今、何……?


『こちらは今ちょうど、てつさんが対象と思しき異界の方を見つけ出した所です。やはり、複数でしたか……そうですね、そちらで先に動いて下さい。保護を優先すべきでしょう』

「了解」


 そこで通話は終わった。うん、完全無意識だったけど全部聞こえてしまいました。これといい、さっきのといい、私結構やばいのでは……?


「榊原」

「ぅあいっ」


 うあ、声ひっくり返った!


「? どうした?」

「いえっ……あ、辺り数百メートル人らしき気配はありません」


 小走りで海江田さんの側まで戻る。分かり易く動揺してしまった。


「そうか……ん?いや、うん。幾つか聞きたい事もあるが後にする。まず、一旦俺達はここを離れ保護対象を支部に連れて行く。遠野達はそのまま残る。その後、確認をした上でまたここに戻ってくる。いいか?」

「了解しました!」

「よし!じゃあ戻るぞ」


 海江田さんはウエストバッグから折り畳み式の専用布ケージを出し、手早く組み立てた。そしてまるで眠ってしまったかのような茶色の異界の生き物を、慎重にケージに入れる。


「そういえば、この異界の……えーと、こっちでの呼び名はあるんですか?」


 ケージの中を覗き込みながら聞く。猫より少し大きくて、まだらな茶色のカワウソみたいな見た目。あちこちに生傷が出来てる。手足が光って見えたのは長くて大きい爪のせいだろうか。


「ああ、恐らく鎌鼬だ。風に乗って人を斬るんだが傷から血は出ないっていう」


 カワウソじゃなくて鼬だった。


「今回は俺が持つよ。何かあった時にすぐ動けるようにしといてくれ」

「分かりました、ありがとうございます」


 その時、空気が膨らんだような気がして。


『ィィギ、ぎギィアアアア!!!』


 さっきまでぴくりともしていなかった鎌鼬の叫び声が、身体中に響いた。


「?! 離れろ!」

「っはい!」


 瞬時に距離を置く。ケージはガタガタと揺れ、途切れる事のない絶叫が辺りに木霊する。


「封が切れた訳じゃない……鎮静の効果が切れた?」


 冷静に状況を分析しながら、海江田さんはまた何枚か札を出す。

 周りの空気が乱暴に掻き回されてる。私までぐちゃぐちゃになりそう。早く、止めないと、……何か、来る?


 ──杏!

「海江田さん!」

「おわっ!」


 ドオォオオッッ!!


 咄嗟に海江田さんをひっつかんで飛び退る、そのすぐ側へ暴風と共に何かが突っ込んできた。


「ぉおっ……と」


 煽られて崩しかけた姿勢を戻し、着地する。風はすぐ止んだけど、辺り一面土煙に覆われて何も見えなくなってしまった。何が来た?


「……榊原、降ろしてくれ」

「……あっ!はい!」


 抱き抱えていた海江田さんを降ろしながら、その土色のもやの向こうに目を向ける。


『海江田さん、対象とてつさんがそちらに向かいました。気を付けて下さい』


「……それかは分からないが何か来たぞ。舞い上がった土埃で目視での確認が──」


 その時、急速に空気が膨らみ


「伏せろ!」

「ッ!」


破裂するように風が起こった。




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