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【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。  作者: 山法師
本編

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20 芽依が見たもの②

 移動がてら遠野とおのさんから芽依めいへ、改めてTSTIについての説明がされた。その際、


「信じ難いかも知れませんが、証拠を示すなら……美緒みおさん、良いですか?」

「はい」


 美緒が猫耳を出した。


「は?!」


 芽依が驚く。


「ちょっ、み……遠野さん?!」


 私も驚く。こんな人が多い場所で何を?!


あんずさん、大丈夫です。今、誰もこっちを見てません。あ、振り向く」


 そう言うと、美緒は人の耳になった。


「え?!……は?!」

「今ので信じて頂けますか?私は猫又なんです。それと華珠貴かずきも。大間おおまさんはいわゆるそういうものと接触した可能性が高いんです」


 驚く芽依に、美緒が説明する。


「……だから、杏も『信じる』って言ってくれたの……」


 納得したような、まだ驚きが上回っているような、そんな声で芽依は呟く。

 私はそんな二人のやりとりを見ながら、遠野さんのそばに寄る。


「あの、二人の事とか、支部長とか、もうちょっと詳しく聞いても良いですか?」

「ああいや、本当にその通りなんです。華珠貴さんが支部長に、てつさんと榊原さかきばらさんに会いたい、てつさんみたいに強くなりたい、と直談判したのが発端ですが」


 直談判……華珠貴、言ってはいたけれどまさか遠野さんを飛び越して支部長に言っていたとは。


「それを面白く思ってしまった支部長が、今回の調査に同行させてみようと。美緒さんは華珠貴さんを心配して同行させてくれと。それに、以前この辺りで暮らしていたそうです」

「でもそれも五十年くらい前なんですけどね。出来るだけお力になれればとは思ってますが」


 芽依と華珠貴とともに前を歩いていた美緒が、振り向いてそう言った。


「ごじゅ……?」

「五十?!」


 芽依と若干ハモりながら驚愕の声を上げる。いや、猫又だからそれも当たり前の数字なのかも知れないけど、その見た目で五十……。


「……うん、私の見たものがそういうものだって、なんとなく掴めてきました……」


 そう言うと、芽依は足を止めて前方を指し示す。


「場所はここです。ここから、その向こう……街頭三つ行ったくらいの所に、その変なものを見ました」


 芽依ははっきりとした口調で説明を始める。どうやら今ので、「そういうもの」を信じ始めたようだ。


「細かい場所や色味、大きさなどの具体的な事は言えますか?」

「えっと、場所は道路の真ん中で、最初見た時は小さく見えたから……多分小さめのスーツケースくらい、だったと思います。そこでなにかなって足を止めたら──」


 芽依の説明を聞きながら、私も指し示された方を見る。……?

 なんか、道路に何かがある、ような?


「──広げた羽……翼?は道路いっぱいまであったと思います。それはそのまま大きく羽ばたいて、前というよりは空へ向かって高く飛んでいきました」

「二車線道路いっぱいとはまた大きいですね。その時、他に何か見たり違和感を覚えたりはしましたか?」

「他、ですか」


 芽依と遠野さんの話を聞きながら、私は道路へ目を凝らす。やっぱりなにかある。でも、ものがあるというよりは名残?……掴めているような、そうでないような。見たものを上手く言葉に出来ない。


「杏さん、どうかしましたか?」

「美緒さん……いや、なんか変なものが見えてる気はするんですが、それがなんだか良く分からなくて」

「杏さん!てつさんは今日は一緒ではないのですか?てつさんに聞けば何か分かるかも!」


 華珠貴の声に、一瞬身を硬くする。


「あ、いや……いるにはいるんですが……」


 呟くように言いながら、芽依の方を見る。


「ああ、大間さんがいらっしゃるから、ですね。華珠貴、てつさんの話は今はやめましょう」


 美緒さんはそれだけで察してくれたようだ。華珠貴さんはいまいち分かってない感じだけど、美緒さんに従ってくれた。


 ──面倒くせぇなあ。分からないでもない気もするが、言っちまった方が楽じゃねえか?


 いやだって、どう思われるか考えちゃったんだもん。怖いと思ってしまったせいで、「話す事」の難易度はより上がっている。


「……あ、いやそうじゃなくて。遠野さん!芽依!その場所に何か……なんだかは良く分からないけど何かがあります」

「え?」

「何か、ですか」


 二人がこちらを向く。


「芽依が見たもの、ではないとは思うんですが、なんか名残みたいな……そういうものが……」


 やはり上手く言えない。もう、てつに出てきて貰った方が事が早く進むんだろうな。


「ふむ、近くに寄りたいですね。でも今はさすがに車が」

「はい!あたしそこまで行きます!人でなければ良いんでしょう?」


 華珠貴が元気に手を挙げた。


「猫になって近付くって?華珠貴、ちゃんと車への対処できるの?」

「そのくらい出来ます!多分!ここに来るまで美緒や遠野さんに教えて貰ったもの!」


 胸を張って言う華珠貴に、美緒は心配げな顔を向ける。


「そうですね、華珠貴さんの気持ちは有り難いですが……ぶっつけ本番の命のやりとりになりそうなので今回は見送りましょう」


 遠野さんの言葉に、不満げに頬を膨らませる華珠貴。


「でも……」

「もしまたそういう事があったら、その時はお願いします。次回に持ち越しですよ」


 それを聞いて、今度は目を輝かせる華珠貴。


「次回!また連れて行ってくれるんですか?!」

「ええ、最後までちゃんと仕事をこなせたら評価されますからね。それが次に繋がります」


 遠野さんはそう言って、簡易検査用のゴーグルをかける。


「なるほど、確かに何かありますね。痕跡というよりは別の……まさか」


 遠野さんは一瞬目を見開いたかと思うと、ジャケットのポケットから何か掴み出し、地面を滑らせるように投げた。


「ふっ!」


 それは車の間をすり抜け見事、()()()()その場所に当たり、弾けて光った。


「???」

「と、遠野さん?一体何を?」


 私と芽依はその一連の動作に目を丸くする。

 遠野さんはそれには応えず、そのまま左耳を押さえて喋り出した。


「モニター映っていましたか?捉えました?直ちに一帯に立ち入り制限を。それとこちらに増員を」


 耳から手を離すと、今度はこちらに向き直って話し出す。


「大間さん、今、不測の事態が起きる可能性が出て来ました。我々はその事態に備えますが、大間さんはここから離れてください」

「は、離れるってどこに……」


 話している間にどこからか警備員の様な人たちが現れ、周りの人達を誘導し始めた。


「この誘導に従って下さい。長時間にはならないと思いますが、一時間ほどはここには来れないようになるかと思います」

「杏は?一緒に行くんですか?」

「榊原さんは仕事なので残ります。良いですね?榊原さん」

「あ、はっはい!」


 遠野さんがこんなにスピーディーに動くなんて相当の事なんだろう。私は背筋を伸ばす。


「……そうですか。杏、無茶とかしないでね」

「うん、大丈夫!ありがとう」


 芽依が誘導の波に混ざっていくのを見送って、私は遠野さんに訊ねる。


「それで、遠野さんは何をしたんですか?」

「仮の『封』をしました。何かがあの場所に封印され、それが綻んでいます。榊原さんが見つけたのもその綻びから漏れた気配です」


 道を歩いていた人達誘導により居なくなり、車道も通行止めなどされたのか、走る車も居なくなった。


「だが、そんなに大層なもんが入ってるとも思えねえけどなぁ」


 人がいなくなったので、てつが声を出す。


「そうですね、私もそこまでの驚異は感じません」


 美緒も封をされた所を見ながら言って、華珠貴も頷く。


「この場合、驚異かどうかより『この場』に封印されている事が問題です。美緒さん、あなたの知っているこの土地は、あんなものはありましたか?」

「!……ありませんでしたね。なるほど、誰かが最近何かをあそこへ封じたと、そういう事ですか」

「そういう事です。TSTI(うち)でもこういう事は定期チェックをしているので、ここ一年の間に誰かが封じた事になります。しかもそれが報告されてないものとなると、警戒せざるを得ません」


 ごく最近人為的に行われた封印……。何を、何のために?


「増員が来るまで五分ほどです。それまで、何があっても良いように待機していて下さい」


 遠野さんの言葉で周りに緊張が走る。


「てつ、出て来てくれる?」

「おうよ……やっと外だ」


 てつは外にいた方が良い。単純に手数が増えるし、多分周りとのコミュニケーションもとりやすいだろうし。


「……おい、遠野」

「なんでしょうか?」

「封だか言っていたが……内から喰われてるぞ」

「?!」


 内から喰うとか。そんな事出来るの。

 そう思った瞬間、ガラスが割れるような音と共に封が破れ、そこから何かが吹き出した。




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