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化け物から人へ  作者: 朝風由紀奈
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裏切者

瀬那は、二人にそう言って「戸羽は?」と尋ねた。

今探していると伝えれば一緒に行くかと返ってきた。断る理由もないので、頷いて広い食堂内を見渡した。

戸羽は窓際の席で微睡んでいた。気持ちよさそうだ。

「戸羽兄ー」

「戸羽」

遠夜が戸羽に駆け寄り十夜は少し離れたところで声をかけた。んぁ、と目を開けた戸羽は二人を見ると嬉しそうに破顔して二人の元に向かった。

まず先に遠夜の両頬に口付けて十夜のところに行けば額に口付けた。

「おはよ。今日もいい天気だな」

「昨日は雨だったぞ、戸羽」

「んぁあ? そうだっけ」

相変わらずの記憶力のなさだが、いつもの事だったので二人は流す。戸羽は後ろの瀬那に気付くと片手をあげた。

スキンシップは家族限定にしろと長兄に言われているのだ。

じゃないと、勘違いする人もいるからと。なので、本当は瀬那の頬に口付けたくとも出来ないのだ。

「あ、戸羽兄。俺達も食事頼んでくるね」

「んー、行ってらー」

ひらひらと手を振り三人を見送る戸羽。

食事を頼み持ってくると戸羽は、座ったまま眠っていた。

「今飲んでるお薬がキツいのかな」

遠夜は心配そうに言ってトレーを机の上に静かに置いた。

「退院したばかりだしな。生活リズムが合わないのもあるんだろう」

瀬那の言葉にそんなものかなと遠夜は呟く。でも、前世でもこんな状態の時はあったからそうなのかもと思い始める。

席に座り朝食を食べながら瀬那は、戸羽の飲んでいる薬を確認した。前より明らかに量が増えている。

以前より身体の具合がよくないのか? そう考えれば食事の手は止まってしまう。

「瀬那兄さん、戸羽兄の身体の事考えてたら老けちゃうよ」

「そうだぞ。瀬那。老け瀬那になる」

双子の言葉に「なったら大変だな」と返しながら食事を再開した。十夜はすでに食べ終えていて遠夜にいたってはデザートも食べている。

最近遠夜の食事の量が増えてきているのが凄く喜ばしい。

三人は食事を終え、戸羽を起こす。

「んぁ……。朝か」

「二時間前から朝だよ、戸羽兄」

「んん、そうか」

ぐっと身体を伸ばし戸羽は、席を立った。鞄にくすり袋を詰めてふらふらと食堂の出入り口に向かっていく。

遠夜は慌てて戸羽のあとを追った。


授業を全て終えて遠夜達は、保健室に向かっていた。具合が悪いわけではない。

瀬那に会いに行くためだ。三階の教室から一階の保健室に移動する。

ドアを二回ノックして、中に入る。

「あれ。瀬那兄さんいない」

「本当だな。我が探してこようか?」

「うーん、待ってよう。戻ってくるかもしれないし」

十夜は頷いて、遠夜の手を引いて少し長めのソファに座った。まだかなまだかなとそわそわしている遠夜を見て十夜は明るくなったなと思った。

別に暗い性格では特になかった。ただ、どこか憂いを帯びていたのだ。

だから、こんな風に表情豊かになってる遠夜でずっといてほしい。なにかに怯えている遠夜に戻ってほしくない。

ガラッと保健室のドアが開いた。瀬那が戻ってきた。遠夜は瀬那の元に駆け寄ろうとして、足を止めて叫んだ。

「なんで、九重君がいるの?!」

瀬那の後ろには誰かいた。見たことない人だ。叫んだ――正確には叫ぶように言葉を放った遠夜に二人は戸惑っていた。

九重と呼ばれた人は遠夜と瀬那を交互に見やった。

そして、一言。

「俺らどっかで会った事あるん?」

九重の言葉に遠夜は唇を戦慄かせた。見たことのない怖い顔をしていた。

キツくキツく九重を睨む。まるで恨んでいるとばかりに。

その視線に九重は戸惑うばかりだ。

「そ、そんな怖い顔せんで? かわええ顔が台無しやで?」

「うるさいっ! 裏切者!」

「は……?」

裏切者と言われた瞬間、九重の表情がスッと抜け落ちた。瀬那の前を歩き遠夜の元に向かう。

ガッと遠夜の胸倉を掴み睨み返した。

「自分、誰と間違えてんのか分からんけど初対面で裏切者はないんやない?」

「俺が九重君の顔見間違うわけない! 離せ、泥棒!」

プツッとなにかが切れる音が聞こえた。

九重は手を振り上げ遠夜の頬を思いっ切り殴った。身長差や体格差で遠夜はよろけて床に尻もちをついた。

口端から血が流れ落ちる。

「やから! 意味わからんわ! なんで、俺の名前知っとるん?! ストーカーか!?」

「誰が貴方なんかをストーカーするの? するわけないでしょ?」

「なら、なんで知っとるか言えや!!」

そう遠夜に尋ねた九重は、遠夜を見た。遠夜は冷静になってきたのか顔を青ざめていた。

自分は今なにをしていた? つい、前世の人物を見て頭に血が上って叫んでしまった。

頬に手をやる。口の中が切れて痛い。ポタポタと処理しきれない思いが涙となり零れる。

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