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プロローグ

 日本屈指の不動産王・松葉雄星まつばゆうせい

 彼も長年働き、業績を最高レベルに保っていたが、80代も過ぎると死の恐怖に晒されていた。


 彼の子供は7人おり、長男は50歳、次男は40歳、長女は30歳、三男は20歳、次女は15歳、四男は10歳、三女は6歳になったばかりだった。


 彼らの年齢からも分かるように、正妻だけに留まらず、妾や使用人も子供を産み落としていた。


 世間は、彼のような人物ならば、多くの女性がいても不思議はないと納得していたが、それでも家族内では熾烈な競争が起こっていた。


 その熾烈な競争は、遺産相続の段階になると、更に激しさを増すように思えた。

 その為、彼は謎かけを用いて争わないように工夫をした。


『私が出す謎を解いた者に、最も大切な遺産を譲る』という遺言書だ。

 謎は手紙として書かれており、子供の誰も解く事ができなかった。

 全員が諦めかけていたところ、遂に最後の末娘にも謎を見る機会が与えられた。


 すると、彼女は数分で謎を解いてしまい、家族の度肝を抜いた。

 約束通り、不動産王が最も貴重と見た遺産は、6歳の三女に与えられる事になった。

 それから10年が経ち、彼女も高校生になっていた。


 それでも、普通の高校生ではない。

 父親が住んでいた街を良く知り、企業や組織を牛耳って、マネージメントする会社の経営者になっていた。


 彼女の持ち家はあるが、使用人はおらず、会社も彼女1人の職場だ。

 高校生活の片手間に、彼女は会社経営をひっそりと続けていた。

 そんな彼女の屋敷に、1人の若者が訪ねに来ていた。


「アミ、頼むから金を貸してくれ!

 俺は無職になって、生活費がないんだ!」


「四男のソシオか……、帰れ!

 私の靴を舐めてでも助けて欲しくなるまで、金は貸さないし、援助もしない。


 せいぜい地べたを這いずり回って、給料の良い仕事にありつくんだね!

 じゃあ、さようなら!」


「おい、実の兄が来たのに、インターホンでの対応だけというのは失礼じゃないか?

 せめて、1日分の生活費くらいよこせ!

 どうせ、親父の遺産があるだろうが!」


「ツー、ツー、ツー……」


「クッソ、インターホンを切りやがった!

 どうせ、腐る程金を持っているくせによ……。

 あのケチ女が!」


 アミという名前の少女が、女子高生がこの物語の主人公であり、あの謎を解いた6歳だった少女だ。

 一軒家に住み、一人暮らしをしている。


 訪ねて来たのは、彼女の兄で20歳になるソシオだ。

 彼は大して働かず、お父さんから貰った遺産も底を着いていた。

 今も無職で、家族から厄介者扱いされている。


 親族の全員に金をせびりに来たが、全員に追い返され、最後に残った妹の元へ来ていた。


 親父の遺産の事を知り、彼女のお金目当てに来たようだが、彼女も同じように門前払いを喰らわしていた。

 しばらくすると、家の前から消えて、どこかへ行ったらしい。


「ふー、あのバカ者め。

 親父の遺産は少ないながらも貰ったはずだ。

 それを数年で使い果たすとは……。


 本人が変わらない限りは、私が援助しても意味ないんだよ。

 せいぜい優しい雇い主を見つける事だね。


 まあ、高校も卒業していない奴じゃあ、雇ってくれるか分からないけど……。

 プライドが消え失せたり、やる気が少しでも出てくれば助けてあげれるのだが……」


 アミは、家の前を確認して、ソシオがいない事を確認する。

 そして、自分が通っている学校に自転車で登校して行った。

 街の人に明るく挨拶して、特売品などを教えてもらう。


「アミちゃん、今日は魚が特売だよ!

 サバやイワシが安いよ!」


「ありがとうございます!

 じゃあ、帰りに買いに行きます!」


 アミは、魚屋さんや野菜屋さんにそう告げながら、学校へ走って行く。

 近所の人の中には、彼女を知らない人も少しいた。


「明るくて良い子ですね。

 家族の教育がしっかりしているのでしょうか?」


「なんでも、良いとこのお嬢様らしい。

 ただ、彼女の母親はメイドだから、彼女のお兄さんが養っているらしいが……。


 お兄さんの家に働き詰めで、彼女の家には帰っていないそうだ。

 母親もいないのに、1人でしっかりしているよ……」


「ふーん、箱入り娘というわけでもないのか……。

 苦労していそうだな……」


 主人公の私こと松葉アミは、確かにお父さんから遺産を受け継いだ。

 しかし、お父さんからの遺産は、お金ではなかった。

 正式な遺産は全て上の兄弟姉妹に分配され、私には数千冊の本が残されていた。


 書籍収集家のお父さんには堪らないお宝なのだろうが、兄や姉にとってはゴミに等しい。

 私は、それら一冊一冊を大切にしていた。


 10年間のうちに読み終わり、知識としては蓄えられていた。

 その本の中には、ホンダの創業者の言葉や、ソロモン王の箴言、起業家などの教科書が含まれていた。


(まあ、この遺産を受け継いだのが私で良かったよ。

 他の兄達では、本気で古本屋に売られかねないからな……。

 お母様なんか、金にならない物を受け継いだとガッカリしていたっけ……。


 まあ、一番上のお兄様が事情を知っていたから、お母様を快く引き取ってくれたけどね。


 私の一番の味方は、やはり長男のカザル兄様かな。

 遺産の大半は、彼の物になったから、私の事なんて眼中にないし……。


 その他の兄弟姉妹は、順に遺産を分配させられて、四男のソシオ兄様も僅かながらに遺産を貰ったはずなんですけどね。


 母親に奪われたか、自分で使っちゃったか。

 いずれにしても、本人が働く気がないと助ける事も出来ないよ……)


 それでも、彼女は持ち前の才能と、父親の遺産を上手く使って、会社を興していた。

 彼女1人分ならば余裕があるくらいには稼いでいる。

 そんな彼女の元に、更なる問題が起ころうとしているのだった。

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