二十八話:最強勇者は平和に暮らしたい⑦
投稿が遅れて申し訳ございません!
たぶん今日中にもう一話更新すると思います!
氷の世界を、二人で歩いていく。周辺には兵士で出来た壁ができていて、なんだか、遊園地なんかにあるアーチを思い出させた。……想像してみると、レジャー系のテーマパークにこんなアーチあったら恐ろしすぎて二度と来たくない。
そんなくだらないことを思いながら、先ほどのヒョウゲツの言葉を思い返す。
強い光を持っている人間が、この先の小部屋に二人いる。それはおそらく、大鳳を含めた人数なのだろう。さすがに大鳳のようなチートめいた能力を持っている奴が、そんな人間に該当しないとは思えないからだ。
つまり、この先にもう一人いる。そしてそいつは、おそらくだが、少数との戦いを得意にするような性質があるのだろう。これまでの襲撃の傾向や、ハイチの傾向を見るに、おそらく間違いはない。
「こんな時になんだけど」
「ん?」
ヒョウゲツは、俺の手のひらを少し強く握りながら、そんな言葉を俺によこす。
前に向けられている瞳は、未来しか見ていない。なんだかそう感じられるような瞳だった。
「これ終わったら、どうしましょう」
「どうする……とは?」
「家が壊れちゃったでしょう? さすがにまたワイバーンを狩るわけにもいかないだろうし、木材とか買うお金、もう残ってないわよね?」
「ああ、そう言えばそうだな」
……でも、俺はそこに関してあまり深くなやんではいなかった。何故なら、この教会の最奥部――つまり大司教の部屋には、それはそれは貴重で文化的な価値がある品物や、金銀財宝の類が置かれているからだ。
何故知っているかと言われると、以前大司教の部屋に足を踏み入れたことがあるからだ。
仮に、大司教の部屋にその様な資産がなかったとしても、腕っぷしがあればどうにかなるのがこの世界だ。魔物の素材なりなんなりでお金を稼げば、家の再建はそう遠くない未来に達成できるはずである。
「ま、どうにかなるだろ」
「それもそうね」
静かに笑い合いながら、回廊を進んでいく。背景の氷の世界は、俺たちが過ぎた後には残っていない。魔力の供給を俺たちが切っているからだ。勿論、魔力を流し続ければ、この世界を継続させ続けることもできる――が、消費が馬鹿にならない。
まぁ、それは置いといて。
「……あー、なるほど。そう言うことか」
部屋の前にたどり着いた俺は、”そこ”に張り付いていた魔道具を見て、今の惨状を理解する。これは、解呪の作用がある魔道具だ。これで、俺のバフを解呪して、改めて洗脳をしたのだろう。
……よっぽどバフによる強化を警戒していたらしい。あるいはそれは、召喚勇者が無意識化でバフを成立させていた時の対策、という意味合いが強かったのだろう。
まぁ、それが功を奏したわけで。
「……つまらんなぁ」
「どうしたの?」
「いや、偶然とはいえ、俺がかけたバフが解除されたことがちょっと気にくわん」
「……いや、偶然ならしょうがないんじゃない?」
ヒョウゲツが何か正論めいたことを言っているようだが、俺の耳にはすでに聞こえない。そのまま、小部屋の扉をけ破るようにして開く。
おそらくここに、それなりに強い存在がいる事だろう。
「……け破るんじゃなかった」
「砂煙が立ち込めてどうしようもないわね」
ヒョウゲツは、髪の毛に砂がまとわりつかないように、風の結界を自らの周辺に展開しながらそういった。俺もそれにならって、風の結界を周辺に展開して、砂煙をしのぐ。
……にしてもおかしい。普通、ドアをけやぶっただけで、視界を十数秒も覆うほどの煙が立ち込めるものだろうか。それに――この量の砂煙は、まさしく異常であると言える。
この神殿には――これほどの砂煙が立つほどの砂が入り込むことは、入り組んでいる、という構造上あまりない。
つまり。
「……はぁ、厄介だな。成程、道理で部屋の中にいるわけだ」
「姿を隠して攻撃、ねぇ。なるほどどうして、閉所には適している技能よね」
飛来してくる矢を、つぶてを、魔法を、最低限の動きでよけながら、ヒョウゲツとそんなことを言い合う。
姿を見せない敵程厄介なものはなく、気配察知は砂煙でほぼ無効化されている。認識範囲は、俺を中心に、大体50cm程度、といったところだろうか。
それでもまぁ、この程度の速度の飛翔物なら避けることは簡単なのだが。
吹き矢を首を軽くかしげることで避け、どうするかをヒョウゲツと話し合う。
「……どうする?」
「そうね……。なら、こういうのはどうかしら」
何をするのか、とヒョウゲツのほうを見ると、その両手には魔法陣が紡がれていた。そこから読み取れる魔法は――。
「うわあ」
「何よ、これが最適解でしょう?」
「そうだけど、こう……うん……」
それは裏ワザというか、ナンセンスというか……とにかく、こんな状況を作り出した相手に、一種申し訳なさを感じる様な手段であった。
しかし、ヒョウゲツはそれを躊躇う気はないらしい。魔法陣に注ぐ魔力を更に多くしていき、そこに明確な殺意を持って、呪文を成す。
「一切、灰燼となれ――」
瞬間、俺とヒョウゲツを包む魔力障壁を作成し、今から来るであろう極大の衝撃波に備えた。
魔力は属性を成し、性質を備え――ついに、一切を爆散させる魔法となる。部屋の中の砂煙など、一切吹き飛んでしまうほどの威力。いや、破砕音が響いているところを見ると、部屋ごとぶっ壊れているかもしれない。
凄まじい豪風が吹き、俺たちの前に残っていた、最後の砂煙を払うと、そこには黒々とした夜空が広がっていた。
「さて、砂煙の向こうのお相手とご対面――なはずだけど。よもやお前たちだとはな」
「……」
「おい、何とか言えよ――天津、柊木」
砂煙が晴れた先。夜風が少々体に障りそうな空の下に、天津と柊木は、うつろな目をして立っていた。




