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二話:これは強くてニューゲームですか?――はい、これは前準備です。

「おお、お待ちしておりましたぞ勇者の皆々様……!」


 さも感動したような目で、俺たちを歓迎する老人。格好から見るに、神官の類だろうか。手に持っている神聖そうな杖や、体の所々につけているアクセサリー類がそういった雰囲気を醸し出している。

 周囲にはシスターが手を組んで膝をついており、まるで俺たちに祈りを捧げるような体勢だ。……どこかで見たことあるんだけどな何処だろうなー。多分ちょっと前に同じようなシチュエーションで召喚された時だと思うんだけどほんっとどこだろうねー。

 ……もうわかっている。これは勇者召喚だ。まぐれもなく勇者召喚だ。

 まぁ今回は、HR中のクラスメイトが全員召喚されている――つまり複数召喚であるところは違うんだけど。そこは割愛して。


「はるか遠い《チキュウ》から勝手にお招きしたこと、誠に申し訳なく思っております。私、正教会の大司教、アウドゥスと申します。以後お見知りおきを、勇者の皆々様」


 すぐに折れそうな腰をなおも折り曲げるアウドゥス某。……こいつに俺は見覚えがある。以前居た世界で司教をやっていたはずの男だ。当時はこんなに老けていなかったはず。

 つまりここは、かなり時間のたったあの世界――フォーランドだということか。……だとしたら、一点腑に落ちないところがある。……どうして俺達が呼ばれたか、だ。そもそも、勇者召喚というのは、魔物が蔓延っている時にしか成功しないというのに。

 俺がそんなことを考えていると、恐怖とか緊張とかで、クラスメイトにパニックが生じ始めていた。


「ここはどこだ!」

「ドラマの撮影にしちゃ質が悪いわよ!」

「俺たちを帰せ!」


 口々に騒ぐクラスメイト。俺はその中で、一種不自然なまでに冷静だった。当然だ、二度目となればもう慣れる。

 恐慌状態になりつつあるクラスメイトを見て、アウドゥスは柔和な笑みを浮かべながら、静かに、しかし大きく響く声を発した。


「――諸々を鑑みた上で、説明させていただきます。どうぞ、聞いてくださいませんかな?」


 アウドゥスの静かな声に正気を取り戻したのか、はたまた聞かないと何も始まらないと判断したのか、クラスメイトは静かになった。それを見渡したアウドゥスは、説明を始める。


「今日、このフォーランドには魔の軍勢がはびこっております……。以前は光の勇者様に退けていただいたのですが、力及ばず、魔を滅するに至りませんでした……」

「は?」


 思わず声が出てしまった。

 いや、俺はあの時確実に魔王をのして、魔物を殺して――なんかノリで魔王がいる島を灰燼に帰したはずだ。だというのに、なぜ魔物が……。


「……? どうかされましたかな、勇者殿?」

「……い、いえ。なんでもありません」


 では、話を戻しますぞ……と咳をしながら俺から目をそらすアウドゥス。

 いかんいかん。自重しないと。流石に前勇者とバレたらなんかまずい気がする。特にこの国の王女とか俺のこと滅茶苦茶嫌ってたし。なんか「勇者を虐げるべし」的なお触れを出しているに違いない。

 どうしようか……どうしようか……。いやマジでどうしよう……。


「――故に、魔物を全て殺すことができたなら、勇者の皆様方を送還魔法で元の世界へと送り届けましょう。是非、魔物をこの世界から滅ぼしてくだされ」


 そんなふうに考えているうちに、アウドゥスの話は終わったらしい。アウドゥスは次に、能力鑑定をさせようと、俺たちにステータスプレートを配布している。

 ああ、これ確か無意識隷属の魔術がかかってたんだっけ。一定以上の精神対抗値があると無効化されるんだけど……。あ、でも召喚されたばっかりだからある程度ステータスは低いんだっけ。


「ステータス」


 誰にも聞こえないようにボソリとつぶやくと、透明な板が俺の目の前に表示される。すべての能力は変わらずにそこにあり、俺は確実にレジストできることがわかった。……しかしクラスメイトはそうでもないだろう。

 さすがに、クラスメイトが奴隷のように扱われるのは忍びない。えっと、呪文は――こうだったか。


「エンチャント・マインドアップ。エンチャント・エフェクト:レジスト」


 精神対抗値を上昇させる付与魔法と、《精神耐性:良》を付与する魔法をかける。クラス全員に付与されたことを確認して、俺自身もステータスプレートを受け取る。


「どうも。……これからよろしくお願いします、アウドゥス殿」

「よろしくお願い致しますぞ。期待しております」


 ニッコリと笑うアウドゥスは、俺の正体に気がついていない様子だった。……まぁそれでもいい。とりあえず俺は、しばらくゆっくりとするつもりだし。協会、ひいては協会内で余計な波風を立てる理由もない。


「では、勇者の皆様にはこれからの方針を決めていただきます。ステータスプレートを参考に、ご自身の進む道をお選びください。無論相談に乗りますし、お仲間同士でしていただいても構いません」


 ……さて、じゃあ俺はとっとと王宮からトンズラしましょうかね。


「あの、俺は外に出てみようと思います」

「ほう、何故ですかな?」

「広く知見を得るためです。百聞は一見に如かず。聞くことよりも見ることの方が重要だという考えがあります。私もそうだと思うので、まずは体験してみようかと」

「……立派な心がけだと思いますぞ。して、どのような形で?」

「冒険者ギルドや、それに類する何かに所属しようと思います。先達から知識を学びながら、成長していこうかと」


 なるほど、とアウドゥスは満足げに頷く。適当並び立てただけだが、満足してくれたようでよかった。


「では、ギルドの登録料はこちらから出しましょう。そのほかにも何か欲しいものがあったら、正教会のものに伝えると良いですぞ」

「格別の御厚意、痛み入ります。ではお言葉に甘えて」


 シスターが差し出してくる布袋を受け取って、教会を後にする。……にしても、アウドゥスはボケたのだろうか。あれだけ近くで俺の顔を見たというのに、俺が元勇者であることに気付いていない様子だ。

 まぁいいか。

 ともかく、まずは何をしようかね……。

 この状況にか、はたまた俺の突飛な行動にか、呆然としているクラスメイトを傍目に教会から出た。

 今はまだ気づかれていないからいいものの、勇者として顔バレする可能性がある場所にいつまでもいられるか、俺は逃げるぞ――!


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