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鯊太郎のカタカナ語短編集  作者: 鯊太郎
20/21

ダブルブッキング

 東京の郊外にある、とあるマンション。

 これからここが、有らぬ修羅場と化すことなど、この時には誰も想像だにしていなかった・・・


 「ケンジ、テーブルにランチョンマット敷いてくれる?」

 「OKっ!」

 今日は彼女のマリが、俺の誕生日を祝ってくれるということで、夕方から二人でディナーの準備。

 メインディッシュは、彼女が得意なロールキャベツとアンチョビのサラダ。もちろん二人が大好きな白ワインも冷やしてある。


 俺はテーブルにナイフとフォークを並べると、小さなお皿に入れられたキャンドルに火を灯す。

 「一緒に暮らしたら、毎日こうやって夕食の時にはキャンドルを点けるんだ」

 ケンジの言葉に振り返るマリ。

 「綺麗ね・・・」

 「君の方がずっと可愛いよ」

 良いながらケンジはマリの腰に手を回す。反射的にマリもケンジの首に両腕を絡める。ケンジが腕に少し力を入れると、細いマリの身体が幾分仰け反る。

 互いに頭を傾け口づけを、と思ったところで、玄関のチャイムが鳴った。


 「放っておけば良いよ」

 唇を近づけるケンジ。

 「でも・・・」

 掌をそっとケンジの唇に添えるマリ。


 「宅急便かも知れないわ。見て来てくれる?・・・」

 そう言うと、マリは再び包丁でタマネギを刻み始めた。

 おあずけを食った形のケンジ。渋々と玄関のドアーを開ける。



 「げーーーっ、アスカ!・・・」

 「ケンジ、ハッピバースデイ!」

 ケンジの悲鳴とアスカの祝声とが同時に聞こえた。


 「アスカ、今日はちょっと・・・」

 「何言ってんのよ、この前飲んだとき、来週の土曜日俺の誕生日だからーって、ねだってきたのは貴方じゃない。ほら、ケンタッキーも買ってきたわよ」

 ケンジを押し退けるようにと、玄関へと入るアスカ。ふと目を下に向ける。

 そこには、当然マリが履いてきた女性用の黒いヒールが。

 「えっ、これってどういうことよ、ケンジ!」

 「だから、今日は駄目だって・・・」

 

 バタンっ、と扉が閉まる音。

 アスカはそのヒールを横へ蹴飛ばすと、自分のコインローハーを無造作に脱いだ。


 「だから駄目だって・・・」

 アスカの後ろで狼狽えるケンジ。

 アスカは奥のキッチンに向かって、わざと大きな声で吠える。

 「ケンジーっ、今日は二人っきりでたーぷり楽しみましょうねえ・・・」

 「アスカ~・・・」

 今にも泣き出しそうなケンジ。


 「ダンっ!」

 キッチンの方から、何やら大きな音が聞こえてきた。きっと、包丁をまな板に思い切り叩きつけたに違いない。

 廊下とキッチンとを仕切っている可愛いトトロの暖簾の中から、鬼のような形相のマリが現れる。その手には、包丁がしっかりと握られている。


 「マ、マリ~、 こ、これは・・・」

 今さら、とても言い訳が通じるような状況ではない。まさに史上最悪のダブルブッキングである。


 ところが、ケンジの意に反して二人は互いに黙ったまま向かい合っている。むしろこの場合、その方が余計に不気味でもあるが・・・


 「ちょっとこれ、どういうことよ?・・・」

 最初に口を開いたのは、アスカの方である。

 「どういうことって?・・・」

 マリはうつむき加減にアスカに答える。そればかりではない、マリは手にした包丁を後ろ手に隠した。


 (えっ、どういうこと?・・・)

 ケンジは相変わらずキョトンとしている。


 それでも、マリも言い返す。

 「アスカだって、どういうことよ?・・・」

 「どういうことって、そりゃあ・・・」


 (えっ、アスカって、それじゃあ二人は前から知り合いってこと?・・・)


 マリが甘えるように問いかける。

 「好きなのは、お前だけだよって言ったじゃない・・・」

 (へっ?・・・)

 「マリだって、男なんて汚いから嫌いって言ってたじゃないのよ・・・」

 (汚いって?・・・)


 「だってアスカ、この頃ちっともかまってくれないんだもの・・・」

 (こ、これって、どういうこと?・・・)

 「マリだって、全然会いに来てくれないじゃないか・・・」

 言いながら、アスカはマリの腰に手を回す。反射的にマリもアスカの首に両腕を絡める。アスカが腕に少し力を入れると、細いマリの身体が幾分仰け反る。

 (おいおいおい・・・)


 「一緒に暮らすって言ってた約束、忘れてない?・・・」

 マリが唇を近づける。

 「当たり前だろう・・・」

 (えーーーっ! 君たちは、もともとそう言う関係だったの?・・・)


 ケンジの前で二人が熱いキスを、と思ったところでケンジが一言ぼやく。

 「そっちでも、一緒に暮らそうっていう約束をしていたなんて。これこそまさに、究極のダブルブッキングだよね・・・」



【語彙】

ダブルブッキング:「二重の予約」を意味する言葉で、同じ日時の予定や予約が、同時に二つ以上重なることを指す。

つまりは、先約があったのに、それと重なる別の約束をしてしまったときなどに使われる。 

 


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