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鯊太郎のカタカナ語短編集  作者: 鯊太郎
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プロパガンダ

 『美しい国、日本!』 『一億総活躍社会!』

 幅2mも有ろうかという横断幕が掲げられた真新しい庁舎の中に、次々と職員達が吸い込まれて行く。

 その誰もがそこで襟を整え、幾分胸を張りながらその横断幕を見つめる。中には見上げながら一礼する者もいる。


 庁舎の中はその名の通り、ピカピカに磨き上げられた床には塵ひとつ落ちてはいない。職員はみな、掲げられたスローガンの実現に向け自分のデスクで黙々と仕事をこなしている。

 あたかもそれは、自分自身がその旗振りの先頭に立っているかのごとく、何の迷いもない目をしている。


 『美しい国、日本!』

 庁舎にある大きなオーロラビジョンがその文字を映し出す。

 今度は一面絨毯のように張られた芝生の上で、あの人気美人キャスターがにこやかに笑顔を振りまく姿がある。

 その背景には次々と日本各地の観光地が映し出され、最後に富士山のアップの中にまたあの文字がフェイドインしてくる。

 そこに映し出された人々は誰もが笑顔に溢れ、輝いているようである。


 続いてモニターには、この国の主の顔が・・・ 

 『一億総活躍社会の実現を目指して!』

 今度の映像は音声付きである。


 力強く拳を握りながら、その言葉を口にする。驚いたことに、その訴える主へと向かってたくさんの小さな子供達が駆け寄っていくのだ。よく見ると、子供達はみな様々な職業の服を着ている。

 スーツ姿のサラリーマンや、警察官、消防士、CAから保育士さん、はては白衣を着た科学者や宇宙飛行士の姿まである。その中には、その小さな手に銃を持った可愛らしい兵士の姿まである。

 主はこれらの子供達を満面の笑みで迎え、最後には皆で手を取り合う姿でモニターは終了する。

 

 これを見た人々は、みな誇らしげにその言葉を口にし、この国の将来に何の迷いもなく希望を抱く。


 ただ・・・


 ただ、この庁舎へと続く美しい緑の公園には、今日も薄汚れた身なりの労働者達が、黙々と穴を掘り、草木を植え、石を積み上げる仕事をしている姿がある。

 そしてその横では、それすら行うことができない人達のために、ボランティアによる温かな炊き出しが白い湯気を作っている・・・



【語彙】

プロパガンダ:ひとことで言うと、政治的な意味合いを持った宣伝行為のこと。

特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持っていて、通常情報戦、心理戦もしくは宣伝戦、世論戦と和訳されることもある。

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