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とある空想具現化能力者の空想

剣が振り下ろされる速度が、異様に遅い。


死は確定している。それはどうしようもない。そういう確信が僕の中にできてしまった。その確信を押しのけた具現化を、僕の空想は許さないだろう。


けれど死ぬには、もう少し時間がかかるようだ。

コンマ数秒の世界だけど、体感ではもう少しかかる。少しだけ暇に感じた。

感じたと同時に、これまでの人生をいろいろ思い出してきた。


走馬灯。そう、これは走馬灯というやつだろう。


生まれたときから、自分は両親の息子じゃないような気がしていた。

あるとき、「あなたは河原から拾ってきたの」と母が言った。

それは躾で使われる伝統的な方便でしかなかったのだが、僕は「ああやっぱりな」と思った。


ある日、家出をした。

自分の本当の両親を探しに行くためだった。

けれど、そんなところはなかった。

両親に見つけられて、迷惑そうに眉を寄せて「ほら、帰るよ」と言われた。それで終わりだった。


友達と喋っていても、自分だけ空気に溶け込めていないような感じがした。

なんとなく喋るのをやめてしまっても、誰もそれに気づかなかった。


就職活動は本当に大変だった。

というか、失敗した。


ニート引きこもりバイトを経て、結局入った先は、ものすごく分かりやすいブラック環境。

最低賃金ぶっちぎりで下回る給料でまともな研修も受けていないのに、営業をやらされて。

成績が悪いからといじめられて、教えてくれと言っても何もしてくれない。


疲れ果てて会社を無断欠席して、酒を飲んで歩き回って、

そして事故って死亡。


異世界転移してきてこの体たらく。


なんもない人生だったなあ。


ああ、そろそろ剣が体に達する。


その光景を見ながら、僕は思う。

これで終わりか。


きっと転移は偶発的なもので、これからまたさらに別の世界に転移するなんてことはないだろう。


ここから先はきっと絶無。天国やら地獄やらに行く可能性もあるけれど、なんとなくもうこれで終わりな気がする。


よくわからないまま事故で死ぬよりは、理不尽に殺されるほうがマシな死に方なのかもしれない。

短いけれど、ロスタイムとしては、気持ちの整理ができなくもなかったということか。


だから、もう逝こう。それで満足だろう、サトウケンイチよ。


……くそ、なんだこの感情は。


「満足なんてできるかよ」


口に出してはいない。口を動かすほどの時間はない。けれど確実にそれは声にでるほどの激しい怒りだ。


死にマシもくそもあるか。


突然、腹の底から黒々とした熱い感情が吹き上がる。

どこにこんな感情が隠れていたのかわからない。

きっと溜めこんでいたのだ。何も感じないふりをして。そうでなければ耐えられないから。


でも、もうそんな必要もなくなってしまった。だから、叫ぶ。


ここで、こんなところで、いきなり連れてこられて理不尽に終わるのか。


ふざけるな。


理不尽に対する怒り。憤り。


どうせ死ぬのだとしても、この感情をこの世界に刻まずに死ねるものか。


殺してやる。全部壊してやる。


目の前にいるやつらも、前の世界も、この世界も、神とかいうやつも、全部!


僕に――俺に理不尽チートを叩きつけてくるやつら全員ぶっ殺してやる。


死んでも殺す。今死ぬが、それでも殺す。


暗いイマジネーションが沸き上がる。


今俺は剣で首を切られている。そのコンマ数秒の間の出来事だ。


滅茶苦茶痛い。その痛みを全部、創造の糧にする。


想像しろ。この憎悪、怒り、憤激――それらを体現する機能と形。


理解させてやる、この俺の感情を。

破滅させてやる、この俺の感情で。

そして、そして――XXしてくれ、この俺のXXを。


再び首は舞った。その首が地に堕ちた瞬間、ソレは生まれる。


禍々しく湾曲した刀身は、血を求めるように輝き、

反骨心で揺らめく炎。それを思わせる波打つ。

グリップは、使い手さえ傷つけるほどに刺々しい。

ポケットに隠し持ち、不意に刺し殺す、弱者の刃。


<<空想具現化能力:バタフライナイフ・カースドが生成されました>>


名称:バタフライナイフ・カースド

種別:バタフライナイフ|(呪い)

性能:刃渡り13cm 重量666g

   硬度 Lv10|(象が乗っても折れない)

   鋭利さ Lv13|(骨をも貫く)

スキル:【血喰らい】血を浴びる度に性能が上昇する。

    【スレイヤー】使い手より敵が強大である場合、特殊スキル【必殺】を付与する。【必殺】の着いた攻撃は食らうと即死する。

    【精神汚染lv66】このアイテムを所有するものは精神汚染Lv66を受け、自らより強いものに対して殺人義務に駆られる。

    【呪い武器】この武器を手放せなくなる。



首が落ちると同時に、カランとそのナイフも地面に落ちた。

――待っていろ。かならず復讐してやる!

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